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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第446号

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ISASメールマガジン   第446号       【 発行日− 13.04.09 】
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★こんにちは、山本です。

 週末から日本各地に被害をもたらした低気圧、皆さんのお住まいの地域は大きな被害は無かったでしょうか

 相模原では、恒例の「相模原市民桜まつり」が開催され、土・日の2日間で40万人が来場されたそうです。
 モチロン銀河連邦各国も参加して大いに盛り上がっていました。

 先週号で紹介した14日(日)の『「ひてん」月到達20周年記念講演会』は、早々に定員に達したため別室で講演の中継映像を流す予定です。

 今週は、宇宙機応用工学研究系、総合研究大学院大学兼務の曽根理嗣(そね・よしつぐ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:宇宙の電池屋 ー ムーミン谷の朝 ー
☆02:ブラックホールに落ち込む最後の1/100秒の解明へ
☆03:宇宙科学講演と映画の会【新宿区四谷区民ホール】4月13日(土)
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★01:宇宙の電池屋 ー ムーミン谷の朝 ー


その朝、僕は、涙の中で目を覚ました。

なんてことをしたのだろう。
よりによって、なんでこんな選択をしたのか。
自分で選んだ道ではあるけれど、つくづく自分が情けない。

一人ぼっちになってしまった事への後悔。

さみしい。

相談をした皆から言われた。
「なんで、そんなことするの?」
でも、僕は、決心してしまったのだった。

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ううう、さみぃ〜。

その朝、僕は、ストックホルムにいた。

「転がる石に、苔つかず。」
僕は、米国流の解釈が好きだった。

多くの人に反対された上ではあったけれど、僕は、意を決して、留学していた。

選んだ先は、ストックホルムにある Kungliga Tekniska Hoegskolan(KTH)と呼ばれる大学だった。英語名は、Royal Institute of Technology。日本語名は、スウェーデン王立工科大学。(王立か〜。「オネアミスの翼」みたいでかっこいいな〜。ついでに王立宇宙軍なんて無いのかな〜。シロツグ・ラーラットも、こんなところで勉強したのかな〜)

当時、僕が所属していた大学院はKTHと協定を結んでいて、1年間は留年なしで留学ができるシステムがあった。

留学前に、友人達から言われた言葉は、
「何で、そんなことするの?」
だった。

「さみしい」

向こう見ずな僕は、ストックホルムに着いてから、友人達の言葉をかみしめることになった。

当たり前だけれど、周りはスウェーデン語を話す。僕が留学前に覚えたスウェーデン語は、乏しかった。英語に堪能なスウェーデン人は、皆、僕と話すときだけ、英語にしてくれたけど、日常会話には入り込めない。

孤独は満ちる潮のように、僕の心を満たしていった。
「ああ〜、ここは外国なんだ。一年後の今日まで、僕は日本に帰れないんだ。」
スウェーデンの空は淡いブルー。眺めて飛行機雲を見つけると、しみじみと泣けた。

そして一年後、僕は成田に居た。

僕は、自分で言うのは何だけど、大きなものをつかんで帰ってきていた。このときの研究が、今の僕の燃料電池の設計における礎だ。そして、友人達。今も、僕の良き指導者である研究者達。かけがえのない物を、一生分の財産をしょって、僕は博士論文をまとめながら、宇宙開発事業団に願書を出した。

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さて皆さん、あまり知られていないかも知れませんが、宇宙科学研究所で勉強することができます。宇宙研の教員達は、ほとんどが東京大学大学院か、総合研究大学院大学(通称、総研大:ソウケンダイと読みます)を兼務しています。私が兼務するのは総研大。

「え?曽根さん、授業、やるの?」

大学院の後輩と、学会で会ったときなど、時々こんな質問を受けます。

はい、授業をやります。例えば僕の授業は、・・そう差し詰め、
「探査機の生き残りを懸けた電池運用とその背景知識」とか、
「宇宙分野の大学院生に、どうしても知っておいて欲しい化学」
といったところでしょうか・・。

総研大は国内の研究所や博物館(基盤機関と呼ばれます)から構成される大学院大学で、学生は博士課程(5年一貫制博士課程)に入学し、基盤機関の研究者から指導をうけ、専攻分野を学びます。

僕達は、この総研大 物理科学研究科 宇宙科学専攻の教員として、総研大に所属していますが、この総研大では、学生達に広く世界に目を向け国際感を身につけてもらうこと、また海外の学生達に総研大の先進的な科学研究を紹介することなどを目的とし、物理科学研究科の5専攻(核融合科学専攻・機能分子科学専攻・構造分子科学専攻・天文科学専攻・宇宙科学専攻)が連携して「総研大アジア冬の学校」を、毎年、開催しています。

