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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第447号

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ISASメールマガジン   第447号       【 発行日− 13.04.16 】
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★こんにちは、山本です。

 4月恒例の宇宙科学講演と映画の会も無事終了しました。
新入職員の研修もソロソロ大詰めでしょうか、配属先が発表されると新年度が本格的に動き出します。

 暫くイベントやトピックが少なくて、メルマガの構成に苦労しましたが、最近のように次々と発表されると、コレがまた悩みの種です。

 忘れてはイケナイことが
4月1日付けで就任した 所長(常田佐久)挨拶は以下のページです。
http://www.isas.jaxa.jp/j/about/director/index.shtml

 今週は、宇宙飛翔工学研究系の川勝康弘(かわかつ・やすひろ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:アクロニム、バクロニム、ワカラニム
☆02:「ケプラーの超新星爆発」は金属を多く含む星の爆発だった
☆03:「超広角コンプトンカメラの研究」「IKAROSによるソーラー電力セイルの実証に関する研究」が、文部科学大臣表彰を受賞
☆04:星の王子さまに会いにいきませんか ミリオンキャンペーン2
☆05:イプシロンロケット応援メッセージ大募集
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★01:アクロニム、バクロニム、ワカラニム


いよいよイプシロンの打ち上げが迫ってきました。

今夏、打ち上げる初号機に搭載される衛星は、少し前に吉岡さんから紹介のあった惑星分光観測衛星、そのコード名(英文略称)は「SPRINT-A」といいます。名前のとおり全力疾走でミッションを果たしてもらえればと期待しています。


今日は、このようなコード名の話をしたいと思います。

科学衛星のコード名の多くは、そのミッションの分野に因みます。
天文観測はASTROシリーズ、
惑星探査はPLANETシリーズ、
太陽観測はSOLARシリーズ。
それぞれのシリーズの中で順にA、B、C、・・と符号が振られます。
「あかつき」はPLANET-C、
「ひので」はSOLAR-B、
開発中のX線天文衛星はASTRO-Hです。


工学実験は少しひねってMUSESシリーズ。
このMUSESは“Mu Space Engineering Spacecraft”の頭文字を連ねた略号で「ミュー・ロケットで打ち上げる工学実験探査機」の意味。MUSESシリーズの3番目MUSES-Cが、のちの「はやぶさ」です。
一方、“Muses”という単語自体にも意味があり、ギリシャ神話における音楽・舞踏などをつかさどる女神たちの名前になっています。


ウィキペディアによれば、このように連ねたアルファベットを通常の単語と同じように発音して読むものをアクロニム(acronym)と呼ぶそうで、とくに、あらかじめ好ましい意味を持ったアクロニムを思い浮かべながら、それを構成する単語を設定したものをバクロニム(back + acronym = backronym)と呼ぶそうです。


たとえば数々のギネス記録を打ち立てたソーラ電力セイル実証機IKAROS。
これは
“Interplanetary Kite-craft Accelerated by Radiation Of the Sun”
の略で、川口先生の発案。もちろん、蝋の羽根で太陽を目指したギリシャ神話の登場人物、イカロスにちなんだ名前です。

バクロニムを作るのが上手なのは、ISASから愛知工科大学に移られた中谷先生(宇宙ロボティクス)。

搭載機器の小型化・高性能化を目指すSTRAIGHT計画
(STudy on the Reduction of Advanced Instrument weiGHT)、

はやぶさに搭載された小型ローバMINERVA
(MIcro/Nano Experimental Robot Vehicle for Asteroid)
などは中谷先生の命名です。

月周回衛星SELENE(かぐや)の開発中の話ですが、将来の月着陸ミッションで必要となる画像航法技術の実験のプランが持ち上がったことがあります。すでにバクロニムの才能が広く知られていた中谷先生(検討グループのリーダでもありました)に、実験ミッションの命名をお願いしたところ、ほどなく名称案を3つも準備いただけました。
満場一致で選ばれたのは「PRINCE」
(PRocessing of Image for Navigation and Control Experiment)。
「SELENEのPRINCE」なんて、かっこ良すぎですし、単語列の意味もぴったり。さすが、という感じでした。


バクロニムなのか、ただのアクロニムなのか、微妙な例もありますね。頭文字を連ねて単語になっているのですが、どのへんに良さがあるのかがわかりにくい例(通称ワカラニム。これは私の造語)。

ヨーロッパ宇宙機関(ESA)が計画している大型の木星探査計画があります。昔はLaplaceというかっこいい名前だったのですが、いくつかの計画変更を経て、
今の名前はJUICE(JUpiter ICy moon Explorer)。
う〜む、ワカラニム。
ESAの同業者とは学会でいつも会うので仲が良いのですが、この名前が決まった直後の学会で
「キミんとこのミッション、いい名前に変わったね。オレンジだっけ、アップルだっけ?」
「JUICEだよ。みんなに茶化されるんだよ。」
なんて会話を交わしていました。


私が今、小型科学衛星3号機への提案を目指して仲間と検討を進めているのは、将来の深宇宙探査に必要な先端技術の実験・実証を目指すミッションです。
コード名はDESTINY
(Demonstration and Experiment of Space Technology for INterplanetary voYage)。
私にとっては自慢のバクロニムなので、学会などで紹介の機会があるたびに「DESTINYは何の略か」をいちいち説明するのですが、仲間達にとってはそれほどでもないようで
「詳細は省略しますがDESTINY」とか、
ひどい時には「何の略だったか忘れましたがDESTINY」などと言われています。

でも、それでいいんですよね。DESTINYさえ覚えてもらえれば良いので。


さて、昨秋、学際科学研究系の松崎先生と昼食をご一緒した時の会話。

 松崎さん「川勝さんのやってるミッション。DENSITYだっけ?」
 私   「....。」
     (DENSITY(密度)じゃワカラニムだろ!!)


DESTINYだけでも正しく覚えてもらえれば良いのですが。


(川勝康弘、かわかつ・やすひろ)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※