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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第414号

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ISASメールマガジン   第414号       【 発行日− 12.08.28 】
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★こんにちは、山本です。

 先週号で、能代ロケット実験場の開所日について書いたところ、複数の読者の方から、メールを戴きました。

 自身で調べた新聞での報道について教えてくださったり、
 『能代の新聞社に問い合わせては』と新聞社名を教えてくださる方も

 ありがとうございます。

 早速、能代新報社に問い合わせのメールを出したところ、整理部の方から返事が届きました。(ワザワザ マイクロフィルムで記事を検索してくださいました。)

 以上を総合して得た結論(?)ですが

 1962年10月15日の段階では「ほぼ完成」していた。
 15日 能代市に東京大学生産技術研究所からロケット・エンジン地上燃焼実験予定の連絡があった。
 20日 午後に実験班が能代へ入り、ロケット・エンジンの組み立て
 27日 リハーサル(予備実験)
 29日 本実験

 ということで、特に開所式は行われていないようです。

 【能代ロケット実験場の開所は、1962年10月】で 良しとします。


 今週は、宇宙飛翔工学研究系の堀 恵一(ほり・けいいち)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:宇宙開発と環境問題
☆02:相模原市立博物館「宇宙科学の先駆者たち〜糸川英夫と小田稔〜」
   〜9月2日(日)までです
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★01:宇宙開発と環境問題

 今、我々の社会にとって環境問題が最優先課題の一つであることは間違いありません。

昔はこういった問題に無頓着だった時代がありました。私が高校生の頃は光化学スモッグのせいで、晴れた暑い日に外で運動をしていると気持ちが悪くなることがありました。また、「水俣病」や「イタイイタイ病」といった単語を、子供の頃よくテレビニュースなどで聞いたことを覚えています。

今の若い人はこういったことがあったということすら知らないのかもしれません。ここ数十年の環境技術の目覚ましい進歩、一般の方の意識の向上がその礎になっているのでしょう。今では、小学校に通うお子さんからお年寄りまで、日本人の「環境マインド」は世界に誇れる高さにあると思います。


 で、宇宙です。宇宙開発の現場にも環境問題の波は押し寄せています。このメールマガジンの読者の方でしたら、スペースデブリという単語を聞いたことがあるかもしれません。「宇宙ごみ」と呼ばれる、宇宙空間をさまよう種々雑多な浮遊物、邪魔ものです。

私はロケットの燃料を専門としておりまして、実は宇宙をとりまく環境問題と密接な関係を持っています。今回のメールマガジンでは、デブリ問題を始めとする宇宙の「環境問題」について紹介し、燃料の今後について少し書きたいと思います。


 まずは、デブリと燃料の関係ですが、ここは固体ロケットに限られます。固体ロケットは固体燃料をその推進源としていますが、燃えると大半はガスとなり排出されます。しかし、燃料中には金属燃料としてアルミニウムの粒子が含まれており、燃えるとアルミナの粒となって排出されます。

現在ヨーロッパを中心として、ロケットからの排出物は大きさが1mmを超えてはならないという規則ができました。アルミナの粒子径は普通、十分に小さく、1ミクロンよりさらに小さい粒がほとんどですが、ロケットの燃焼末期には、燃え方が十分でなくなり大きな粒が排出されることがあります。

現状では、そういった大きな粒は絶対量が少ないので問題視されていませんが、将来的にはこの辺をすっきりさせる必要があります。私の研究室では、この問題を解決する燃料の研究を行っており、来年には小型ロケットの燃焼実験までこぎつけたいと考えています。

 もう一つの解決法として、ハイブリッドロケットという形式のロケットを使うという手があります。このロケットでは燃料にゴムを使うので、燃やしても一切、固体物が発生しません。また、ハイブリッドロケットは、固体ロケット燃料の持つもう一つの問題「燃えて塩化水素ガスを発生する」の解決策でもあります。

現状の固体燃料は、その成分中に塩素原子が存在するので、塩化水素ガスが発生します。ロケットの打上げ場、燃焼実験場などの周辺領域では問題です。これまでは、その発生量の絶対量が少ないために余り騒がれることはありませんでしたが、解決するにこしたことはありません。現在、宇宙科学研究所、大学がワーキンググループを結成してハイブリッドロケットの研究を進めています。2013年度には推力500キロ規模のロケットモータができる見込みです。


 次は燃料そのものの話です。

衛星やロケットの姿勢制御などに使われる小型の推進装置があり、我々はスラスターと呼びますが、この燃料が問題となっています。ヒドラジンという材料で、発ガン性のある物質です。そのために取扱いに特に注意が必要で、特殊な設備、高い技能を持った作業者などを要します。

現在、毒性が低く、かつ性能的にもヒドラジンをしのぐ新しい燃料の開発が世界中で盛んに行われています。欧米が一歩リードしていますが、JAXAも負けじと研究開発を推進しています。数年後には世界に追い付き、いずれは世界をリードして行きたいと考えています。


 宇宙に関する環境問題に関し簡単に書きましたが、一般社会、宇宙の構図が似ていることに気がつきます。一般社会では、「お金儲け」が優先されて環境問題はないがしろにされました。宇宙では「性能、コスト」が優先されてきました。

社会は10年、20年と長い時間をかけて一歩ずつ環境問題を解決してきましたが、宇宙はこれからです。何やらよく聞くセリフですが、我々の子どもたち、孫たちにツケをまわさないよう、しっかりと取り組んでいきたいと考えています。

(堀 恵一、ほり・けいいち)



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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※