新しいウィンドウが開きます http://www.isas.jaxa.jp/sokendai/winter_school/2012/index_j.html


2005年度以降、宇宙科学専攻では毎年20人前後のアジアの学生を招いてきました。「色々な国の人、色々な大学の研究者との交流をもつことの大切さ」こそが、僕が学生時代を通じて肌身をもって感じたことでした。前任者の山村一誠准教授から指導を頂きながら事務局の手伝いをさせて頂けるお話が来たとき、迷わずお引き受けしました。

身内ながら申し上げますが、この行事の継続ができているのは、総研大の本部の理解ももちろんですが、事務局を続けてこられている大学院係の皆さんの努力に依るところが大きいです。

アジアの多くの国はイスラム文化を持っており、食べるものから配慮が必要です。各国の学生達の入国に対する手続きを含めて、本当に細かな配慮が必要であり、お手伝いをしながら、私などは戸惑うばかりです。


さて今年は、5専攻共通のテーマに「世界を眺める新しい目」を設定し、また宇宙科学専攻では個別テーマとして
「Eyes to explore the space horizon(宇宙の果てを探求する目)」
を掲げ、アジア各国から17名の学外参加者(国外参加者15名、国内参加者2名)を受け入れ、2013年2月5日から7日まで、相模原キャンパスにて開催しました。

昨年、同じくアジア冬の学校の事務局をお手伝いしたとき、帰路につく直前の学生達に、僕の気持ちを伝えました。
(下手な英語ですが・・、たぶんそこかしこ文法も間違っていますが・・)

Please encourage yourself to study abroad.
Studying abroad is very hard work. I myself know it.
But, I still encourage you to study abroad.
You can get much more information, if you study things using your mother language. Yes, it is true, of course.
However, you will get very much experience which is always backing you up.
I thank you very much for your coming to Japan and joining our Sokendai Winter School.
See you again, some time, somewhere.

僕は、敢えて、学生達に言いたい。
「旅をせよ!」

考え方は、色々あるだろうと思います。もちろん、自国語で勉強する方が効率は良いに決まっているし、多くの分野において日本は世界の最先端です。わざわざ外国に行かなくても立派な研究はできます。充分な下調べをしたつもりでも、行ってみたら話が違うこともあり得ます。でも、留学先で得られた友人と、研究者として身につく自信は、少なくとも僕には何にも換えがたい財産であり、今も僕を支えるバックボーンで有り続けています。

今年の参加者17人(うち2名が日本人)は、皆さん、とても「元気」でした。参加者には、各自の研究紹介も頂いています。それぞれの興味に沿って、宇宙実験、通信、自作の人工衛星、宇宙観について力のこもったものが多く、様々な背景を持った方々が参加しているだけに、多岐にわたり熱くかつ誠実なディスカッションが繰りひろげられました。

三日間という短期間ではありましたが、帰りのバスを前に、皆、肩を組み、まるでフットボールのチームが勝利した後のような興奮ぶりを見せていました。

彼らの人生に、また彼らと出会った日本の学生達に、何かのインスピレーションを残して、世界に羽ばたく研究者になってくれることを祈って見送りました。

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日曜日の、温かい日だまりの中、僕は、まどろんでいた。

「ねえ、ムーミン。そろそろ起きなよ。」
「ねえ、ムーミンってば。いい天気だよ。」

(返事をしたら、負けだ。)

確か君は、結婚した頃、僕のことは「ダーリン」とよんでいた。
確かに、僕は、宇宙飛行士の試験が終わってから、太った。

でも、それはそうとして、兎にも角にも、だ。
「ダーリン」と「ムーミン」は、微妙に韻を踏んでいるけれど、全く違う。
僕は、絶対に、断固として認めないし、返事はしない。

「こむぎ〜、お父さんに向かって〜〜〜〜〜、GO!」
「バフ!(たぶん、『オッケー(ハートマーク)!』の意味)」
僕は、愛犬「こむぎ」にベロベロにされて、さわやかな朝を迎えた。

出かける予定があった。
駅に着いたとき、そこには熊本を宣伝するポスターが貼られていた。
ポスターの中で佇むのは、熊本出身の、あの有名なキャラクター。
振り返り、微笑みと共に、何かを言いたげな妻の唇。
その妻の唇が動き出すのを、微笑みと目線で遮る、僕。
夫婦には、時として言葉の要らない時間がある。

この人生の、一つの岐路は、ストックホルム。

ヤー・エルスカ・スベリゲ。


(曽根理嗣、そね・よしつぐ)


追伸:
ムーミンはスウェーデン語で書かれた小説だと聞いていますが、フィンランドが故郷のはず。なお、私の出身は静岡県です。

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※