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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第445号

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ISASメールマガジン   第445号       【 発行日− 13.04.02 】
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★こんにちは、山本です。

 週末が寒かったので4月までサクラが持ちました。
昨日は、研究・管理棟入口のサクラの前で見学の人たちが記念写真を撮っていました。
(今日の雨で今年の花見も終了でしょうか)

 サクラ吹雪の中、新年度が始まりました。JAXA第3期中期計画の初年度です。
1日は新理事長の就任挨拶がありました。
明日は、ISAS新所長の就任挨拶があります。

 これからも、ISAS/JAXAを盛り上げて行くためにガンバリますか

 14日の「ひてん」の講演会は、募集人員が少ないので、メルマガを読んで応募される方が間に合うでしょうか?

 そこが気がかりです。

 今週は、はやぶさプロジェクトチームの石橋之宏(いしばし・ゆきひろ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:はやぶさが届けた小惑星イトカワの試料の保管容器
☆02:星の王子さまに会いにいきませんかミリオンキャンペーン2
☆03:「ひてん」月到達20周年記念講演会 4月14日(日)
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★01:はやぶさが届けた小惑星イトカワの試料の保管容器

 はやぶさが地球に帰ってきてから3度目の春を迎えました。はやぶさが私たちに届けてくれた小惑星イトカワの試料はそれを収納した容器と一緒に、惑星物質試料受入設備(以下、キュレーション設備)にあるクリーンチャンバーの中にあり、塵が無い高純度な窒素ガスの雰囲気下で保管されています。そして容器からの試料の回収は今も続いています。

これまでに発見されたイトカワ試料のほとんどは0.1mmより小さく、肉眼で見ることは残念ながら難しいです。0.01mmより大きな試料は複数の顕微鏡カメラが撮る画像を見ながら、静電マニピュレータという装置を使って1つずつ手作業で回収しています。この方法でこれまでに400個以上の試料を回収できました。そしてそれらの一部は初期分析や国際公募研究に貸し出され、新しい発見が続々と報告されています。


 小さな試料を分析する際には、試料から得られるわずかなシグナルを読み取ることと、そのシグナルに紛れ込むノイズや誤差を減らすことの双方が重要です。もし仮に試料の表面に試料以外の物質があって、これをまとめて分析してしまうと、その分析値は真の値から外れてしまいます。

イトカワ試料に対しては、はやぶさが採取した時の状態をできるだけ保つように、あらゆるところに細心の注意を払っていますが、これは限られたわずかな試料から最大限の科学的成果を得ることにも通じます。


 試料を汚さないようにするために、試料が触れる器具類にも注意を払っています。今回は回収した試料を保管する容器を紹介します。

この容器は手のひらに乗る程度の大きさであり、アルミニウム製のふた付きケースの中に合成石英製の板が固定されています。板には番号と試料を置く位置を示す碁盤の目が刻まれています。それを目安にして0.01mmより大きな試料を静電マニピュレータによって板の上に置きます。この作業は同じクリーンチャンバーの中で行います。


 保管容器の材質は重要なポイントです。アルミニウムははやぶさの試料回収容器の内壁に使われている、試料が触れたことがある材質です。そして合成石英は試料に与える影響を低く抑えることができるため、試料が直接触れることを許した数少ない材質の一つです。

純度が高い材料を得られること、その表面をきれいに洗浄できること、そして万が一その破片が試料に混入しても分別できることがその理由です。また、石英は透明なので試料に光を透かす観察も可能になる利点があります。


 保管容器の洗浄方法も私たちが考えました。洗浄によって表面から取り除きたい不純物は、本物の試料と見間違えて紛らわしい粒子、分析値に対して影響を与える金属元素や有機物、イオンなどです。これら多くの種類の物質を除去するためには複数の方法を組み合わせるのが効果的です。


 キュレーション設備には洗浄作業を行う専用の部屋と10種類以上の洗浄関連装置があります。

超純水や有機溶媒を利用した超音波洗浄、
窒素ガスやドライアイス、プラズマ粒子などを吹きつけて表面にある汚れをはぎ取る洗浄、
紫外線やオゾンを照射して有機物を分解する方法、
高温に加熱して表面にある汚れを脱離したり分解除去する方法

などを行うことができます。

洗浄する器具の材質や形、その他の条件に応じて最適な方法を使い分けています。また、例えばここで使う水にも気を付けています。水洗いをして乾燥させると、その水に含まれていた不純物が表面に残ってしまいます。このためあらかじめ不純物をできる限り取り除いた超純水を使用します。


 保管容器に対しては、はじめにアルコール類を使った超音波洗浄で油脂汚れなどの有機物を落とした後、超純水を使った超音波洗浄を異なる3つの周波数帯で行い、粒子金属元素、イオン等を除去します。

その後合成石英の板だけはさらに、強アルカリそして強酸の溶液に浸して加熱した後、超純水ですすいで乾燥して仕上げます。この一連の洗浄を全て終えるのに3日以上かかります。


 洗浄した合成石英の板の表面に残っている不純物の量を、半導体ウェハに対する分析方法を利用して調べました。その結果この方法で洗浄した板はきれいであり、そこに試料をのせても試料をほとんど汚さない(試料分析結果に影響を与えない)とわかりました。

例えば有機物は、1平方センチあたり10億分の1g以下(国立競技場のサッカーグラウンドと同じ面積に広げても0.1g以下!)にまで落とすことができています。

しかし、私たちはこの保管容器をもっときれいにする方法を今も考えています。技術の進歩によって試料分析の感度や精度が向上すると、求められる試料の清浄度はそれに応じて高くなります。1つ1つに個性があって代わりがきかないイトカワ試料をそのままの状態に保つために、保管容器の洗浄方法も常に最高をめざしたいと考えています。


 最後に、私たちが開発したこの洗浄技術が地球外の試料を扱う分野に限らず、広く世の中で役に立つことができれば嬉しいです。ここで紹介した洗浄技術は多くの分野の知見を集めた結晶です。少なくともお世話になった分のお返しができればと考えています。

まず今年は「はやぶさ2」の試料回収容器などの部品を洗浄する予定です。限られた条件の下ではありますが、できるだけ清浄にして探査対象小惑星へ向けて送り出したいと考えています。

(石橋之宏、いしばし・ゆきひろ)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※