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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第338号

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ISASメールマガジン   第338号       【 発行日− 11.03.15 】
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★東日本大震災で災害の影響を受けられた皆様に心よりお見舞い申し上げます。

 皆様のご無事をお祈りいたします。

 ISAS相模原キャンパスは、東京電力の計画停電の影響で、Webページが閲覧できない時間帯があります。(停電のために Webサーバを停止するため)

 停電の時間帯は、日々変わることが予想されています。

 今週は、衛星運用・データ利用センターの斎藤 宏(さいとう・ひろし)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:今だから言える「はやぶさ」「あかつき」「イカロス」3つ巴運用
☆02:「はやぶさ」カプセル内の微粒子の初期分析の中間結果について
☆03:すばる望遠鏡、爆発的星生成銀河M82の銀河風の起源を解明
☆04:「はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール
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★01:今だから言える「はやぶさ」「あかつき」「イカロス」3つ巴運用

 「はやぶさ」が帰還させたカプセルが全国行脚し、未だに人気が陰ろうとしていない。秘話ではないが、今だから言える「はやぶさ」「あかつき」「イカロス」3つ巴運用の裏側を一部ご紹介...


 科学衛星・探査機の運用スケジュール調整は、各衛星・探査機の優先度により調整されている。

「あかつき」「イカロス」について、種子島射場での最終試験〜打ち上げ〜初期運用〜金星への遷移軌道運用〜金星軌道投入オペ〜その後の運用まで、衛星地上系は、大きな問題もなく、無事運用されていると、何の困難もなく、誰でも簡単に運用調整等ができたか、のように思われているが、実際は、ちょっとした不具合1つが、3探査機(打ち上げ直後の初期運用中の「あかつき」「イカロス」と地球帰還を目指す「はやぶさ」)を全滅させる可能性があるという、大きなリスクを背負っての運用であった。


 これは、3探査機が、同じ周波数帯であるX帯を使用し、運用に使える地上局が臼田64m局(以下臼田局と記載)と内之浦34m局(以下内之浦局)の2局、且つ、可視時間即ち運用可能時間がきわめて接近(ほぼ重なる)という、嫁2人に婿3人の状況であった。なぜ、こうなったかは、「はやぶさ」不具合に伴う帰還時期がずれた事と、同じロケットで同じ周波数帯を使用する探査機を2台搭載する決定をJAXAがしたためである。

 通常、こんな場合は、搭載余裕のある方の探査機に別周波数の送受信機を追加し、途中までは別周波数での運用をする等の対策をするのが普通であるが、予算難と打上げまでの時間がなかったのとミッション期間を長くするために、別周波数帯の送受信機搭載をやめたように聞いている。


 はたして、2010年1月中旬の軌道決定系打合せにて、3衛星(探査機であるが、通常使用している言葉で「衛星」と以下記載する)の地上運用局要求が全て出そろい、その結果、3衛星運用が競合不可避である事が認識され、断続的に、衛星間個別折衝が行なわれた。さらに、1月末頃に「はやぶさ」側より、大幅な運用局追加要求が出て、該当衛星(探査機)プロジェクトだけでは、もはや、運用局調整ができない状況になった。


 このため、2月上旬、堂谷調整役が、3衛星運用調整担当者(「はやぶさ」西山、「あかつき」石井・林山=衛星運用/プロジェクト支援の兼務、「イカロス」津田)及び調整計画作成担当(斎藤、馬場、長谷川)と再三打合せ、関係者間の現状認識合わせを行うと共に、「はやