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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第351号

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ISASメールマガジン   第351号       【 発行日− 11.06.14 】
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★こんにちは、山本です。

 ISASの隣地にある相模原市立博物館では、8月17日まで「はやぶさ」帰還1周年企画展を開催しています。
(⇒ 新しいウィンドウが開きます http://www.remus.dti.ne.jp/~sagami/30-02tenjiannai-tokubetu.htm

 13日には、1日限定で「HAYABUSA BACK TO THE EARTH」“2009年バージョン”と“帰還バージョン”の2本立ての記念上映が行われました。

 聞くところによると 広報委員長はこの上映会をすごく楽しみにしていたそうですが、肝心な時に取材対応が二つ入ってしまい 渋々断念したのだそうです。

 広報委員長の命を受け、博物館イベントに参加したHさんからメールが届きました。

>1年も経っているのにお客さんも熱いですし、監督の熱い想いもとてもよく
>伝わってきましたよ。
>上映の合間に流してくださった帰還のドキュメンタリー映像がとてもよかっ
>たです。

 守衛さんに伺ったところ、相模原キャンパスの見学者は 普段の月曜日で20〜30名程度(博物館が休みなので)に対し1 3日は198名も来場されたそうです。

 今週は、宇宙航行システム研究系の佐伯孝尚(さいき・たかなお)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:小惑星を穿つ
☆02:大気球実験B11-02終了
☆03:「はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール
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★01:小惑星を穿つ

 小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰還してからもう1年になります。私は、「はやぶさ」の最後のオペレーションを、同じ相模原の管制室でソーラー電力セイル実証機「IKAROS」を運用しながら見ておりました。

 「はやぶさ」は私が博士課程の時に打ち上げられたのですが、その打上げを実際に内之浦で見た私にとって、7年の時を経て再び地球に帰ってきた「はやぶさ」の姿は大いに感動させられるものでした。

 また、その前後で行った「IKAROS」の膜面展開と分離カメラによる撮影も大成功し、2010年の6月は私にとって本当に忘れられない時期となりました。


 そして、現在、私は「はやぶさ」の後継プロジェクト「はやぶさ2」に関する業務に携わっております。「はやぶさ2」は、小惑星「イトカワ」とは異なるC型小惑星1999JU3(イトカワはS型小惑星)からのサンプルリターンを目指すミッションであり、2014年に打ち上げられることが予定されております。

 「はやぶさ」で明らかになった問題点を改良し、「はやぶさ」以降の新しい技術を導入することで、小惑星表面からの確実なサンプリングを目指します。また、「はやぶさ」にはなかった新しい挑戦も行います。

 その一つが小惑星に人工的なクレータを作ることです。なぜクレータを作る必要があるかといいますと、小惑星の表面物質は宇宙風化によって変性したり、他天体からの物質で汚染されている可能性があるためです。そのため、クレータを作り、過去の状態をそのまま保っている可能性の高い地下物質を露出させ、その中を観測することによって、太陽系の起源に迫る可能性を高めることが出来ます。

 また、可能であれば、露出した小惑星内部の物質の採取も試みます。このような野心的な挑戦のキーとなるクレータを生成するために「衝突装置」と名付けられた(そのままですね)新たな機器が搭載されます。私はその衝突装置の開発を手掛けております。


 一言で小惑星にクレータを作るといっても、なかなか簡単なことではありません。火薬を使って、その爆風によって表面物質を吹き飛ばすと、大事な小惑星物質を汚してしまいます。また、ロケットモータのようなもので加速して小惑星に物をぶつけるという方法では、加速するために必要な距離が長くなってしまい、よほどうまく小惑星を狙わないと当りません。

 ならば、探査機が直接地表に降りて行って穴を掘ればよいのではないかとも思いますが、重力の小さな天体で穴を掘るのは非常に難しい上に、小惑星表面は非常に熱いため、探査機が熱くなりすぎてしまいます。モグラロボットとかも考えましたが、サンプルをうまく探査機に渡すのは至難の業です。


 このようにさまざまな方法を検討した結果(ちなみに、このようなアイデア出しの時期が一番面白いのですが)、爆薬を使って金属体を瞬時に加速して小惑星にぶつけるという方法を採用しました。

 この方法の驚愕すべき点はその加速時間で、1000分の1秒程度の時間で秒速2km程度の速度まで加速することが可能です。これによって、小惑星物質の汚染を抑え、加速距離が短いため確実にぶつけることができクレータを作ることが可能になります。

 タイトルにもあります「穿つ」とは穴を掘るという意味ですが、普通には知られていないところをあばくという意味もあります。小惑星を穿って、世界に知られていない最先端の科学的成果が出ることを期待しています。


 話は飛んでしまいますが、冒頭の「はやぶさ」の最後のオペレーションの様子はインターネット配信されておりましたが、同時に同じ管制室で運用を行ていた我々は、「はやぶさ」人気に便乗して、カメラの前を通るときに「IKAROS」の文字の入ったジャンパーをカメラに向けてアピールしたことを覚えております。

 その甲斐あってか、「IKAROS」も知名度があがり、多くの方々からご声援をいただくことができ、とても励みになりました。

 「はやぶさ2」も、「はやぶさ」、「IKAROS」同様に皆様に愛されるプロジェクトになるよう頑張っていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

(佐伯孝尚、さいき・たかなお)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※