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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第373号

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ISASメールマガジン   第373号       【 発行日− 11.11.15 】
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★こんにちは、山本です。

 立冬を過ぎたのに 日中は暖かい日が続いている相模原キャンパス
 週末、TVの気象予報で夜は気温が下がると聞いて重ね着をして出かけたら、暑くて汗が…

 でも、何だか体の節々が痛くて、食欲も減退しているし……
要するに 『風邪』ひきました。(もう 復活してます!)

 どうも、電話してもメールしても捕まらないのは、忙しいのではなくて、『風邪』ひいて休んでいる人も多いようです。

 今週は、宇宙科学情報解析研究系の木村智樹(きむら・ともき)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:組曲『木星』:今はまだ四重奏
☆02:「あかつき」の近日点における軌道制御(2回目)の実施について
☆03:2011年度第2次観測ロケット実験の実施について
☆04:はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール
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★01:組曲『木星』:今はまだ四重奏


 博士の学位を取得後、宇宙研に研究員として赴任してから、1年半が経ちます。職務である小型科学衛星SPRINT-A/EXCEEDのデータベースに関連する仕事の傍ら、外惑星研究や、将来探査計画の検討に参加させていただいています。


 何かのお導きだと思いますが、去年から宇宙研には、木星・土星の磁気圏(※)に取り組む若手研究者が、僕を含めて複数在籍しています。これは大変に珍しいことです。

(※ 惑星周囲の宇宙空間を示し、惑星の固有磁場が支配的な領域。太陽風から惑星を守るバリアであったり、極域のオーロラを光らせるエネル ギー源だったりします。)


 日本の外惑星研究コミュニティは非常に小さく、組織的に研究を行っているグループは片手で数えられるくらいしかありません。それに比例して、外惑星磁気圏の研究者も、日本には数十人しかいません。


 そのような状況で、宇宙研に若手が複数集まっている事は奇跡的と言っていいかもしれません。でも、数々の業績をあげてきた、木星探査機ガリレオや土星探査機カッシーニを擁する、欧米の研究グループは数百人規模です。それに比べたら、たったの数人です。


 これは海外の有名オーケストラの弾く大交響曲に対抗して、四重奏で小曲を弾いているようなものです。しかしながら、お互いが協力しつつ、それぞれの木星・土星磁気圏の研究テーマを精力的に進めています。


 これらの研究に基づき、現在検討が進んでいる将来木星探査計画における、科学課題の提案にも貢献しています。この木星探査計画では、2020年代を想定し、国際協力の下、欧州の木星衛星(エウロパ、ガニメデ)探査機と日本の木星磁気圏探査機による木星系の総合探査が検討されています。


 日本の検討グループでは、日本の磁気圏探査機がどのような観測を行えば、過去の探査で解けなかった謎を解明できるかを議論しています。特に磁気圏に関して重要だと考えられているのは、次の3つの大きな謎です。



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1.「自転駆動磁気圏」の謎:

 地球磁気圏よりも100倍大きい木星磁気圏では、衛星イオの火山起源の重たいガスが木星磁場に補足されます。このガスは、プラズマ(電離した気体のようなもの)になって、木星の自転に伴って周囲を高速回転しています。


 これは、木星磁気圏が、ひも付きの重たい鉄球をぶんぶん振り回して、ハンマー投げをしようとしている様な、とても不安定な状態です。


 木星磁気圏はその重りを、いつ、どのように放り投げているのか?

 放り投げた後、投げた側と投げられた側は、どうなってしまうのか?

大きな謎になっています。



2.「太陽系惑星最強の粒子加速器」の謎:

 木星磁気圏には、太陽系惑星の中で、最高エネルギーのプラズマが存在します。例えば、木星の極域上空には、高エネルギーの電子やイオンといったプラズマの粒子が振り込んでいて、地球よりも桁違いに強いオーロラと電波を光らせています。

 一部の粒子は、光速とほぼ同じ速さにまで加速されています。これは地球オーロラではありえないくらい高いエネルギーに対応します。

 誰が、どのように加速しているのか?

まだ謎のままです。



3.「木星−衛星の連星系」の謎:

 木星の衛星は多種多様です。太陽系天体で地球以外に唯一火山を持つイオ、地下に水の海と生物がいるのではと思われているエウロパ、水星そっくりの磁気圏を持つガニメデ。それらの衛星は、木星磁気圏の中に埋め込まれ、木星磁気圏の高速なプラズマが吹きつけています。

 これらは小さな太陽系、いわば「木星系」です。太陽役である木星と、惑星役である衛星は、本物の太陽系の様にお互い影響し合っています。しかし、その詳細はまだ明らかにされていません。


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 この大きな謎に、実際に果敢(無謀?)に挑んでいる冒頭の若手研究者は、主に僕を含めて4人います。個性豊かで、研究内容も妙にバランスがとれていると思うんです。四重奏で喩えてしまうと、こんなパート分担でしょうか。


・第一バイオリン:主旋律担当 SBさん

 撮像観測に基づく、極域のオーロラ発光現象の研究。
 花形の研究テーマで中核。リーダー的淑女です。


・第二バイオリン:主旋律と掛け合う副旋律担当 SKさん

 粒子観測に基づく、磁気圏磁場の再結合現象の研究。
 オーロラ現象と対応する重要な磁気圏の活動です。
 クールで論理的なお兄様です。


・ヴィオラ:和声の真ん中で上下の音をつなぐ担当 著者木村

 電波観測に基づく、磁気圏粒子加速による波動現象の研究。
 地味な現象・人間です…。でも電波観測で皆の現象を関連付けたい。


・チェロ:四重奏の土台を作る担当 CTさん

 理論に基づく、電離圏−磁気圏の結合過程の研究。
 理論で数々の観測の解釈を支えます。
 どんな議論でもまず優しく受け入れてくれるお姉さんです。


 我ながらですが、実際の人柄や研究テーマが、各パートの役割に良く合っているんじゃないかなと思います。


 結成されて間もない楽団ですので、まだ完璧な連携にまでは至っていないかもしれません。でも最近、オーロラ観測と理論の見事な調和や、粒子と波動の渋い和音が聴こえてきています。


 個人的には、こういう個々の交流がじわじわ広がって、実際の科学成果や、「これが観測したい」という観測要求が次々と聴こえてくればいいのかな、と思っています。実現の可否は別にして、これらが最終的には、探査という大きな「演奏会」の一部を構成していけば、それはそれでとても嬉しいことです。


 もし将来、大演奏会の日時とホールが本決まりになったとき、演奏者の席はがら空き…というのは滑稽だし、寂しすぎます。この曲に限っては、そのようにしたくありません。


 曲を弾いている僕たち4人の横に、座って弾き始めてくれる人が来て、モーツァルトやホルストの曲に負けないくらいの、大編成のオーケストラで最終楽章を迎えたい。


 そのためには、まずは僕らが、皆が思わず弾いてみたくなるような曲を弾かなくちゃいけないと思っています。


 つまり、自分で手を動かして、良いサイエンスをしていくこと。これが、大演奏会実現への第一歩。


 この大曲はまだ、序曲が始まったばかりです。


(木村智樹、きむら・ともき)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※