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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第377号

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ISASメールマガジン   第377号       【 発行日− 11.12.13 】
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★こんにちは、山本です。

 10日の皆既月食は ご覧になりましたか?
寒い中、夜空を見上げているのは 首が痛くなって 早々にPCでの観測に移行してしまいました。

 その次は『睡魔』です。歳には勝てず、月が地球の影に隠れたあたりで退散しました。

 Ustreamで配信された【JAXA相模原チャンネル】皆既月食中継は、延べ68万人以上の方々に見て頂きました。

日本で配信された49番組中1位になりました。
ありがとうございました!
(⇒ 新しいウィンドウが開きます http://ustream-asia.tv/news_20111212.html

 研究・管理棟1階の展示室は、空調工事が終了して元通りになりました。
天井が換わっただけで、展示内容は 変わりません。

 今週は、固体惑星科学研究系の小林直樹(こばやし・なおき)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:大気と踊る惑星たち
☆02:ISAS Webページ【更新情報】
☆03:宇宙学校・ひがしまつやま ー宇宙に夢中!ー(12月23日)
☆04:「はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール
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★01:大気と踊る惑星たち


 今日は地震のお話しをします。

地震と宇宙ってどういうつながり?

と思われるかも知れませんね。でもこのお話しの地震は皆さんの良く知っている地震とは少し違います。地震(地面の揺れ)を起こすのは地震(断層運動)だけではありません。ここでは大気が主役となる地震のお話しを紹介しましょう。


 地球の重さをご存知でしょうか?
地球の重さは10の24乗キログラムの約6倍です。地球の重さは岩石の地殻・マントルや金属コアによる部分が支配的です。地球大気の重さはその百万分の一ほどしかありません。

一方、地球から出てくる熱は10の13乗ワットの4倍ほどですが、大気を流れる熱はその3千倍にもなります。もちろん太陽がその熱源です。百万分の一の重さしかない大気が地球の発する熱の3千倍もの熱を運ぶのですからその運動はバカにはできません。風に飛ばされそうになった経験のある方は言われなくてもご存知ですね。ちなみに地球の固体(例えば太平洋プレート)の動きは高々10cm/年です。それに比べると大気はもの凄い速度で運動していると言えます。


 それでは百万分の一の軽さの大気で地球はどのくらい揺すられるのでしょうか?

ある理論によると地球の自由振動が大気によって1ナノガル程度の振幅で揺れ続けていると見積もられています。自由振動というのは地球の固有振動のことです。ギターの弦を弾いて聞こえるボーンと言う振動の地球版です。

ギターの弦でもそうですが、自由振動には色々な周期の振動があります。それらの振動が重なりあい、独特の音色が作られています。地球の場合、周期の長いものでは3千秒ほどにもなります。短い方では3分くらいの自由振動まで分離して観測することができます。

ガルは重力(加速度)を測る単位です。地球の地表重力は980ガル程度ですので、1ナノガルは地表重力のおよそ1兆分の1の大きさです。非常に小さいと思われるかも知れませんが現在の高性能地震計だと十分観測できる量です。

一昔前までは大地震の後でないと自由振動が観測されないと思われていたのですが、現在では実際に0.5ナノガル程度で常に揺れていることが観測されています。

参考までにマグニチュード9の地震による周期3千秒の揺れは40ナノガル(変位で言うと0.1ミリ)程度です。それと比較してみると大気による地球の揺れは結構大きいと思いませんか。


 大気によって地球が揺れているとなると火星や金星も同じように揺れている可能性がでてきます。先ほどの理論によるとそれらの惑星でも地球と同じくらい大気によって揺すられていると見積もられています。

火星は太陽から少し離れ大気も地球に比べると随分薄いのですが、サイズが小さいため弱い力でも振動の振幅は地球と同じ程度になります。

火星や金星ではプレート運動が確認できていないため、地球のような大きな地震が頻繁に起こっているとは考えられていませんが、大気による惑星自由振動は地球程度に揺れているかも知れません。

特に周期200秒以上の火星の自由振動が検出できると何と火星のコアの存在と大きさまで分ってきます。周期の長い振動は波長が長いため惑星全体が振動し、その振動は火星中心にあるコアを感じるからです。


 もしかすると火星は大気によっていつも揺すられており、その振動から火星の中心に位置するコアのことが分るかも知れないという愉快な話しにそそのかされ、私たちは周期千秒まで測れる高性能な惑星地震計の開発を進めています。

地球での高精度の地震観測は岩盤に空けた横穴などで観測するのでセンサー周りの温度変化も百分の1度もありません。

火星探査の場合は立派な観測施設がある訳ではありませんので、地震計の性能を出すためにはセンサー本体の性能だけでなく、設置の仕方にも工夫が必要で気温変化や地表風の影響を小さくすることが必要です。なかなかにチャレンジングな課題ですが、一歩一歩性能を高める開発を進めています。


 スイカを叩いて実のつまり具合を見るように、大気に惑星を叩いてもらって惑星の中身を調べようというこの試み。果たしてうまく行くのでしょうか。

乞うご期待。


(小林直樹、こばやし・なおき)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※