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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第448号

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ISASメールマガジン   第448号       【 発行日− 13.04.23 】
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★こんにちは、山本です。

 週末からGWだというのに、また寒気がやってきて長野でも雪が降ったりしました。(冬物を仕舞わずにいてセーフ?!)

 それでも、相模原キャンパスの木々は、若緑や赤に染まって新緑の季節の到来を告げています。今週からは、例年並みに戻るのでしょうか?

 今夏 打ち上げを予定しているイプシロンロケットへ掲載するメッセージの募集は、連休明けの5月7日(火)までです。希望者は、忘れず応募ください。

 「きみっしょん」の参加者募集が始まりましたが、ISASでは、「きみっしょん」のスタッフ募集が始まっています。

 今週は、宇宙飛翔工学研究系・月惑星探査プログラムグループの國中 均(くになか・ひとし)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:宇宙探査・探険
☆02:君が作る宇宙ミッション参加者募集(締切:6月3日(月))
☆03:イプシロンロケット応援メッセージ大募集(締切:5月7日(火))
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★01:宇宙探査・探険


天文観測、
超高層/磁気圏観測、
無重力利用、地表観測、
気象観測、
放送、
通信、
測位....

宇宙技術の使い方には、以上のようなものが挙げられると思います。
さしずめ前半が科学、後半が衛星利用となりましょうか。

技術が進歩・成熟し、今度は次の新しい分野が実施可能な範囲となって来ました。

地球を離れ太陽系宇宙に乗り出し、人類の活動領域を拡大させるとともに、地球に還元させる活動:「宇宙探査」(Space Exploration)と言います。

まずは、「何処に何があるのか」を調べるために、宇宙を探険することから始めるのです。宇宙探査は、宇宙にある資源の利用や居住が究極の目標ですが、その手前にもいろいろに応用できる場面があります。

人間が直接行うか、ロボットでやるか、それらは手段なのでどちらも「あり」です。ですがロボットが斥候で、後から人が行くのが、順当でしょう。
JAXAの「のぞみ」(火星)、「かぐや」(月)、「はやぶさ」(小惑星)、「あかつき」(金星)は、衛星ではなく探査機と呼びますね。「かぐや」や「はやぶさ」は先ほど述べたように、人間の行く前の斥候として、事前に探ってくるロボット探査の典型です。


 「かぐや」のリモートセンシング・データにはものすごい価値があります。
「月の何処に何があるのか?」、
「着陸しやすい平らな場所は?」、
「そこから興味のある地点まで陸路で進むために起伏の少ないルートは?」、
「太陽電池を動力源にするなら地形の起伏による日照時間は?」などなど。

これらの疑問に答えられるデータ群なのです。月の科学はもとより、将来考えられる資源探査や利用に向けて、日本の財産と言えるでしょう。他国も盛んに月のデータを集めていることも合点がいきます。正確な地図があれば、有利に宇宙探険を進められますから。


 「はやぶさ」は、小惑星分野における宇宙探査を世界に先陣を切って挑戦し、もっと早いサイクルで貴重なデータを先取するミッションをこなしました。

リモートセンシングにより、

小惑星イトカワの表面の鉱物種の分布や表面起伏を測定して、
すぐさま着陸点を決定し、
そして着陸→標本採取→離陸を実施、
なんとか地球帰還を果たし、
現在は物質分析が行われています。

すぐさま資源に利用するというほどまでには、たくさんの標本は持ち帰れませんでしたが、「小惑星サンプルリターン」という観測手法を世界で初めて確立しました。88万人の署名の入ったターゲットマーカーを、日の丸の旗の代わりに、日本の探査機がここにやってきた目印として表面に残して来ることもできました。


 小惑星に関しては、先日ロシアでチェリャビンスク隕石(直径17mと言われる)による被害がありました。もしももっと規模が大きければ、地球気候に変動をもたらして恐竜絶滅級の被害を彷彿とさせました。

小惑星衝突は、まさに自然災害です。これに対する予知と回避策が必要です。宇宙の観測網を充実させればより小さな小惑星の軌道が特定できて、地球への接近や衝突の予測が可能になるでしょう。

さらに進めて、衝突の可能性のある小惑星の軌道を変えてしまうといった地球防衛も考えられます。

またこれに関連のある話題として、米国オバマ大統領が提唱する「小惑星有人探査」に呼応するように、10m級小惑星を捕獲して、月周回軌道に投入して、宇宙飛行士による標本採取を行うミッション(NASA Asteroid Initiative)がつい最近、米国にて提案されました。

これらを実行するに当たっては、小惑星に対する詳細な知識が不可欠です。特に10mとか100mとか、宇宙規模からするとたいへんに小さな小惑星がその対象範囲となります。

「はやぶさ」が到達した小惑星イトカワは直径500mで、人類が間近で詳細観測したもっとも微小な天体です。日本は、他国に先んじて微小小惑星への往復能力と知識を有していると言えます。経験や知見において優位性があるのです。


 この日本先取のトレンドを維持・発展させるため、「はやぶさ2」が現在開発中であり、小惑星1999JU3からの標本採取を目指しています。

私はこのミッションに3つの大きな意義があると考えています。

一つ目は、この目標小惑星は、S型イトカワとは異なる組成のC型であり、水や有機物を含む可能性が指摘されています。標本を直接分析して、太陽系宇宙の生い立ちや生命の起源に肉薄できれば“宇宙科学”に前進させるでしょう。

二つ目は、「はやぶさ」ではたくさんの故障を起こしましたが、それを克服してより完全な探査機を実現させるという“宇宙工学”上の目標があります。

三つ目には、“宇宙探査”の意味合いにあって、日本が地球〜小惑星間を往来する独自能力を永続的に保有することです。

日本の国力からして、全領域で宇宙探査を実施することはできませんが、少なくとも日本が先鞭を付けた「小惑星サンプルリターン法」を維持発展させるべきと考えます。

探査技術とそれによりもたらされる知見は日本の財産であり、国際社会への存在感(presence)の証です。その知識を地球防衛や小惑星有人探査などに還元して世界協働宇宙活動に貢献しつつ、もっと先の将来の小惑星資源利用を射程範囲とすれば、日本の独自性や利益を保ちながら世界から一目を置かれ尊敬を得られる立場になるはずです。


(國中 均、くになか・ひとし)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※