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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第442号

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ISASメールマガジン   第442号       【 発行日− 13.03.12 】
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★こんにちは、山本です。

 11日、相模原と町田は
「ライトダウンキャンペーン・明かりを落として星を見よう」の当日でした。
街の灯りが少なければ、普段は見えにくいチョット暗い星も見えたでしょうか?

 私はキャンペーンの時間中には「町田・相模原」以外の場所に居たのですが、自分の周りを少しライトダウンしてキャンペーンに参加しました。
 話は変わりますが、先日、「町田」を散策するTV番組を見ていたら、何だか見慣れた場所が……
 ナント相模原キャンパスを見学していました。

 町田から淵野辺まで歩くのはチョット大変だし、それよりも相模原キャンパスは町田じゃない

 と、TVを見ていた全員でツッコンでしまいました。

*3月19日(火)〜20日(水祝)は、キャンパス内での作業に伴い通行制限が行われるため、ロケット付近の見学ができません。
 見学予定のある方は、ご注意ください。

 今週は、科学衛星運用・データ利用センターの長木明成(ちょうき・あきなり)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:なくてはならないものたち
☆02:宇宙科学講演と映画の会【新宿区四谷区民ホール】4月13日(土)
☆03:西田篤弘名誉教授インタビュー「宇宙科学者としての50年」
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★01:なくてはならないものたち

 今、私は「科学衛星運用・データ利用センター」という部署で科学衛星や探査機の「運用」、つまり衛星たちに対してコマンドを送ることであらかじめ考えていたように動かしたり、衛星たちから送られてきたデータを加工して人間が読めるような形にしたりすること、をサポートする業務に携わっています。サポート、というといまいち地味な業務に聞こえるかもしれませんが、聞こえるだけではなくて実際に地味な活動だったりもします。

私自身を振り返ってみると、どうもサポートを旨とする地味な部署を渡り歩いているなあ、という印象を持っていて、そんな私が日頃何となく感じていることを、今回は文章にしてみたいと思います。


 「なくてはならないものなのに、なくなるまで気がつかない」といったものは身の回りに意外とあるかと思います。
「蛇口をひねっても水が出ない」
「スイッチを入れても灯りがつかない」
など、トラブルの時に気づかされることも少なくありません。
こういったサービスは何らかの循環のなかで成り立っていることが多く、その循環には見えない誰かの支えが大きく貢献しています。

「去る者日々に疎し」ではありませんが、残念ながら人間は「見えていないものはないもの」と考えるもので、それは「あったものがなくなることによる心身のダメージ」を緩和するようにできている、とも言えるでしょうか。


 宇宙活動においても、この「なくてはならないものなのに、なくなるまで気がつかない」という法則は成り立っています。

宇宙という場所は人間にとって非常に厳しく、「想定外」をいくらでも生み出すところで、そこに非力な人間たちが立ち向かうためには「その法則」をどれだけ打ち消せるか、が重要になってきます。気がつかないままに抜け落ちたものが大きな仇となって襲いかかってくる、ということは過去のプロジェクトで何度もあったことです。

トラブルが多いからと気をつけていたところは全く問題なく、今までうまく行っていたところが注意不足でトラブルを生む、なんてことも普通に起こります。


 衛星の打上げはロケットの打上げでもあり、非常に華々しく心躍るものですし、打ち上げた衛星や探査機が送ってくる美しい画像や未知の惑星の映像などは様々な形で想像力をかき立てます。地球に帰ってきた探査機は「はやぶさ」だけですが、帰還シーンを思い出すだけで胸が熱くなります。

しかしその裏では、「なくてはならないものたち」がただひたすらにその表舞台を支え、何かを言うこともなく黙々とその使命を果たし続けています。


 打上げまでには、衛星やロケットの組み立てにおいて細かい作業を地道にこなし、どうすれば満足するものができるか悩み抜きながら、そのすべてを尽くして挑む多くの人たちがいます。

送られてくるすばらしい映像は、そのような映像が撮れるよう衛星を動かすために、衛星との間で電波を使って通信を行い、電波がちゃんと受けられるようにアンテナを整備して、研究者の手元まで問題なくデータが届くように地上回線を準備している人たちがいます。

「はやぶさ」の帰還に際しても、正確にどこに落ちてくるか計算し、広大な大地で見失わないように探索班として砂漠の暑い昼・寒い夜に耐えながらカプセルを追った人たちがいます。

しかも、この人たちもまだ表舞台に近い人々、いわば黒子といえる人たちです。この他にもさらに一段下から支えてくれている人たちがいます。


 一つの衛星にも多くの国々が関わっていることが多いですし、また宇宙には国境線がないため、地球と宇宙を行き来する際に違うルールが適用されることもあるので、そういったこまごまとしたことを国と国の間で調整している人たちも大勢います。

私たちの活動もお金がなくては成り立たないので、活動の必要性を懇々と説明して資金を確保しようとする人たちもいれば、その説明を聞いて財政が厳しい中でもいろいろと走り回って何とか資金を用意してくれる人たちもいます。


 ともすれば「自分から見えないものは何をやっていても勝手に回っていくもの」と考えがちで、それは
「自然は人間が何も考えなくても壊れないもの」
「平和は何の努力をしなくても守れるもの」
「エネルギーはどんなにわがまま言っても簡単に得られるもの」
「特別なことはしなくても自分のことはみんなにわかってもらえるもの」
という考え方にもつながっています。

自分の立っている足下に何が広がっているのか、太陽でさえ、ましてや地球でさえ永遠ではあり得ないのですから、すべての調和を保つためのよりよい判断ができるように、謙虚に自分自身の視野をできる限り広く持つ努力をしたい、そう考える今日この頃です。


 おっと、最後に、宇宙研の職員である私たちから見ても「なくてはならないもの」はもちろん存在します。

それはこれを読んでくださっているみなさんの「宇宙活動に対する支える声」でしょうか。

(長木明成、ちょうき・あきなり)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※