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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第441号

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ISASメールマガジン   第441号       【 発行日− 13.03.05 】
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★こんにちは、山本です。
 今月は、太陽系の辺境から飛来したパンスターズ彗星を見ることができます。
 彗星が、日本で 肉眼で観察できるくらい明るく見えるのは、地平線から5度から10度あたりに見えるころで、見やすい高さになる頃は、かなり暗くなってしまいそうです。
 それでも、双眼鏡があれば観察できると言われています。3月末頃からの日の入り後の北西の空、夜明け前の北東の空を双眼鏡で覗いてみましょう。

 今週は、宇宙科学プログラム・オフィスの小川恵美子(おがわ・えみこ)さんです。


── INDEX──────────────────────────────
★01:ERGってどんな衛星?
☆02:「パンスターズ彗星を見つけよう」キャンペーン
☆03:JAXAインタビュー:ロケット開発の黎明期の熱き思いを未来へ
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★01:ERGってどんな衛星?

 このメルマガの読者の皆様はERGという衛星のことをご存知でしょうか。

 正式なプロジェクト名は「ジオスペース探査衛星プロジェクト」といいます。通称ERG(Energization and Radiation in Geospaceの略)。関係者は えるぐ と呼んだり、 いーあーるじー と呼んだりしています。今日は私が関わっているERGについて紹介します。


 ジオスペースを探査する衛星、と言われても何をしたい衛星なのかよくわからないと思います。

ジオスペースとは、宇宙空間の中でも人の手が届かない遥か彼方ではなく、地球に近く、もう少し身近で、地球と強く影響を及ぼし合う宇宙のこと。ERGはそのジオスペースの中に広がる「放射線帯」の観測をすることを主な目的とした衛星です。


 宇宙空間は真空で何もない、というイメージがあると思います。確かに地上に比べればなにもなく、スカスカの空間ではあります。しかし本当に「なにもない」わけではありません。

地球には太陽から太陽風という高速の見えない風が吹き付けています。地上に吹く風は空気ですが、太陽から吹く太陽風は「プラズマ」という電子 とイオンが混ざり合ったものです。この地球に吹き付ける高速の電子、イオンたちが地球の磁場と反応し、いろいろな現象を巻き起こし、地球の周 りに様々な特徴のある領域を作り上げています。


 その中に放射線帯、発見者の名前から「ヴァン・アレン帯」とも呼ばれる領域があります。ここはジオスペースの中で最も高いエネルギーを持った電子、イオンが飛び交う領域です。

放射線帯は地球の回りをドーナツ状に取り囲むように二重に広がっています。広がっているのは高度2000kmくらいから外側は高度40000kmくらいまでと言われています。宇宙ステーションが飛んでいるのが高度400kmくらいなのでそれよりは外側で、気象衛星や通信衛星がいる静止軌道の あたりまで、という感じでしょうか。

この放射線帯にはものすごく高いエネルギーを持った粒子たちが集まっているわけですが、その状態は一定ではなく、突然粒子が増えたり減ったりと、嵐のようにダイナミックに変動することが知られています。ですが、その嵐のような変動が「いつ、なぜ、どのようにして」引き起こされるかは謎に包まれたままです。ERGでは、放射線帯を直接観測することによってこの謎の解明に挑戦します。


 放射線帯で何が起こっているのかを調べるためには様々なエネルギーの電子・イオンの観測や、磁場・電場の観測が必要です。そのため、ERGでは 6種類の粒子観測機器と電場観測器、磁場観測器を搭載しています。

ERGの構造はバス部とミッション部の2つに大きく分かれていますが、ミッション部にはこれらの観測機器がぎっしり詰まった状態となっています。衛星として必要な機能を集めたバス部にはSPRINTバスを使っています。

今年の夏に打ち上げ予定のSPRINT-AはSPRINTバスを使った初号機で、ERGの兄弟のようなものです。ERGの見た目のイメージはこちら
http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/erg/index.shtml
をご覧ください。

4枚の太陽電池パネルを広げ、磁場・電場観測用の長いマストとアンテナ(アンテナは端から端までで30m以上!)を伸ばし、くるりくるりとスピ ンしながら放射線帯に自ら飛び込んでいって観測を行うという衛星になっています。


 現在私はERGの衛星システム全体の開発に関わっています。衛星システム全体を見るなんてなんだか衛星のことをとてもよく知っている人のようで すが、実は私は衛星開発の経験なんてない素人で、まだまだ見習いです。毎日たくさんの新しい問題に遭遇していますが、少しでも成長して開発のお役に立てるよう日々奮闘しているところです。


 ERGは長い助走期間を経て去年の8月に正式にプロジェクトとして走り出しました。打ち上げ予定は2015年。イプシロンロケットによって内之浦から打ち上げられる予定です。

打ち上げに向けて待ったなしの怒濤のスケジュールで開発が進められており、今、設計の大きな山場を迎えています。順調に進めば3年後の今頃には観測データがおりて来ているはず。打ち上げの瞬間やサイエンスデータがおりてくる瞬間を想像するとワクワクしてしかたありません。

無事に打ち上げられるよう、全力疾走しなければ!


 放射線帯の謎に迫るジオスペース探査衛星ERG、ぜひ応援いただければと思います。


(小川恵美子、おがわ・えみこ)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※