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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第385号

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ISASメールマガジン   第385号       【 発行日− 12.02.07 】
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★こんにちは、山本です。

 立春を過ぎたのにまだまだ寒さは続くということですが、今回は雪ではなく雨が降っています。

 一雨ごとに春が近づいてくるのでしょうか

 ISASの宇宙学校が新聞に掲載されています。
【「宇宙服」にドキドキ JAXA研究者が宇宙学校 兵庫】 で検索して記事を読んでください。

 今週は、宇宙機応用工学研究系の橋本樹明(はしもと・たつあき)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:「あかり」運用に見る宇宙研魂
☆02:ISAS組織再編
☆03:金星探査機「あかつき」の現状について
☆04:「はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール
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★01:「あかり」運用に見る宇宙研魂 〜「はるか」「はやぶさ」から続く道〜


 赤外線天文衛星「あかり」は、2011年11月24日に運用を終了しました。

「あかり」は、2011年の5月24日にバッテリーに不具合が発生し、日陰に入ると衛星が停電してしまう状態になりました。一度停電した衛星は、再度太陽電池に光があたって電源がオンになっても各機器が初期状態になっていますので、地上から操作しないともとの状態には戻りません。一方、地上から通信可能な時間は1日数回で、毎回10〜15分程度です。

ほとんどの時間は、衛星は電源のオン・オフは繰り返しますが、全く機能していない状況となりました。この状態が続くと衛星の姿勢は乱れ、太陽電池が太陽の方向を向かなくなります。衛星を暖めるヒータも働かないので、各部が非常に低温になっていきました。

結果として、姿勢を制御するためのリアクションホイールも動作温度範囲外になり、また化学エンジンの燃料も凍結しました。

あの、「はやぶさ」と同様に、満身創痍の状態になりました。


 「あかり」は2006年2月22日に打ち上げられ、要求寿命1年、目標寿命3年を超えて運用してきており、各部は老朽化していましたので、このまま運用終了しても良かったわけですが、一つ問題がありました。

「宇宙デブリ25年ルール」です。現在の国際的取り決めでは、宇宙ゴミを増やさないように、役目を終えた衛星は25年以内に大気圏に突入させて燃やしてしまうか、他の衛星と干渉しないような別の軌道に変える必要があります。「あかり」の太陽同期軌道は比較的高い高度なので、このままでは25年以内に落下しません。

このルールは努力目標であって、故障して制御不能になってしまった衛星の場合はどうしようもないので、このまま断念することも可能でした。しかし、プロジェクトメンバーには、何とかもう一度衛星を立て直して、25年以内に落下する軌道まで下げてから運用を終了させよう、という思いがありました。


 姿勢を変えるためのトルクを発生させる装置には、リアクションホイール、化学エンジンの他に、磁気トルカというものがあります。これは、電磁石に電流を流し、地磁場との相互作用で衛星の姿勢を変えるものです。

これは直接姿勢制御に使うものでは無く、リアクションホイールの回転数が高くなりすぎたり低くなりすぎたりしたときに、その調整を行うために搭載されていました。衛星に搭載された制御プログラムで駆動することはできませんし、そもそも、頻繁に衛星電源がオフしてしまう状況では、せっかくコンピュータを立ち上げてプログラムを動かしても、すぐにオフになってまたやり直しです。


 そこで戦略を考えました。私が考えたのではなく、衛星運用全般は紀伊恒男先生、姿勢制御に関しては坂井真一郎先生です。

まず、軌道上で日陰があると必ず衛星電源はオフになってしまいます。これではどうにもならないので、まずは日陰が無くなる全日照軌道の時期(8月〜1月ですが、「あかり」の軌道では11月25日に日蝕があるので、その前まで)を待ちます。

そして、磁気トルカを地上からマニュアル駆動して、安定した回転となるようにしつつ、回転軸を太陽方向に近づけるように毎日コツコツ動かしていきます。

衛星電源が入っていない期間は、衛星に対する指令も受け付けられませんから、ちょうど太陽電池が太陽方向を向く時間を見計らって、この操作をする必要があります。この時間帯が、地上局からの可視時間帯に重ならないといけません。そのため、1日待っても何もできなかった日もあります。


 努力の甲斐あって、9月中旬ごろには安定して太陽指向ができるようになり、衛星のヒータ制御系を立ち上げて、リアクションホイールと必要なセンサ部などの昇温を行いました。その結果、リアクションホイールが使えるようになり、9月27日に5月以来の3軸サーベイ姿勢が復活しました。

その後は、化学エンジンの燃料を融かし始め、11月2日に使用できる温度まで昇温できたのでテスト噴射をしました。この成功を受けて、いよいよ軌道制御をすることになりました。

11月10日、11月14日、11月17日の3回に分けて軌道を下げました。これで25年ルールを守れるようになったわけです。


 このような奇跡の運用を行って来た「あかり」ですが、「はやぶさ」のプロジェクトメンバーと重なっている人は、姿勢軌道制御担当の私と化学エンジンの担当者ぐらいでした。両衛星の開発時期が近かったため、メーカの担当者も異なりました。

私自身も、打ち上げ前の試験時期と「はやぶさ」のイトカワ近傍運用が重なりましたので、「あかり」の姿勢軌道制御はほとんど川勝先生、坂東先生にお任せしました。しかし、両衛星には共通のルーツがありました。それは工学実験衛星MUSES-B(「はるか」)です。

宇宙研の紀伊先生は「はるか」でも運用の中心でしたし、NECの「あかり」マネージャである杉山さんは「はるか」でもシステム担当でした。一方、NECの「はやぶさ」マネージャである萩野さんも「はるか」でシステム担当をしていました。「はやぶさ」(MUSES-Cと呼ばれていた時代)の初代プロジェクトマネージャである上杉先生も、「はるか」の危機的運用時に指揮をされました。


 「はるか」も、バッテリーの設定を誤ったために停電したことがあり、衛星が低温になってしまいリアクションホイールと化学エンジンの両者が使えなくなった時期がありました。

また、テレメトリ信号が来なくなり、電波のビーコンだけで0.1degの精度で姿勢決定を行ったこともありました。(「はるか」には自律機能が無かったので、いわゆる「1ビット通信」はできませんでしたが、Kaバンドアンテナを動かして、受信レベルの変化から姿勢を決定しました。)

こういう極限運用を行った経験が、「はやぶさ」「あかり」の奇跡の運用に生きているのではないか、と思います。

(橋本樹明、はしもと・たつあき)


赤外線天文衛星「あかり」
http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/akari/index.shtml


「あかり」プロジェクトサイト
新しいウィンドウが開きます http://www.ir.isas.jaxa.jp/ASTRO-F/Outreach/

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※