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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第363号

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ISASメールマガジン   第363号       【 発行日− 11.09.06 】
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★こんにちは、山本です。

 8月25日に発生した 台風12号。進路の東側に当たる紀伊半島に大きな被害をもたらしています。

 三日間で1500mmもの雨が降ったところもあったようです。
被害に遭われた地域のみなさん 心よりお見舞い申し上げます。

 当初の予想では【上陸か】とも言われていた 関東地方。
山間部は雨量も多く被害もありましたが、相模原キャンパス周辺は、台風強風域の風と、時たま降る短時間の強い雨くらいで、雨の切れ間の方が長かった感じです。

 今週は、ISAS名誉教授の奥田治之(おくだ・はるゆき)さんです。
特別公開にISASにいらしたので ココゾとばかりにお願いして書いて戴きました。

── INDEX──────────────────────────────
★01:卵落し競技
☆02:「ひので」の観測成果〜上昇し始めた太陽活動と極域磁場の反転〜
☆03:大気球実験B11-04 終了
☆04:宇宙学校・くらよし 〜集まれ!未来の開拓者〜(9月11日(日))
☆05:「はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール
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★01:卵落し競技

 宇宙研の広報センターの高木君に、特別公開のイヴェントの一つである卵落し競技に誘われた。何でも、高所(〜20m)から卵を割らないで落とすという競技で、利用する材料は何でもよく、ただ、重量が50〜100g収まるという条件であった。おもちゃや遊び事の好きなこともあってつい参加することになった。


 もちろん、卵は10cmぐらいの高さから落とせば簡単に割れる。これを高いところから落としても割れないようにするためには、いろいろな工夫が 必要になる。たとえば、

1.パラシュートや風船などを使って降下速度を減速して軟着陸させる。

2.卵を弾力のある柔らかいもので包んで、落下時の衝撃を緩らげる。

あるいは、これらを組み合わせるなどがまず考えられる。各々にもさまざまな工夫があり、また、形状や装飾などに趣向を凝らして遊び心や、優美さを誘うようなものも人気があるだろう。


 これらは、いずれも、着地時に卵に与える衝撃(減速度)を少なくして卵の破壊強度以下に衝撃を落とそうとするものであるが、卵の持つ破壊強度を向上して強い衝撃にも耐える方法はないものかと考えた。卵を割るとき茶碗などの角にぶつけたりするが、これは、力を殻の一部に集中して割れやすくしたものである。これを逆手にとって、力を広い範囲の面に、しかも出来る限り均等に加えれば,破壊強度が上がるに違いない。

昔は、トンネルの形状は卵に似せて作られていた。これは、この形が周辺の土石の圧力を支えるのに最適だということであったと聞いている。これを利用したらどうだろうと考えた。


 そこで、卵の形状にできるだけ素直に支えるために、ゴム風船で包むことを考えた。100円ショップでおもちゃのゴム風船を買ってきて、これに卵をぴったりと入れ、二つの紙コップの口どうしを合せ、その間に挟んだ発泡スチロールの円盤の中央に,用意した風船にくるまれた卵をにつり下げる。

 基本的にはこれだけである。問題は、これをいかに垂直を保ちながら着地させるかである。横倒しで落ちたら卵の側面に力がかかりあえない最期を遂げるに違いない。垂直性を保つために、機体に回転を与えることを考えた。そのため、上部の紙コップの側面に切れ目を入れて羽を引き出し簡単な回転翼とした。

 この程度であれば、ほとんど落下速度を落とすことなく自由落下に近い形で落とすことが出来ると考えた。もちろん、着地の衝撃は大きいが、支持法の有利さで割らずにすむのではないかと想像した。


 しかしながら、これでは、あまりにも衝撃が大きすぎるのではないかと心配になり、着地時の衝撃を多少抑えるために、エアクッションを利用した簡単な緩衝法を付け加えたものも合せて用意した。

 これには、使用済みのポテトチップの空の紙筒の上部に発泡スチロールのピストンを置き、それにゴム風船に包まれた卵をつるす。筒部の横っ腹に小穴を開け、ピストンの落下に従って空気が逃げるようにした。こうすれば、着地時にある程度衝撃が抑えられ、高速落下にも耐えるものになると考えた。

 なお、いずれの場合も、筒内での卵の横ぶれを防ぐためと、多少斜めに着地した場合でも卵の側面に加わる力を和らげるために、卵に包装用のプチプチ緩衝材で鉢巻きをした。


 さて、この二つを持って、競技会に臨んだ。落下はG棟の屋上(高さはおよそ20mか)から行われた。もっとも期待した自由落下の場合は、見事に失敗、エアクッションを使ったものは成功であった。

 ただ、後で、よく調べてみた結果、自由落下の場合は、ゴム風船での包み方に問題があることがわかった。風船の口側から卵を入れるのが、むつかしかったために、風船の先端に穴を開けて入れたため、落下時にその穴から卵がすり抜けて落ちてしまったために割れてしまったようである。競技終了後、この部分をテープで補強して、再実験をを試みた結果では割れずに落ちた。 油断大敵、実験の怖さを改めて思い知った一日であった。


 競技の結果は、1位から3位まで、すべて小学校生に独占されてしまった。アイディアと言い,作品といい、見事なもので大人勢は兜を脱いだ。


 卵落し競技には,初めて参加したのであったが、小学生から、学生、一般人、宇宙研職員などさまざまな階層からの参加者が、さまざまな独自のアイディアで作られた作品で競技に臨み、そのアイディアの豊富さ、面白さに感心した。使用されている材料も、100円ショップや、日曜大工店などの身近な生活用品を利用したものが多く、発想の自由度も大きく、さまざまなアイディアを盛り込む余地もあり、また、物作りの楽しさも加わり、とても創造性の高い競技であると思った。


(奥田治之、おくだ・はるゆき)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※