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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第348号

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ISASメールマガジン   第348号       【 発行日− 11.05.24 】
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★こんにちは、山本です。

 暑かったり、寒(?)かったり、気温の変動が大きい季節、九州南部も梅雨入りして、相模原も湿度が高くなっています。
 ソロソロ 正門からのアプローチにある 紫陽花が咲き始める頃です。

 23日に 相模原キャンパスで、「はやぶさ」映画の制作報告記者会見がありました。何も知らずに、仕事で玄関ホールに通りかかり、たくさんのカメラに驚いていると、

「國中さんも(俳優さんと)一緒にいるよ」

と教えてもらいました。

 一所懸命に見ても、さっぱりわかりません。やっと気がつきました。
 いつもは 決して見かけない スーツにネクタイ姿、
『わかる訳ないじゃん!』

 今週は、宇宙プラズマ研究系の笠原 慧(かさはら・さとし)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:わたしたちの宇宙(そら)
☆02:「はやぶさ」プロジェクトチームがフォン・ブラウン賞を受賞
☆03:イプシロンロケット 模擬射点音響環境計測試験を実施
☆04:君が作る宇宙ミッション 参加者募集 締切迫る(6月6日)
☆05:「はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール
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★01:わたしたちの宇宙(そら)

2010年の秋、笠原は杜の都の涼しくてやさしい夕暮れを満喫していた。
東北大学・青葉キャンパスの物理A棟7階から眺める茜色の空と深い緑の丘(山?)は、この地を京都と並んでいつかは住みたい土地ランキング上位に押し上げている。

その出張先、ひょんなことから知り合ったピアノの先生とバーでカレーを食べていると、なんでも知人にプロの詩人がいて、一緒に仕事をしている、という。

え?詩人?ですか?
職業柄、妙な親近感がわいたというのもあるかも知れない、笠原はその話に興味津々となり、遂にその詩人さんを紹介してもらった。 それが武田こうじさんだった。


武田さん>>
>突然のメール、失礼します。
>ぼくは仙台で詩人として活動している武田こうじです。
(中略)
>いつかお会いして、お話ができたらと思います!
>よろしくお願いいたします。


それから間もなくして、武田さんは宇宙研を見学に訪れ、あかつきが撮った月を眺め、展示ロビーを周り、笠原と雑談し、仙台へ戻っていった。後日、素敵な詩集も送ってくれた。

そして秋が終わり、冬がすぎ、春が来る頃、地震があった。


笠原>>
>武田さま、
>このたびの東北大震災、少しでも多くの方々が
>元気に元の生活に戻れるよう、ただただ祈るばかりです。
>武田さんはご無事でいらっしゃいますか。
>武田さん、そして武田さんのご家族やご友人のご無事をお祈りしております。


武田さん>>
>笠原さま
>メール、ありがとうございます。うれしいです。
>ぼくも家族も、なんとか無事です。
>わかりえる範囲では、友人なども大丈夫のようです。
>笠原さんのご友人たちは大丈夫だったでしょうか?
>それにしても、すごいことになりました。
>これからのことを考えると途方に暮れてしまいます。
>でも、なにかやらなくてはとも思っています。
>ぜひ、なにか一緒にできることがあれば、力を貸してくださいね。



目の前が真っ暗な困難の時、詩は、きっと人の心に一筋の光を差し込んでくれる。

だから、武田さんに詩を作ってもらえるようお願いした。
笠原にできるお手伝いは何か?
雑談を通じて話題を提供するくらいしかなかった。
だから、まずは空(宙)のことについて、(メールで)雑談した。


例えば、空の色の事。

笠原>>
>空が青く見えるのは、
>太陽の光のうち青い成分が沢山地上に飛んでくるためです。
>さらに晴れた日の海が青く見えるのも、空の青さと関係しているようです。
>ちなみに太陽光が地平線すれすれを通ってやってくるときは、
>赤い成分がたくさん到達しやすいので
>朝焼け、夕焼けは赤いんです。


例えば、空の高さの事。

笠原>>
>笠原が住んでいる川崎と、
>武田さんが住んでいる仙台との距離は、約320kmです。
>一方、空に向かって350km進んだところ(高度350km)は
>ちょうどオーロラの上の方にあたります。
>宇宙ステーションの高度も大体それくらいです。
>「宇宙は意外と近い」と思いますか?
>それとも逆に「仙台−東京は意外と遠い」と思いますか?
>ちなみに、地球の半径は大体6400kmなので、宇宙から地球を眺めると、
>高度350kmという場所は地球の外側、ほんの薄皮一枚のところなんです。


オーロラの事。

笠原>>
>オーロラは上空の大気が発光する現象です。
>宇宙空間の電子が加速されて地球に向かって降り込む時、
>窒素や酸素にエネルギーを与えます。
>そして窒素や酸素は、そのエネルギーを光として放出します。
>オーロラには緑、赤、ピンクなどがありますが、
>これはどの原子・分子が光るかによって決まります。
>例えば酸素原子なら緑や赤、窒素分子ならピンク、といった具合に。


武田さんも返事をくれた。

武田>>
>笠原さん、空にまつわる、いろいろな話、ありがとうございます。
>ぼくも、空ときけば、やはり色のことを考えます。
>青空、そして夕焼けの赤い空、夜明けの紫色の空,,,
>でも、それは太陽の光の中からはじまっているんですね。
>海の色も空と太陽と関係しているんですね。
>なんか、不思議です。そして、すごいです。
>今は、海のことをいろいろ考えてしまいます。
>でも、海も空も、太陽もずっとぼくたちと生きてきたんですね。
>そう思うと、ふと顔を上げてみたくなります。

>その色の話から、
>以前小学生の男の子と詩のワークショップの時に、
>つくった詩を思い出しました。
> こんな詩です。


 海って不思議だなぁ
 海の色は青色に見えるけど
 ふれてみると 透明なんだ
 だから ぼくは
 海を見つめて
 その色を頭の中に
 しまっておくんだ
 そうすれば いつまでも
 なくなることはない


>また、これも小学生の女の子とつくった詩です。

 わたし 空に電話してみた
 でも 留守電だった
 くすくす ほんと
 きゃはは うそ
 わらっていると どっちも ほんと
 うふふ わからない
 あはは ここにいる
 答えなんて いらない ほんと


>さて、今日の夕暮れをみて、書いた詩です。

 この痛みの中で
 はじめるんだ
 かけがえのない日々は
 心に刻んだから
 消えることはない
 この夕暮れに
 いつものあなたを
 見つけるんだ
 また泣いてもいい
 ここで生きるんだ
 悲しみの景色に
 色をつけてみたら
 やっぱりここは
 わたしたちの街だった



宇宙研近辺・東京近郊では、人々はだいぶ元の生活に戻りつつある。
でも、詩の力を必要とする人はまだまだいると思う。
もう少し、雑談を続けてみようと思う。

(笠原 慧、かさはら・さとし)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※