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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第391号

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ISASメールマガジン   第391号       【 発行日− 12.03.20 】
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★こんにちは、山本です。

 週末に録画した番組を早送りしながらチェックしていると、何だか見たような機体が一瞬映し出されました。

「あれっ? はやぶさ だよね」
「今頃 何かあったの?」

とにかくビデオを戻して見てみると、20世紀FOX版「はやぶさ」映画のシーンでした。3月にDVDが発売されたようです。

 見逃した方、映画館が遠くて見ることが出来なかった方、DVDでお楽しみください。

 今度の土日(24日〜25日)は、ISAS展示室は臨時休館します。
屋外のロケットは見学できます。

 4月14日の「宇宙科学講演と映画の会」ですが、例年とは異なり、会場が【新宿区四谷区民ホール】になりました。

 参加予定の方は、間違えないようにお出かけください。

 今週は、科学衛星運用・データ利用センターの本田秀之(ほんだ・ひでゆき)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:赤道上での成層圏大気のサンプリング
☆02:宇宙科学講演と映画の会【新宿区四谷区民ホール】4月14日(土)
☆03:「はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール
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★01:赤道上での成層圏大気のサンプリング


 2012年2月4日午前9時31分30秒、白鳳丸(*注)船上から成層圏大気サンプリング装置を搭載したB2型気球(容積2000m3)が打ち上げられました。

海は非常に穏やかで、船上の風も操船によって気球打ち上げに適切な方向や速さに制御されていました。上がってしまえばこっちのもの。放球後気球は順調に上昇し、自律的に高度19km付近から成層圏大気の採集を開始し、高度21.7kmで採集を終了後気球を切り離し、放球地点から南東に約30km離れた海上にパラシュートで降下しました。

白鳳丸はすぐに降下地点に向かい、観測器着水後1時間余で無事船上に引き上げることが出来ました。

引き続き、5日にB5型(容積5000m3)、7日はB5型、8日はB2型を各1機上げ、全て成層圏大気の採集と機器の回収に成功しました。


 このプロジェクトは、東京大学大気海洋研究所の植松光夫教授が立案された研究航海「太平洋赤道高生物生産海域における大気海洋間の物質循環と成層圏とのリンケージ」のため、私たちの研究グループ(成層圏大気サンプリンググループ、代表者:東北大学大気海洋変動観測研究センターの青木周司教授)に共同研究が持ちかけられたのでした。3年くらい前の話です。

この研究航海は、生物生産の高い太平洋赤道域の頭部から中央部にかけて、生物地球化学的観測や船上培養実験を行い、海洋大気境界層での大気組成観測を行いつつ、対流圏と成層圏の対流活動による物質輸送に関して、大型気球とゾンデによる観測を連携して行うという、大変欲張った計画でした。

これまで我々の研究グループは、日本上空(三陸と大樹町)、スウェーデンのキルナ、南極昭和基地で、長年成層圏大気微量成分の観測を続けてきました。

対流圏の大気が成層圏に運ばれるのは赤道上空からで、我々も赤道上空の大気サンプリングには非常に興味があり、過去にもいくつかの候補地での実現可能性を検討してきましたが、それぞれ大型気球の放球設備、機器回収の可能性、搭載装置に必要な液体ヘリウム等の入手性などに難点があり、中々踏み切れないでいました。

このような状況から、我々としても従来のものに比べて手軽に運用できる小型の成層圏大気サンプリング装置を開発してきており、これを使ってプロジェクトに参加することを検討しました。がしかし、恐らく過去に例のない実験のため、事前に検討すべき事項は山ほどありました。


 そもそも、白鳳丸の甲板から大型気球を上げることが出来るのか?(現在国内で上げている気球にしては非常に小型ですが、それでも気球の長さは24m〜33m、後部甲板で利用可能な広さは、幅5mx長さ20m。周囲の障害物をうまく避けることが出来るか?)、
赤道上で気象条件が整う日はどの程度あるか?(天候は?風は?波は?)、
放球後気球はどう飛翔するのか?
(航跡予測は可能か?
 予測の信頼性は?
 どの程度の割合で回収可能範囲に下ろすことが出来るのか?)、
観測器との通信は?(船上での追尾はどうするか?)、
太平洋上で小さな観測器は簡単に見つかるか?、
太平洋上空の航空管制の管轄はどこか?、
搭載機器に必要な装備は?、
海上警報はどこに出せば良いのか?、
後方支援部隊との連絡手段は?、

などなど、盛りだくさんでした。これらを限られた時間内に解決しなければなりませんでした。我々がこの準備のために割ける時間はあまりにも少なすぎ、また不確定な要素満載の船出でしたが、考え得る限りの準備は行ってきたつもりでした。後は当たって砕けろ!


 2011年11月25日白鳳丸への物資積み込み当日、事前の悪い方の予想通り前航海を含め乗船する各グループの荷物が思った以上に多く、気球そのものは船倉に入りきらないため甲板に固定するという、予想だにしなかった事態に。先行き暗雲が立ちこめたような気配。そんな心配をよそに、予定通り白鳳丸は12月1日に晴海を出発、ハワイ経由で2012年1月25日にリマ(ペルー)のカヤオ港に到着しました。


 私たち気球実験グループの3人(東北大学 青木周司、稲飯洋一、宇宙研 本田秀之)は、他のグループの研究者と共に、1月25日深夜空路リマに到着しました。

26日朝、事前に現地代理店経由で実験に必要な液体窒素の手配をしていたにも関わらず、何と「空」の容器が白鳳丸に届けられたと聞き、すぐに3人で現地代理店に乗り込んでボスと直接交渉、波乱の幕開けと相成りました。

