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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第403号

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ISASメールマガジン   第403号       【 発行日− 12.06.12 】
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★こんにちは、山本です。

 明日13日は、「銀河連邦」制定の「はやぶさの日」です。

 「銀河連邦」は、ISASが文部省(当時)の直轄研究所だった1987年に発足し、今年で25年になります。(JAXAよりも長い歴史があるわけです。)

 その相模原市が企画した6.13「はやぶさ」帰還記念日イベントが、明日開催されます。当選した360名の方が、
・映画「はやぶさ 遥かなる帰還」(東映/主演:渡辺謙)の特別上映
・吉川真 はやぶさ2プロジェクトマネジャーの講演
・相模原キャンパス見学ツアー

の「はやぶさ」三昧のイベントを満喫できるわけです。

 梅雨入りして暑かったり涼しかったりの関東地方ですが、ISASの屋外展示の見学中は、雨が降らないで欲しいものです。

 今週は、宇宙飛翔工学研究系・はやぶさ2プロジェクトチームの津田雄一(つだ・ゆういち)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:「はやぶさ2」 製造開始!
☆02:宇宙と音楽の夕べ【桜美林大学PFCエントランスホール】(7月1日)
☆03:宇宙学校・とうがね【東金文化会館】(7月15日)
☆04:大気球実験B12-02 終了(6月9日)
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★01:「はやぶさ2」 製造開始!

 こんにちは、「はやぶさ2」のプロジェクトエンジニアを務めています 津田 と申します。今回は、今開発が急ピッチで進んでいる「はやぶさ2」についてご紹介しましょう。


 「はやぶさ2」は、日本の小惑星探査ミッションの第2弾です。目的地は、「1999JU3」という小惑星。「はやぶさ(初号機)」が行った小惑星「イトカワ」よりは、炭素成分の多いとされる天体で、太陽系の起源だけでなく、生命の起源にせまる情報が得られるのではと期待されている天体です。ここから星のかけらを採集し、地球へ持ち帰ることが「はやぶさ2」のミッションです。もちろん、10年以上前に設計されたはやぶさとは異なる技術がたくさん詰まっています。


 「はやぶさ2」は現在、詳細設計が完了し、いよいよ製造を開始しました。
設計フェーズでは、
「どの機器をどこに配置するか?」
とか
「ここの回路はどのような方式にするか?」
といった、探査機の仕立てについて議論を重ねてきたのですが、製造フェーズに入った今は、製造工程を管理しながら、
「イオンエンジンによる巡航をどのように行うか?」
「小惑星への着陸をどういう手順で行うか?」
など、探査機の運用法について、連日議論を重ねているところです。「はやぶさ2」のハードウェア面とともに、運用法のようなソフトウェア面も、日に日に具体化されているのです。


 「はやぶさ2」のような小惑星往復飛行ミッションが、一般的な人工衛星と異なるのは、ミッションそのものが物語のような一本の流れを持っていることです。「はやぶさ2」は、打ち上げられた後、巡航フェーズを経て、小惑星へランデブーし、小惑星の近接観測をし、タッチダウンし、クレーターを造り、その後地球帰還軌道に乗って巡航し、最後にカプセルを地球大気圏突入させます。

これらの場面はどれもが「はやぶさ2」にとって欠くことができないものですし、この通りの順番でないと成り立ちません。そしてこのそれぞれの“場面”は、別々の個性的な“役者”が担うのです。少しご紹介しましょう。


 巡航時の主役は、イオンエンジンです。これは非常に燃費の良いエンジンで、これを長時間運転することで、小惑星往復飛行が可能となります。「はやぶさ初号機」のものを改良し、推力がアップしました。


 小惑星ランデブー時には「画像複合航法」を行います。実は小惑星の軌道は、地球からの観測だけでは正確にはわかっていません。その軌道がよくわかっていない小惑星を、接近しながら画像で捉えることで、探査機を最終的に小惑星のすぐ近くまで導くのが画像複合航法です。

