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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第356号

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ISASメールマガジン   第356号       【 発行日− 11.07.19 】
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★こんにちは、山本です。

 日本中のサッカーファンを睡眠不足にした 女子サッカーワールドカップ。
ナデシコジャパンが 決勝戦でアメリカチームに勝って、金メダルを獲得しました。

 これで 気持ちよく特別公開の準備に取り組めます。(?)

 と 思ったら、今度は台風6号がやってきました。予報通りだと 日本列島の太平洋沿いを 北上するようです。
 進行速度が遅く、大雨になりそうです。梅雨からの雨が続いている地方では土砂災害が 懸念されています。
 皆さんの お住まいの地方は 大丈夫でしょうか?

 ISASが発行している「ISASニュース」、Webで公開されています。
 6月号は、「はやぶさ」の地球帰還1周年記念になっています。編集委員の久保田さんからメルマガ読者へ、特別に寄稿いただきました。

 今週は、赤外・サブミリ波天文学研究系の川田光伸(かわだ・みつのぶ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:宇宙研に戻って来ました
☆02:「はやぶさ」地球帰還1周年特集記事の紹介
☆03:「はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール
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★01:宇宙研に戻って来ました


 2010年の6月に名古屋大学から宇宙研に戻って来ました。まだ宇宙研が文部省の大学共同利用機関だった、1995年から1998年の3年半ほど宇宙研にいました。10年以上の時を経ての出戻りですが、その間の状況の変化にびっくりしています。私も今や、JAXAの「社員」です。


 私が宇宙研にいたのは、大学院を出た直後で、ちょうど「あかり」のプロジェクトが始まろうとしていた時期です。当時はIRISと呼ばれていた、日本初の本格的な赤外線天文衛星の立ち上げに関わり、プロジェクト化されてASTRO-Fとなったあと、その観測装置の一つである遠赤外線観測装置を開発するために、名古屋大学に移りました。1998年11月のことです。

 ASTRO-Fの開発ではいろんなことがありましたが、なんとか2006年の打上げにまでこぎつけ、「あかり」と命名されたこの衛星の活躍は、宇宙研のホームページ等でも広く紹介され、皆さんよくご存知ではないかと思います。「あかり」が得た観測データは、世界中の研究者によって解析され、日々新たな成果が出てきています。

 残念ながら「あかり」は、つい先日、科学的な観測を終了し、その役目を終えました。「あかり」の誕生と最後を宇宙研で立ち会う結果となったのは、非常に感慨深いものがあります。


 私は名古屋大学で宇宙物理学を専攻しました。物理学科のU研というところに所属していたのですが、ここはX線と赤外線の天文学を研究する研究室です。この研究室の特徴は、自ら観測機器を開発し、それを用いて観測を行うということです。X線も赤外線も地上での観測が困難なため、気球とか観測ロケット、人工衛星などに観測装置を載せて観測を行います。この分野での先駆的な研究を行っていたのが名古屋大学のU研で、その流れで、宇宙研とのつながりができました。


 私も、X線天文衛星「ぎんが」のデータ解析をしたり、宇宙赤外線背景放射を観測するロケット実験を行ったりしました。科学的な興味は、宇宙の進化、その結果としての我々生命の誕生と進化にあります。あまりに壮大なテーマなので、私などが辿り着けるような目標ではありません。

 まぁ、少しでも宇宙の理解を深め、今後につなげていければと思っています。宇宙や生命を理解することは、人類として取り組むべき課題で、それぞれの世代の人が一歩づつ進めて行くことが重要だと思っています。


 さて、私は海外出張とかの入国審査で、
「職業は?」
と聞かれると、
「天文学者」
と答えています。

 「天文学者」というのは一般受けがいいですからね。天文学者といいながら、実は一度も地上の望遠鏡を使って観測を行ったことがありません。もっぱら、気球やロケット、人工衛星に観測装置を載せて観測するのが専門です。扱って いる光も、目には見えないものばかりです。ある意味バーチャルな世界ですね。まぁ、今の地上望遠鏡も、自分の目で観測するわけではないので、似たようなものですが。

 ただ、我々が相手にしているのは現実の宇宙ですから、バーチャルではいけません。観測装置から出てきた信号と現実の世界をいかに正しく結びつけるか、これが研究者の腕の見せ所です。


 観測装置を作る場合、出力信号と現実の物理量をいかに正確に結びつけるかということが重要になります。たとえ検出器の出力信号(例えば電圧)を非常に正確に測定できたとしても、その値と現実の世界の物理量(例えばある波長の光の強度)を正確に結びつけられなければ意味がありません。

 また、得られた情報(波長ごとの光の強度など)から、現実の宇宙の姿をどれだけ正確に描き出せるか、ということが研究者に求められます。

 世の中、どんどんバーチャルな世界に比重が移っているように思われますが、自然科学を志す場合、いかにリアルを(「リアルに」ではなく)実感できるかが重要だと思います。


 休日など、山とか川とか自然に触れられる場所に行くとほっとします。そこにはリアルな自然がありますから。将来、宇宙が身近になって、気軽に宇宙に触れられるようになれば、宇宙に対するとらえ方も変わってくるのかもしれません。

