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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第374号

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ISASメールマガジン   第374号       【 発行日− 11.11.22 】
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★こんにちは、山本です。

 週末は 大雨だった関東地方、家の中より外の方が気温が高くて 変な感じでした。

 今日は、宇宙飛行士の古川さんが ソユーズで地球に帰還します。
その模様を、相模原キャンパスでライブ中継しますが、このメルマガが届く頃は、ちょうど着陸中継の最中でしょうか (⇒ 新しいウィンドウが開きます http://iss.jaxa.jp/iss/jaxa_exp/furukawa/library/live/

 Web中継もありますので、チャレンジしてみてください。

 今週は、赤外・サブミリ波天文学研究系の和田武彦(わだ・たけひこ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:天文学者?!
☆02:相模原キャンパス見学臨時休館と展示室一部閉鎖のお知らせ
☆03:宇宙学校・にいがた ー宇宙に夢中!ー(11月23日)
☆04:はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール
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★01:天文学者?!


 みなさんは自分は何者かと聞かれたらどんな風に答えますか?
わたしは、日本では会社員と答えますが(なぜなら説明がめんどくさいから)、海外では、天文学者と答えるようにしています。
なぜなら、受けがよいからです。


 特に欧州や米国では、天文学者というのは、なぜか受けがよいです。
入国時の旅券審査でも、
“I am an astronomer.”
というと、怪しまれません。
“cool”、
“smart”、
ときには
“Ooh la la”
などといわれたことがありました。
(当方、残念ながら、イケメンではありません...)

天文学が最古の科学として尊敬されているのかもしれません。
また、とにかく何だか難しいことをやっている人、という印象があるのでしょうか?

俳優トム・クルーズの出世作、映画トップガンで、ケリー・マクギリスが演じるチャーリーが恰好良く登場し、天体物理学で学位をもつ技術者だと紹介されるシーンは印象的でした。


 さて、ところで、天文学者とは、どんな人々でしょうか?

*理論と物理的直観を頼りに、紙と鉛筆、黒板にチョークで、
 誰も見た事の無いブラックホール内部の時空の性質について議論している人

*物理法則に基づき、コンピューター中にバーチャルな宇宙を再現している人
 (最近はテレビ番組やゲームにも採り入れられているようですね...)

*望遠鏡に特殊なカメラをとりつけて、天体からの微弱な信号から
 なんとか天体の性質を読み取ろうとしている人 (これが一般的なイメージかな)

*いままで観測された、たくさんの天体のデータを集めて来て、
 そこから、一般的な法則や、宇宙の成立ちを調べている人

いろんな人がいますので、一言では、いえません。

強いて言うなら、
  誰も知らなかった宇宙の秘密を、
  誰よりも早く知りたいと思っている人々、
  そして、そのために、いろいろ無茶をやる人々、

でしょうか?


 どうやって、という所は、上記のようにさまざまです。
私がこだわっているのは、自分でつくった装置で、という所です。
これは、小学生のころ父親にもらった、故・森本雅樹さんの「望遠鏡をつくる人びと」という本の影響かもしれません。


 世界一、唯一無二の珍奇な装置をつくって、新しい宇宙像、新しい物理を開拓したい...
そのためには、宇宙研という所は、大変素晴らしいところです。


 とにかく、望遠鏡をロケットをつかって宇宙に飛ばすというところが違います。ロケットの打ち上げをまだ見た事が無い人は是非、見てみてください。ものすごいらしいです。(私は、二度、打ち上げに参加しましたが、 いずれも、制御室に籠っていたので、音と振動は体験出来ましたが、残念ながら、まだ見た事がありません...)


 そうすることで、地上からでは絶対に見る事のできない、X線や赤外線で天体を観測することができます。新しい観測方法を開拓すると、新しい物理が見えて来ます。

案の定、それぞれ、ブラックホールや、星・銀河の誕生の様子の研究には無くてはならない分野に成長しました。


 新しい観測方法を開拓するには、新しい装置が必要になります。だれもやったことがないので、そんな装置は市販されていません。そもそも、普通はそんなものは使わないので、待っていても、だれも作ってくれません。だから、自分で作る必要があります。


 私のばあいは、赤外線に感じる画像センサーを作っています。赤外線を電気信号に変換するのにはゲルマニウムの結晶が必要です。うまく変換するには、特殊な構造が必要になります。でも、誰もそんなもの作ってくれません。仕方がないので、MBEという特殊な装置を借りて、自分達で結晶を作っています。

天文学者が結晶を作っています!


