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ISASメールマガジン 第417号
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ISASメールマガジン 第417号 【 発行日− 12.09.18 】
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★こんにちは、山本です。
Googleマップのストリートビューで、相模原キャンパスの展示室を見ることができます。
⇒
http://ow.ly/dVJuW
現在の展示内容とは少し違いますが、展示室の様子は伝わってきます。
また、ストリートビューギャラリー
⇒
http://maps.google.co.jp/help/maps/streetview/gallery.html#!/jaxa
では、JAXAの他の施設の様子も見ることができます。
今週は、太陽系科学研究系の小路真史(しょうじ・まさふみ)さんです。
── INDEX──────────────────────────────
★01:進化しつづける計算機
☆02:2012年度第二次気球実験 終了
───────────────────────────────────
★01:進化しつづける計算機
この春に京都で博士後期課程を修了し、学位を取得して宇宙科学研究所に研究員としてやって参りました。
はじめての関東での生活にも慣れ始めたころ、一通の葉書が届きました。高校を卒業してから今年で10年なので、同窓会を開催するのだといいます。博士課程まで進んだために学生生活が長くなったためか、高校を卒業してからもう十年も経っていたのかと少し驚いてしまいました。
ついこの間まで高校生だったはずなのに・・・。
あの頃から自分はどのように変われたか、内面は成長できているかというのを自分視点で判断することはなかなか難しく思います。(体は横に大きくなりました。)
さて、この十数年で、世の中で劇的に変わったものの一つとしてはやはり計算機環境ではないでしょうか。
私は、大規模計算機の中に宇宙の中のプラズマと電磁場を再現し、手計算では追えないような複雑な現象に取り組んでいます。プラズマ中の粒子一つ一つの運動方程式を解き進めると同時に、電磁場の方程式(Maxwellの方程式)を交互に解き進め、電磁波動の励起やプラズマ加熱を解析しています。
計算機シミュレーションによる電磁波動とプラズマ粒子の相互作用を扱う手法は1960年代にはあったそうで、コンピュータに集積回路が使われ始めた頃の話だそうです。
ここ数年に目をやると・・・というお話を書き始めようとした所で、メールマガジンのバックナンバーを漁っていると、2007年に篠原育先生がシミュレーションの並列計算について書かれたメルマガを発見しました。
(⇒
http://www.isas.jaxa.jp/j/mailmaga/backnumber/2007/back165.shtml )
「うわ! ネタかぶってしもた!」
とは思いましたが、正直にネタかぶりを告白した上で逆に思い切り乗っからせて頂くことにします。
この文章が出た当時(2007年)、私は学生として研究を始めた頃で、やはり並列計算の準備に手間取っていたように思います。当時私が使わせていただいていた京都大学のスーパーコンピュータは、共有メモリ型と呼ばれるもので、大きな計算問題(シミュレーション)を百人(100個のCPU)がかりで「同じテーブルの上で」(同じメモリ上で)解くタイプのものでした。
その頃は64個のCPUを使用してプラズマシミュレーションを行なっていました。大きな領域内に存在する粒子を64のかたまりに分け、それぞれのCPUが運動方程式を解き進める、という方法です。しかしこの方法でスケールを大きくしていくと、人数(CPU数)が増えるにつれて
「おい、俺の使っている所に入ってくるなよ!」
(領域内で同じメモリを触ろうとして)
みたいな喧嘩が起きるようになり、結果的に計算が遅くなる可能性もありました。
2012年、今では篠原先生のメルマガにある“次世代”が到来しています。つい最近まで世界で「一番」だった京速計算機(ペタコン)は動き出し、各大学のスーパーコンピュータの規模は格段に大きく、早くなりました。
私も、1000コアを超える(1000人以上がかりで計算する)シミュレーション研究に取り組んでいます。今となっては、皆さんの手元にあるパソコンやスマートフォンでさえも、CPUのコアが複数個入っていることが珍しくなくなり、並列計算というものは実はとても身近なものになっています。
このような現在、スーパーコンピュータは分散メモリ型と呼ばれる物が主流となっています。こちらでよく使う手法としては、大きな問題(プラズマシミュレーションでは空間領域)を小さく分割し、少人数が「別々のテーブル(メモリ)で」計算し、それぞれの小問題(小さなプラズマシミュレーション)を解くのに必要な情報(行き来するプラズマ粒子など)をテーブル間で交換することで全体として大きな問題を解いたことになる、というものです。
こうすることで、ひとつのテーブルで大人数が集まる事による大混乱は避けられ、今のような数千、数万の人数(CPU)での計算が可能となります。ほんの数年前でも考えられなかったような、現実のスケールで計算した衛星観測結果とそのまま比較できるような結果など、非常に大きな計算結果が世の中に出てくるようになりました。
ただし、そのような結果を得るためには、「大きな問題を小さく分割する」というプラズマ粒子シミュレーションにとってはとても頭の痛い問題を乗り越えないといけないのですが・・・。
(長くなりますので省略します。)
今も、スーパーコンピュータはものすごいスピードで大きくなろうとしており、それに応じて取り扱う問題スケールも格段に大きくなっています。数年後には、さらにケタ違いの計算が可能となっています。
その頃の宇宙プラズマ分野は、どんな問題に取り組んでいるのでしょうか。どんどんと先に進んでいく現代の技術に置いていかれまいと、今日もせっせと自分のシミュレーションコードを進化させ、スーパーコンピュータの中に宇宙を再現しています。
(小路真史、しょうじ・まさふみ)