そのまま現地代理店の担当者とともに、白鳳丸から液体窒素容器を持ち込んでガス会社で充填のための交渉、ペルー人の「すぐに」とか「後15分」という言葉を何度聞いたことか!結局丸2日ガス会社で費やして、やっと必要量の液体窒素を白鳳丸に積み込むことが出来ました。

ガス会社の屋外の待機場所で待っている間、日差しはそれほど強くはないと思ったのですがすっかり日焼けし、あっという間に一皮むけてしまいました。この2日間、タクシーの運転手、ガス会社の担当者、現地代理店の担当者等、初対面ではありましたが色々な方に大変お世話になりました。


 27日夕方に白鳳丸に乗り込み、まずは甲板上に固定しておいたカードル(ヘリウムガスボンベを8本単位で束ねたもの)10機と気球の5箱をチェック。シートカバーには塩が堆積していたものの、気球の箱は特に異常無いことを確認してまず一安心。翌日から出航前にしなければならない受信アンテナの設置とケーブルの引き回し、重量機器の移動や開梱および室内での固定等を行いました。

この間向かいの岸壁には穀物を積んだ船が停泊し、大型クレーン3機で大型トレーラーに荷下ろしをしていました。バケット3杯でトレーラーの荷台が一杯、トレーラーは引きもきらさず次々現れますが、それでも昼夜兼行で延々と荷下ろしが継続、そのため大量の籾殻が白鳳丸に降り掛かりました。
南の国に雪が降る!

ところが29日朝には別の船が入っていました。これは何か液体の運搬船で、今度は大型タンクローリーが延々と列をなしてて順番を待っていました。日頃縁がないので見飽きない光景でもありましたが、カヤオ港の引いてはペルー経済の活発な側面を見た気がしました。


 29日午後3時30分、白鳳丸は北北西に進路を取り、一路赤道経由ハワイに向けカヤオ港を出航、2月20日にホノルルに着くまでは(実際は予定が早まり19日に到着)陸地を見ることも無いなどと考える余裕もなく、搭載機器の機能確認、地上システムの動作確認等に忙殺されました。

大型気球放球のための設備や機器類は、宇宙研の気球グループに準備してもらいました。事前に白鳳丸を下見し、色々検討を重ねて用意された放球法(跳ね上げローラーと船のウインチを使った方法)とそのための機器類でした。

また昨年9月初めには、我々3人はこれらの機器を使って、大樹町の気球実験場で放球に向けた訓練を行っていました。

また、乗船後は乗組員の皆さんの協力のもと、甲板への跳ね上げローラー設置も問題なく行うことが出来ました。カードル内のボンベ1本1本を配管で接続し、圧力計と減圧弁を接続し、漏れ試験を慎重に行いました。

31日の夜、実験を手伝ってもらう予定の乗組員、研究者や学生の皆さん向けに気球実験の概要の説明会を開き、大樹町での事前訓練の映像を見ながら実験の勘所を理解してもらうようにしました。これで気球放球に向けた諸準備はほぼ終わりました。


 準備が整い始めた頃、赤道上の最初の観測点に到着していました。この時点で、もう一つの大きな心配事である航跡予想精度がどの程度か、甲板上空の風向風速はどうなっているかの確認を行いました。

2月2日朝気象ゾンデを上げ、国内支援チームによる事前の航跡予想との比較を行ったところ、非常に良い一致を見ました。

また3日にはオゾンと水蒸気観測用ゾンデを上げて観測すると同時に航跡予想精度が良いことが再確認できたため、我々は船側に対して事前に高精度の着水予想地点を提示できることに自信を持ちました。

さらに、停船中に甲板の各所から風見用の係留気球を上げて、気球放球時に甲板上空の風を確認することが可能であること、比較的風が弱いので操船によりかなり自由に風向や風速を制御できることを確認し、船上の障害物を避ける確実な放球に向け大きな自信を得ました。これで事前準備は全て終わり、冒頭で述べた2月4日の気球の放球になりました。


 2番機以降は、船は放球後すぐに着水予想地点に移動することとしました。このため、放球された気球が上昇してゆく様や気球を切り離してパラシュート降下している様を、船上からつぶさに見ることが出来ましたし、着水後の機器回収も短時間の後に終了することができました。

放球時の操船や放球後の移動、観測器回収時の操船は、回を経るごとに乗組員の皆さんの手際が良くなり、驚かされました。さすが多くの研究航海でいろいろ難しい注文をこなしてきたプロたちです。

幸い今航海中の天候はすばらしく良く、ほぼ毎日快晴、多少うねりはあるものの波は静か、風もほとんどないという好条件でした。皆さんに聞くと、このような気象条件は滅多に無いとのこと、我々の日頃の行い?の賜物だったのでしょうか。

赤道上をひたすら西走しながらの観測も、2月14日午後最後の観測点での観測を完了し、赤道を離脱して一路ハワイのホノルルに向け進路変更、予報通りしばらくしてこれまでに無い揺れの大きな海域に突入しました。ううっ。

 今回の実験では、多くの機関や関係者の方々にご協力をいただきました。たまたま?乗り合わせた乗組員、研究者、学生の皆さんには実際の放球作業を手伝っていただきました。どうもありがとうございました。おかげさまで全機成功しました。


今航海EqPOS
(Equatorial Pacific Ocean and Stratospheric/Tropospheric Atmosphere Study)
のキャッチフレーズです。

Victory loves preparation!


(本田秀之、ほんだ・ひでゆき)


*白鳳丸:独立行政法人海洋研究開発機構が運行する学術研究船 3999トン 全長100m

*日時は全て現地時間です

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※