 結晶で生成した電気信号を増幅して外に取り出すには、集積回路が必要です。
(コンピューターや、携帯電話、最近はクレジットカードにも入っている、ICチップのことです)

赤外線を感度良く捉えるには画像センサーを冷却しなければなりません。それも、マイナス269度という極低温です。普通のICチップはそんな温度では動きませんし、だれもそんなものを作ってくれません。仕方がないので、自分達で作ります。

天文学者がICチップを作っています!


 だんだん、自分が何者なのか、分からなくなって来ます。


 さらに、なかなかつらい事もあります。
衛星の開発には時間が掛かります。現在計画中の次期赤外線衛星計画SPICAのような大型衛星の場合、10年以上も掛かる場合もあります。

天文観測のアイデアを発案し、観測装置を考え、衛星システムを設計し...そして、実際に観測が始められるまでに、10年以上掛かってしまいます。まるで、セミの様です。


 プレッシャーも掛かります。
開発に10年掛かるということは、最初に10年後でも陳腐化しないアイデアを出す必要があります。動きの早い現代社会、10年後の経済を読み通せたら大儲けです。科学の世界でも10年先を見通すのは難しいです。

しかも、衛星の開発と打ち上げ、運用には莫大なコストが掛かります。それに見合う科学的成果を出さねばなりません。


 だからこそ、そうしてつくった衛星で観測できるのは、格別です。
私は、1998年から、本格的に赤外線天文衛星あかりの開発に携わってきました。紆余曲折を経て、2006年に無事、あかりは打ち上がりました。

そして、2007年10月に、ついに、あかりを使った最初の成果を得る事ができました。


 私のテーマは銀河の進化です。銀河は星の集合体です。
我々が所属している銀河(天の河銀河)は、およそ1000億個の星で出来ています。そして、現在、およそ1年間に1個のペースで星が生まれています。

さて、宇宙の年齢は約137億年であることが分かっています。
はて...何か変ですね。
今のペースでは、全部の星が出そろうのに、およそ1000億年掛かってしまう計算ですから、宇宙が生まれる前から、我々の銀河は存在していたことになってしまいます。


 天文学者は「今のペースでは」という所がおかしい、つまり、過去には、もっともっとハイペースで星を作り出していたはずだ!と考えています。

星が生まれる様子は赤外線をつかうことで、初めて、定量的に評価出来ます。我々は、まず、波長15ミクロンの赤外線を用いて、60億年以上前の宇宙を探査しました。

そして、その結果を慎重に分析することで、100億年前の宇宙では、現在のおよそ20倍の勢いで星が生まれていたことを明らかに出来ました。

新しいウィンドウが開きます http://www.ir.isas.jaxa.jp/ASTRO-F/Outreach/results/pr20070326/pr070326_5.html
新しいウィンドウが開きます http://www.ir.isas.jaxa.jp/ASTRO-F/Outreach/results/PR100330/pr100330_3.html


 まだまだ成果を出したいのですが、そろそろ次の観測衛星の準備に取り掛からなければなりません。


 我々は、2020年を目指して大型赤外線天文衛星SPICAを計画しています。十年後の華やかな世界を目指して、また、セミの様な生活を始めます。(もっとも、衛星作りそのものも、それはそれで、とても面白いのですが...)


 我々の銀河の星の数については、理科年表や
原著論文(McMillan, P.J., 2011, MNRAS 414, 2446;
新しいウィンドウが開きます http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1365-2966.2011.18564.x/full
が参考になります。


 我々の銀河の現在の星生成活動については
原著論文(Robitaille,T.P. and Whitney,B.A., 2010, ApJL 710 L11;
新しいウィンドウが開きます http://iopscience.iop.org/2041-8205/710/1/L11/
が参考になります。


宇宙の年齢については、
原著論文(Komatsu, et al., 2011, ApJS 192, 18;
新しいウィンドウが開きます http://iopscience.iop.org/0067-0049/192/2/18/
が参考になります。


赤外線天文衛星あかりでの成果については、
新しいウィンドウが開きます http://www.ir.isas.jaxa.jp/ASTRO-F/Outreach/results/pr20070326/pr070326_5.html

原著論文(Wada,T. et al., 2007, PASJ 59, S515; Wada,T. et al., 2008, PASJ 60, S517)
や、


新しいウィンドウが開きます http://www.ir.isas.jaxa.jp/ASTRO-F/Outreach/results/PR100330/pr100330_3.html

原著論文(Goto,T. et al., 2010, A&A 514, A5; Goto,T. et al., 2011, MNRAS 410, 573)
が参考になります。


(和田武彦、わだ・たけひこ)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※