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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※
ISASメールマガジン 第417号 【 発行日− 12.09.18 】
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★こんにちは、山本です。
Googleマップのストリートビューで、相模原キャンパスの展示室を見ることができます。
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現在の展示内容とは少し違いますが、展示室の様子は伝わってきます。
また、ストリートビューギャラリー
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では、JAXAの他の施設の様子も見ることができます。
今週は、太陽系科学研究系の小路真史(しょうじ・まさふみ)さんです。
── INDEX──────────────────────────────
★01:進化しつづける計算機
☆02:2012年度第二次気球実験 終了
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★01:進化しつづける計算機
この春に京都で博士後期課程を修了し、学位を取得して宇宙科学研究所に研究員としてやって参りました。
はじめての関東での生活にも慣れ始めたころ、一通の葉書が届きました。高校を卒業してから今年で10年なので、同窓会を開催するのだといいます。博士課程まで進んだために学生生活が長くなったためか、高校を卒業してからもう十年も経っていたのかと少し驚いてしまいました。
ついこの間まで高校生だったはずなのに・・・。
あの頃から自分はどのように変われたか、内面は成長できているかというのを自分視点で判断することはなかなか難しく思います。(体は横に大きくなりました。)
さて、この十数年で、世の中で劇的に変わったものの一つとしてはやはり計算機環境ではないでしょうか。
私は、大規模計算機の中に宇宙の中のプラズマと電磁場を再現し、手計算では追えないような複雑な現象に取り組んでいます。プラズマ中の粒子一つ一つの運動方程式を解き進めると同時に、電磁場の方程式(Maxwellの方程式)を交互に解き進め、電磁波動の励起やプラズマ加熱を解析しています。
計算機シミュレーションによる電磁波動とプラズマ粒子の相互作用を扱う手法は1960年代にはあったそうで、コンピュータに集積回路が使われ始めた頃の話だそうです。
ここ数年に目をやると・・・というお話を書き始めようとした所で、メールマガジンのバックナンバーを漁っていると、2007年に篠原育先生がシミュレーションの並列計算について書かれたメルマガを発見しました。
(⇒

「うわ! ネタかぶってしもた!」
とは思いましたが、正直にネタかぶりを告白した上で逆に思い切り乗っからせて頂くことにします。
この文章が出た当時(2007年)、私は学生として研究を始めた頃で、やはり並列計算の準備に手間取っていたように思います。当時私が使わせていただいていた京都大学のスーパーコンピュータは、共有メモリ型と呼ばれるもので、大きな計算問題(シミュレーション)を百人(100個のCPU)がかりで「同じテーブルの上で」(同じメモリ上で)解くタイプのものでした。
その頃は64個のCPUを使用してプラズマシミュレーションを行なっていました。大きな領域内に存在する粒子を64のかたまりに分け、それぞれのCPUが運動方程式を解き進める、という方法です。しかしこの方法でスケールを大きくしていくと、人数(CPU数)が増えるにつれて
「おい、俺の使っている所に入ってくるなよ!」
(領域内で同じメモリを触ろうとして)
みたいな喧嘩が起きるようになり、結果的に計算が遅くなる可能性もありました。
2012年、今では篠原先生のメルマガにある“次世代”が到来しています。つい最近まで世界で「一番」だった京速計算機(ペタコン)は動き出し、各大学のスーパーコンピュータの規模は格段に大きく、早くなりました。
私も、1000コアを超える(1000人以上がかりで計算する)シミュレーション研究に取り組んでいます。今となっては、皆さんの手元にあるパソコンやスマートフォンでさえも、CPUのコアが複数個入っていることが珍しくなくなり、並列計算というものは実はとても身近なものになっています。
このような現在、スーパーコンピュータは分散メモリ型と呼ばれる物が主流となっています。こちらでよく使う手法としては、大きな問題(プラズマシミュレーションでは空間領域)を小さく分割し、少人数が「別々のテーブル(メモリ)で」計算し、それぞれの小問題(小さなプラズマシミュレーション)を解くのに必要な情報(行き来するプラズマ粒子など)をテーブル間で交換することで全体として大きな問題を解いたことになる、というものです。
こうすることで、ひとつのテーブルで大人数が集まる事による大混乱は避けられ、今のような数千、数万の人数(CPU)での計算が可能となります。ほんの数年前でも考えられなかったような、現実のスケールで計算した衛星観測結果とそのまま比較できるような結果など、非常に大きな計算結果が世の中に出てくるようになりました。
ただし、そのような結果を得るためには、「大きな問題を小さく分割する」というプラズマ粒子シミュレーションにとってはとても頭の痛い問題を乗り越えないといけないのですが・・・。
(長くなりますので省略します。)
今も、スーパーコンピュータはものすごいスピードで大きくなろうとしており、それに応じて取り扱う問題スケールも格段に大きくなっています。数年後には、さらにケタ違いの計算が可能となっています。
その頃の宇宙プラズマ分野は、どんな問題に取り組んでいるのでしょうか。どんどんと先に進んでいく現代の技術に置いていかれまいと、今日もせっせと自分のシミュレーションコードを進化させ、スーパーコンピュータの中に宇宙を再現しています。
(小路真史、しょうじ・まさふみ)
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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※