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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第438号

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ISASメールマガジン   第438号       【 発行日− 13.02.12 】
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★こんにちは、山本です。

 相模原キャンパスは 年明けから【シンポジウムの季節】に突入中です。ISASのトップページを見ると、毎週のように様々なシンポジウムが開催されています。

 一般の方にはあまり関係ないので、メルマガの記事が少ないのが編集の悩みです。

 今週は、科学衛星運用・データ利用センターの中西 功(なかにし・いさお)さんです。

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★01:「くまもと環境フェア」でのこども向け講演
☆02:ロケットの音響体験
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★01:「くまもと環境フェア」でのこども向け講演

 皆さん、こんにちは。昨年(2012年)7月に筑波から相模原に転勤して来た中西です。JAXA広報部を経由して、熊本県環境センターからの依頼を受け、昨年10月6日(土)に開催された「くまもと環境フェア」でこども向けの講演を行ないましたので、その様子を紹介したいと思います。


 講演の演題は「はやぶさの冒険と宇宙から見た地球環境の変化」で、前半では、当時、国際宇宙ステーションに滞在中の星出宇宙飛行士の活動と、はやぶさの打上げから帰還までの7年間にわたる物語を紹介しました。

 講演の後半では熊本県環境センターからの依頼内容に沿って、地球と他の惑星との違い(人が生存できる環境が整っている理由など)を説明してから、人工衛星から見た地球環境の変化を示し、普段の生活を見直すきっかけとなるようなお話をしました。

 参加者の子供たち(と大人たち)からはいろいろな質問があり、宇宙や地球環境について、認識を共有することができました。当日の回答を補足しつつ、主なものを記載します。

  • Q:はやぶさの自律機能とはどのようなしくみですか?
  • A:はやぶさには広角光学航法カメラとレーザ高度計が搭載されていて、広角光学航法カメラの画像とレーザ高度計で得られた距離情報により3次元相対位置を知り、あらかじめアップロードされたプログラムによって、はやぶさ自らが時々刻々、周囲の状況を見ながら、イトカワへのタッチダウンを行いました。

  • Q:はやぶさの成果は何ですか?これまでに何が分かりましたか?
  • A:まず、はやぶさの技術的な成果としては次の3点があります。
    (1)イオンエンジンを使って初めて惑星間を飛行し、さらに地球スウィングバイを併用して加速しました。
    (2)自分の判断でどこにいるかを知り、自分で近づいて行ったり、姿勢を変えたりするような自律航行を実施しました。
    (3)世界で初めて小惑星のサンプルを取って地球に持ち帰りました。
    このことはギネスブックに認定されました。

     次に科学的な成果として次のようなことが分かってきました。

    (1)地球に落下してくる隕石の大部分は普通コンドライト隕石(他に炭素質コンドライト隕石、鉄隕石、石鉄隕石があります)ですが、岩石質(S型)の小惑星であるイトカワに接近して、表面の反射スペクトルを観測した結果、普通コンドライト隕石の起源がS型小惑星であることを確認することができました。

    (2)太陽系が誕生した時にイトカワの母天体ができましたが、他の小天体がイトカワの母天体に衝突して、母天体がバラバラになり、その後、破片の一部が互いの重力で寄り集まり、イトカワが誕生したことが分かりました。

    (3)イトカワの微粒子を電子顕微鏡などで分析することによって、ナノクレータ(直径が約300ナノメートル。インフルエンザウィルスの大きさの約3倍)が見つかったり、小惑星表面に降り注ぐ太陽風による浸食によって形成されたと考えられるサメ肌状組織が見つかったりしています。なお、イトカワの微粒子はまだたくさんあって分析を待っている状態なのでさらにいろいろな成果が得られることが期待されます。

  • Q:地球温暖化が進んでいると言われていますが、一方では太陽の活動が不活発になっているので寒冷化に向かうというような話も聞きます。本当のところはどうなのでしょうか?また、JAXAは太陽の観測を行っていますか?
  • A:講演の中で示したように北極海の海氷面積が減少したり、世界各地の氷河が後退したりしており、また気象庁が公表しているデータからも、近年、地球温暖化が進んでいるのは間違いないと言えます。そして、世界の科学者が集うIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、平均気温が1.8〜4.0℃上昇(1980〜1999年を基準として2090〜2099年を予測)すると予測しています。

    一方、太陽活動ですが、2007〜2009年頃に太陽黒点が極端に少なくなり、黒点数の変動周期が12.6年(通常は11年)に伸びて、2013年後半に迎えるであろう極大期は低調なものとなることが予想されています。過去には、17世紀から18世紀にかけて「マウンダー極小期」と呼ばれる、黒点がほとんどない時期(70〜80年間)があり、ロンドンのテムズ川が凍結したり、スイスの村が氷河に飲み込まれたりするなど、寒冷な時期でしたが、北半球の平均気温は、現在に比べると0.6℃低く、マウンダー極小期の前後に比べると0.1〜0.2℃低かったと推定されています。

    このため、今後、太陽活動が「マウンダー極小期」のように不活発な状態になっても、温暖化の勢いの方が強いので、やはり温暖化が進行すると考えられます。

    太陽活動の観測については、JAXAは2006年に日本で3番目の太陽観測衛星「ひので(SOLAR-B)」を打ち上げ、搭載されている可視光・磁場望遠鏡、X線望遠鏡、極端紫外線撮像分光装置の3つの望遠鏡を使って観測を続けています。現在の太陽は「マウンダー極小期」の時の状態に近いのではないかとの見方もあり、「ひので」の観測データが注目されます。

  • Q:JAXAに就職したいという子供たちに、どのような勉強をして、どのような分野に進めば良いか、説明したいのですが、・・・
  • A:JAXAの仕事を一括りにして言うと、人工衛星やロケットについて研究し、設計・開発して、打ち上げ、軌道上で運用し、得られたデータについて解析・研究することなので、航空宇宙工学、機械工学、電子工学、情報工学、応用物理などの理工系の学部の出身者が多いです。
    しかし、宇宙活動は国際協力で行われることが多いので国際法の専門家が必要ですし、国の予算を使うので広報活動も大事です。また、有人宇宙活動の発展には、宇宙医学や宇宙での食料の自給も必要になってきます。ですから、宇宙のことに興味を持ち続けながら、個人個人の得意な分野あるいは好きな分野の専門家になれば、理工系以外でもJAXAに就職できるチャンスがあると思います。
    なお、今後の宇宙活動には外国語(主として英語、宇宙飛行士を目指すならロシア語も)が不可欠なので、外国語をしっかり勉強するように子供たちに伝えてください。

 最後になりましたが、JAXAとしては広報活動に力を入れており、いろいろな分野の講師の派遣依頼にも対応可能ですので、そのような機会がありましたら、JAXA広報部に連絡していただけると幸いです。

(中西 功、なかにし・いさお)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※