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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第430号

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ISASメールマガジン   第430号       【 発行日− 12.12.18 】
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★こんにちは、山本です。

 週末に開催された「宇宙学校・ののいち」は、盛況で 定員をオーバーしたようです。(阪本先生のTwitterより)

よかった〜 メルマガの宣伝効果?

 12月8日(土)〜1月9日(水)の間、A棟1階のトイレの改修工事をしています。見学の方は、食堂のある宿泊棟のトイレを利用してください。

 今週は、宇宙物理学研究系の朝木義晴(あさき・よしはる)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:アルマ望遠鏡への隠し味
☆02:観測ロケットS-520-28号機 実験終了
☆03:田島道夫名誉教授、「第12回 山崎貞一賞」受賞
☆04:相模原キャンパス見学 臨時休館のお知らせ
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★01:アルマ望遠鏡への隠し味

 わたしは今、チリの首都、サンチャゴに来ています。現在世界中の国が協力して建設を進めている電波望遠鏡プロジェクト「ALMA(アルマ)」に、少しの間ですが、参加するためです。

アルマは、天体望遠鏡をレストランに例えるならば、よりすぐった一級食材が集まり、一流シェフがそろい、お客様は厳しい舌を持つ方々が集う、何か漫画やドラマに出てきそうな感じの超高級レストランです。何も言わなくても出てくる料理はほっぺが落ちるほどおいしいのですが、さて今回の私の役割は、さらにちょっとした工夫をこらしてどんな時でも味が変わることのない極上の料理に仕立てましょう、そういう隠し味の専門家、といったところです。


 例え話ばかりでは分かりにくいので、もう少し具体的なことを話していきましょう。

「アルマ望遠鏡」はチリ共和国アタカマ砂漠の標高5000メートルの台地に60台以上の電波望遠鏡を並べて、天体の電波画像(特にミリ波、サブミリ波と呼ばれる電波)を0.01秒角という最高クラスの解像度で撮像する究極の望遠鏡です。

何故、5000メートルなんて高いところに作るのか?

今回、わたしも一度、望遠鏡の並んでいる観測所を訪れましたが、空気がうすく酸素は普段生活するところの半分くらいしかなく、歩くにも結構つらい思いをしました。


 その「空気がうすい」というのが重要です。アルマが観測するミリ波やサブミリ波にとっての最大の邪魔者は空気中の水分です。空気中には水蒸気となって存在しており、それが標高の低いところではウジャウジャあって、天体からきたミリ波やサブミリ波が望遠鏡に届く前に吸収されてしまうのです。

標高の高いアタカマ砂漠の高地まで来れば水蒸気は低地と比べて10分の1以下となり、宇宙からのミリ波やサブミリ波が望遠鏡まで届きやすくなります。


 アタカマ台地に現代科学の粋を集めた超高性能望遠鏡がグンと並んでいます。これが一級の食材。そして、その計画を支える世界トップレベルの天体物理学者と技術者が集っています。そう、一流のシェフです。この組み合わせでおいしい料理が出てこないわけがない。それは、世界最先端の天体観測結果です。

では、「隠し味専門家」に例えたわたしの役割は?


 5000メートルの高地でもやはり水蒸気は存在し、低地と比較して随分と影響が小さいとはいえ、観測データに測定ノイズが加わります。

アルマは非常によく考えられた望遠鏡装置で、観測する方向での水蒸気量を調べる水蒸気量測定装置(水蒸気ラジオメータ)が全ての望遠鏡に搭載されています。このデータと天体観測データを照らし合わせ、測定ノイズとなった水蒸気の影響を完全にとり去る・・・はずなのですが、建設途上故、まだ調整不足のところがあります。

水蒸気の振る舞いによって観測結果がおかしくならないよう、水蒸気ラジオメータの測定結果を見直して、さらなる改善がはかれないかどうかを検討をしています。単純に言えば、アルマの観測性能をレベルアップするためのお手伝いです。


 宇宙研の人間が何で科学衛星じゃない装置? と考えると不思議です。

学生時代は、地上の電波望遠鏡で高精度観測を実現するために大気中の水蒸気の影響を取り去る開発研究をしていました。20年前です。宇宙研で一時は科学衛星「ASTRO-G」の開発に奔走していましたが、アルマが本格稼働をはじめるにあたって、昔のわたしの研究が何だかお役に立ちそう、とお誘いをうけました。


 今回の滞在では改善効果を確認するというまでには至りませんでしたが、今後のための課題はいくつか見出し、関連した技術提案を行いました。

クリスマス前には戻ってきます・・・って、広瀬香美の歌みたい(笑)。Tシャツで過ごし、ビールで乾杯するクリスマスというのも捨て難いものがありますが[*1]。


 アルマは宇宙まで旅立つ望遠鏡ではないですが、アタカマ台地は、ほんの少し先は宇宙、と思える場所です。そんなところで世界トップの望遠鏡が完成していく様を間近でみた時は、感動して意識を失いそうでした・・・空気がうすいせいだったかもしれませんけど[*2]。



[*1]サンチャゴは南半球なので、今は夏なのです。

[*2]アルマ観測所では、標高5000メートルの高地に行く直前にお医者様のチェックをパスしなければなりません。もちろんわたしも受けてパスしましたが、やっぱりつらかった・・・。


アルマについての詳しい説明:
新しいウィンドウが開きます http://alma.mtk.nao.ac.jp/j/


(朝木義晴、あさき・よしはる)


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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※