 私もぜひ無重力という感覚を経験してみたいですし、地球を外から眺めてみたいと強く思います。それを経験すると、物事のとらえ方が大きく変わるのではないか、と思ったりします。

 でも、私が生きているうちにこれを経験することは、なかなか難しいでしょうね。それでも少しでも宇宙に近づきたいと、今は、次世代の宇宙赤外線望遠鏡SPICAの実現に向けてがんばっています。

 SPICAは、「あかり」に比べると(比較は難しいですが)1000倍ぐらい暗いものまで見えるようになります。なので、今までノイズに埋もれて見えなかったわずかな変化も、クリアに描き出すことができるようになります。SPICAによって、宇宙というリアルをより深く実感できるようになるのではないかと、今から期待に胸を膨らませています。


(川田光伸、かわだ・みつのぶ)


「ぎんが」
http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/ginga.shtml


「あかり」プロジェクトサイト
新しいウィンドウが開きます http://www.ir.isas.jaxa.jp/ASTRO-F/Outreach/


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☆02:「はやぶさ」地球帰還1周年特集記事の紹介

 小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰還して、はや1年が過ぎました。その栄誉を祝して、「ISASニュース」では、はやぶさプロジェクトのスタッフから寄せられたエピソードや独自の取材による裏話などを「ISASニュース6月号」にまとめて掲載しています。以下に目次のみ挙げますが、まさしく、初公開の内容です。

 また、イトカワの砂、ウーメラ探索記、「はやぶさ2」に関する記事も出ています。まだ読んでいない方は、ぜひ、下記のHPにアクセスしてみてください。

ISASニュースホームページ ⇒ 新しいウィンドウが開きます http://www.isas.jaxa.jp/ISASnews/

ISASニュース2011年6月号(PDF 4.8MB)
http://www.isas.jaxa.jp/ISASnews/No.363/ISASnews363.pdf


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ISASニュース2011年6月号(363号)
「はやぶさ」地球帰還1周年特別企画

初公開 「はやぶさ」にまつわる裏話

・1本のピン
・ターゲットマーカに搭載された写真
・内之浦に半径150mのドーム?
・報われたアライメントの苦労
・ホワイトボード導入の理由?
・「Uさんに代わってくれ」
・けがの功名!
・「はやぶさ」が小惑星に激突!
・横っちょを向いたカメラ
・運用英会話レッスン
・運命の電話番号との出会い
・地球帰還日:ウェブカメラに映らなかった裏側
・研究者が苦手なこと
・方探班と回収本部との連絡
・みんなでつくったパブリックビューイング
・宇宙検疫証明書!
・カプセル回収・輸送で 使われなかった道具たち
・カプセルの番人
・天頂に達した「はやぶさ」、天聴に達す

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 せっかくですので、ミニミニ裏話を1つ書きます。


「はやぶさ」には当初着陸脚があった?

 1990年初頭、小惑星探査計画の構想段階にて。小惑星からサンプルを採取する方法について、さまざまなアイデアが出ていました。
粘着力のあるもので採取するとりもち方式、
ブラシを回転させて採取する掃除機方式、
ロボットアームでサンプルを採取する方法などなど、
その際、探査機は小惑星に着陸する必要がありました。


 小惑星は名前のとおり、小さい天体ですので、その重力は非常に小さい。小惑星表面に着地した際、表麺から少しでも力を受けると探査機は跳ね返ったり、姿勢が傾いてひっくり返ることが予想されていました。そのため、着地した際に、上方にジェットを噴いて小惑星表面に探査機を抑えつけて、その間にサンプルを採取するアイデアがありました。

 着陸するためには、着陸脚が必要です。
3脚にしようか、
4脚にしようか、
打ち上げの時は脚をどのようにたたもうか、
などなど課題がいろいろとありました。


 一方、着陸は小惑星の昼間に行います。夜だと真っ暗で地形のでこぼこがわからず、危険だからです。小惑星表面は昼間は太陽光で熱せられ、温度が120度くらいになると考えられていました。そのため、長時間着陸していると、探査機に搭載されているカメラやセンサが壊れてしまいます。またジェットを噴いて安定して小惑星表面に静止するのもそう簡単ではありません。


 そこで、考え出されたのが、「Touchdown and Go(タッチダウン・ゴー)」方式です。
小惑星表面にタッチした瞬間にサンプルを採取し、再離陸する。
まさしく、鳥の「はやぶさ」が獲物を狙って急降下し、すぐに浮上するのと同じです。

「はやぶさ」の名前がついた由来です。

(久保田孝、くぼた・たかし)
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※※※ ☆03以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※