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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第427号

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ISASメールマガジン   第427号       【 発行日− 12.11.27 】
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★こんにちは、山本です。

 3連休が明けて相模原キャンパスに出勤してきたら、驚く程 紅葉が進んでいました。

そういえば、通勤路にあるイチョウ並木もすっかり黄葉していました。師走も目前に迫っています。今年の大掃除の手順でも考えましょうか

 今週は、航法・誘導・制御グループの廣瀬史子(ひろせ・ちかこ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:満塁ホームランか、それとも粛々と喜ぶか
☆02:上杉邦憲JAXA名誉教授、「第36回 Allan D.Emil記念賞」受賞
☆03:宇宙学校・みずなみ(12月2日(日))
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★01:満塁ホームランか、それとも粛々と喜ぶか

 2012年8月6日に、NASAの火星ミッション「Mars Science Laboratory(MSL)」のローバ「キュリオシティ(Curiosity)」が、華々しく火星に着陸したことは記憶に新しい。

ローバの総重量は約900kg。軽自動車相当のローバをスカイクレーンを使ってゆっくり火星に軟着陸させた。インターネット中継されたMSL運用室でのスタッフの喜び様は凄かった。軟着陸成功の信号受信と同時に、満塁ホームランが決まったかのごとく、運用室が沸いた。

リーダーらしきスタッフが静まれ、静まれと指示しても、次の瞬間、「キュリオシティ」からのファーストイメージが送られて来て、またもや凄い歓声。感動したと同時に、羨ましいと思った。


 日本の宇宙開発の歴史も長くなって来たが、日本はまだ惑星探査機を成功させていない。

金星探査機「あかつき」が、ちょうど一昨年の2010年12月7日に金星周回軌道投入に挑戦した時、私は管制室にいた。周回軌道に投入するための軌道制御エンジンの噴射が開始され、その後、「あかつき」は地球から見て金星の裏側を通過するため地球との通信が一時途絶える。

ここまでは予定通りだったが、金星の裏側から出て来た「あかつき」の電波を受信出来るはずが、10秒待っても、20秒待っても、30秒待っても、1分待っても確認出来ない。何かが変だ。十分な減速制御を行えず、「あかつき」は金星周回軌道投入に失敗したことが判明した。

ーー その後の1年に及ぶ関係者の懸命な原因究明の結果、軌道制御エンジンは恐らく傷ついた状態で、それがどの程度使えるかを確認するべく、2011年9月に試験噴射を行った。残念ながら期待した推力は得られず、これにより、今後の軌道修正は全て姿勢制御用のスラスタを用いて行うことになった。

2011年11月にさっそく姿勢制御用スラスタを用いて大きな軌道変更を行った。計画通り軌道変更に成功し、現在は、2015年11月に金星と再会合する軌道を飛行している。


 MSL運用室の様子をインターネット中継で見ながら、次に日本があんなに大喜び出来るのは、「あかつき」の金星周回軌道再投入の時か、「はやぶさ2」の小惑星タッチダウンの時か、と思う。

宇宙研の食堂でお昼御飯を食べながら、次の金星周回軌道再投入の時は、あんな風に飛び上がって喜べるかな、という話をしたら、

日本は静かに喜ぶんじゃないの?

という答えが返って来た。確かに、日本は昔から静かに喜びを表現する国かもしれない。


 2015年11月に金星に再会合して以降、どのように金星周回軌道に投入するか、なかなか良い軌道計画を見つけることが出来ずに悶々としていたが、ようやくいくつかのオプションが見えて来た。

今は、科学的成果を最も期待できて、かつ、安全に金星周回軌道に投入できる方法を選択するため、様々な誤差ケースを設定しながら解析を進めている最中である。「あかつき」は予定より太陽に近い軌道を飛行しているため、熱的にも厳しい環境にいるが、関係者で引き続き協力して、最大の成果を引き出したい。

次の金星周回軌道再投入の時に、飛び上がって喜ぶのか、それとも静かに喜ぶのか、あと3年悩む時間があるが、きっとその瞬間は体裁など考えられないに違いない。


(廣瀬史子、ひろせ・ちかこ)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※