そのために「はやぶさ2」はカメラを3台搭載しています。このカメラは、小惑星到着後は小惑星表面の観測にも使われますし、タッチダウン時に小惑星との位置関係を知るためにも使用される、とても重要な機器です。


 小惑星近接観測は、既に述べたカメラのほかに、近赤外分光計や中間赤外カメラが担います。これらで小惑星表面の成分や温度分布などがわかります。これらのデータは、XバンドアンテナとKaバンドアンテナの2つから、3.6億km彼方の地球へ向けて送信されます。

最新の「はやぶさ2」の外観図を見た方はお気づきになられたかもしれませんが、「はやぶさ2」はパラボラアンテナの配置が初号機とは異なります。「はやぶさ2」では、大きくて平らな円盤が2枚、メガネのように上面に配置されています。このうち片方がXバンドのアンテナ、もう片方がKaバンドのアンテナです。通信速度の速いKaバンドと、サポートする地上局が多いため運用しやすいXバンドを使い分けて、できるだけ効率よくたくさんの小惑星についての情報を得られる設計に、「はやぶさ2」はなっています。


 そしていよいよタッチダウン。タッチダウン運用には「はやぶさ2」の持っている機器を総動員しますが、最終的な主役はサンプラーホーンです。これでわずか数秒の接地の瞬間に、弾丸を地表に向けて発射し、その跳ね返りのかけらを捕まえます。このサンプラーホーンも、初号機からはアップグレードしており、また「1999JU3」に合わせた改良がなされています。


 「はやぶさ2」は、小惑星へクレーターを造ることも試みます。このために秒速2kmで小惑星表面へ金属を打ち込みます。このシステムを私たちはSCI(Small Carry-on Impactor)と呼んでいます。SCIで直径2mほどのクレーターを造ることで、小惑星表面だけでなく、内部の構造についての情報を得ようというのが、「はやぶさ2」の目的の一つになっています。


 最後の大気圏突入は、カプセルの役目です。サンプラーホーンによって採集した小惑星のかけらを詰めて、私たちの手元に送り届けるアンカーの役割を、このカプセルが担います。


 このように、「はやぶさ2」の“物語”は、バラエティあふれる場面場面を、個性的な“役者”たちがバトンを渡していくことで成り立っているのです。


 「はやぶさ2」の設計は、はやぶさ初号機を踏襲し、発展させています。開発要素のとても多い探査機を、スピーディーかつ確実に開発できるのはそのためです。これができるのは、世界で唯一小惑星サンプルリターンを実現した日本だからこそです。


 太陽系は、小惑星や彗星と呼ばれる小さな天体の宝庫です。その数は数十万個以上。思い起こせば、日本の太陽系探査(地球の重力圏を越えた宇宙飛行)は、1985年のハレー彗星探査機「さきがけ」「すいせい」から始まっています。そしてはやぶさの「イトカワ」往復飛行の成功。小天体探査は人類未踏のフロンティアであり、日本がそれを“手の届く”フロンティアにしつつあるのです。


 「はやぶさ2」の「1999JU3」到着は2018年、地球帰還は2020年を予定しています。今小学生の皆さんが大学生になるころには小惑星のかけらを持ち帰っていることでしょう。かけらを実際に分析するのは、いま中学生や高校生の皆さんかもしれません。


 「はやぶさ2」で、皆さんと一緒に、大きな夢を描ければと願っています。
「はやぶさ2」のこれからに、応援をどうぞよろしくお願いいたします。


※「はやぶさ2」の公式ホームページ:
新しいウィンドウが開きます http://b612.jspec.jaxa.jp/hayabusa2/index.html


※JAXAで募集しておりました寄附金につきまして、多くの方々に「はやぶさ2」への賛同と寄付をいただきました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。我々開発の現場に携わる者にとって、とてもとても心強い後押しになっております。引き続き寄附金募集を実施しておりますのでどうぞよろしくお願いいたします。

JAXA寄附金のホームページ:
新しいウィンドウが開きます http://www.jaxa.jp/about/donations/index_j.html


(津田雄一、つだ・ゆういち)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※