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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第418号

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ISASメールマガジン   第418号       【 発行日− 12.09.25 】
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★こんにちは、山本です。

 9月も最終週になって、やっと秋らしくなりました。
そんな中、『冬眠から覚めた』話が……

 南半球の話題ではありません。
8ヶ月ぶりに冬眠モードから復旧した『IKAROS』のことです。
今日(25日)19時30分から JAXA相模原チャンネルでお楽しみください。

 今週は、太陽系科学研究系の齋藤義文(さいとう・よしふみ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:宇宙で粒子を測る
☆02:宇宙研速報「イカロスの冬眠モード明けについて」(9/25放送)
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★01:宇宙で粒子を測る


「宇宙研で何をやっているのですか?」
と 「はやぶさ」で宇宙研が有名になったおかげてそう聞かれることが多くなりました。
それに答えて
「人工衛星やロケットに載せる観測装置を作っています」
とここまではいいのですが、ここからの説明が大変です。
「宇宙でプラズマの計測をしています」というと「???」という反応が。
「宇宙で電子やイオンを測っています」でも「??」。


 今回は私たちの研究室でやっている「宇宙で粒子を測る」ということをもう少し簡単にお話ししてみたいと思います。


宇宙で粒子を測るって何?

 私たちの住んでいる地球や火星、金星などの惑星のまわりや惑星の間に広がる宇宙は「真空」といわれています。確かに空気は無いので息はできませんが、でもそこは何も無い場所ではなく、とても数は少ないのですが電子やイオンで満たされています。

私たちのまわりにある空気には1立方センチメートル中に酸素と窒素が合わせて10の19乗個くらいありますが、私たちの研究室で測っている電子やイオンは、1立方センチメートル中に数個程度ですのでその少なさがわかるかと思います。

これらの電子やイオンは、太陽風や、地球や火星、金星などの大気や天体の表面から放出された物質がその源になっています。太陽風は、太陽から絶え間なく吹き出している秒速500kmくらいの電子とイオン(主な成分は水素イオン)で、1立方センチメートル中に数個くらいの量があります。

ところが私たちの研究室でやっているようにこれらの電子やイオンなどが宇宙の何処ににどれだけあるかを測ると驚くほど多くのことがわかるのです。


 たとえば、私たちの地球に最も近い天体である月には地球とは違って空気も強い磁場もありません(地球が大きな磁石であるということはどこかで聞いた事があると思いますが、月は大きな磁石では無いのです)。

そのような天体は、小惑星などを含めると太陽系の中にも数多くあります。太陽風や太陽の光が月に当たると、月の物質がまわりの宇宙に放出されます。放出された物質に太陽の光があたるとマイナスの電気を帯びた電子と、プラスの電気を帯びたイオンに分かれます。このように月のまわりの宇宙には、月から放出された物質が月の表面の情報をもって月のまわりを漂っているのです。


 地球や金星、火星などの大気のある惑星からは、大気に太陽光が当たってできた電子やイオンが周囲の宇宙に逃げ出すという現象もみられます。このように天体のまわりにある電子やイオンを調べれば、天体そのものの情報や天体の周りで起きている色々な事を理解することができるのです。


でもどうやって測るの?

 それではどのようにして宇宙で電子やイオンを測るのでしょうか?

私たちの研究室ではこれらの電子やイオンを宇宙で測るための観測装置を作っています。特に私たちが作っているのは、比較的遅い速さの電子とイオンを測る観測装置です。この観測装置は丁度太陽風の電子やイオン、天体の周りに漂っている多くの電子やイオンを測ることができますので、天体の周りがどのようになっているかとか太陽風がどのように天体に影響を与えているかなどを調べるのには必ず必要になる観測装置です。

今、多くの観測装置で使われている方法は、静電分析器と呼ばれる、2つの金属でできた板の間に電圧をかけて、その板の間を通過できる電子やイオンの速度を測るという原理のもので、観測装置に入ってきた電子やイオンを速さ、方向別に1個1個数を数えるというものです。


 観測装置を作るためには色々な事をやらなくてはいけません。まずは、コンピュータで計算することで、観測装置の性能や大きさなど決めて観測装置の設計をします。設計が終わると、試しに設計した観測装置を作ってみます。

いちどに設計した観測装置の全体を作ってしまうと、うまく動かなかったときに無駄になってしまいますので、新しい観測装置の時には一部だけを作ってみます。

作ってみた観測装置に実験室で電子やイオンを入れてみて、設計したようにできているかどうか、設計に見落としが無かったかどうかを調べます。多くの場合には、その試験で思いもしなかった間違いや考え落としが見つかります。

それらの間違ったところや設計に考え落としがあったところを直して、また電子やイオンを入れてみて調べます。どうやって見つけた問題を解決するかが腕の見せどころですが、やってみるとこれが結構楽しいのです。このようなことを繰り返して作りたい観測装置を少しずつ作り上げて行きます。


 作った観測装置を人工衛星やロケットに載せる時には、ロケット打上げの時の激しい振動や衝撃で観測装置が壊れない事を確かめる試験や、空気の無い宇宙できちんと動くかどうかを確かめるための試験を行います。

このように宇宙できちんと働く観測装置を作り上げることは、決して楽なことではありません。でも楽でないからこそ、自分たちで作った観測装置が無事、ロケットで打ち上げられて、宇宙からデータを送ってくると、なかなか他では体験できない喜びを感じることができます。

その宇宙から送られてきたデータから、世界中の誰もまだ見たことのないことが見つかったりするのですから、これは一度体験したらやめられなくなります。


 今私たちの研究室では、数年後に打ち上げられる予定の、水星磁気圏を観測する宇宙研のBepiColombo/MMOという衛星に載せる観測装置と、地球磁気圏を4機の衛星を編隊飛行させて観測するNASAのMMSという衛星に載せる観測装置を作っているところです。

最近は、産業の空洞化、理科離れなどモノ作りの危機が話題となっています。私たちの観測装置作りもこれらと決して無縁ではありません。でも、やってみたら本当に面白いんです。これほどワクワクできることもそれほど多くは無いと思います。


 今回は私たちの研究室でやっている「宇宙で粒子を測る」ということをお話ししましたが、「宇宙で粒子を測る」ということがどのようなことか少しでもわかって頂ければ幸いです。

(齋藤義文、さいとう・よしふみ)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※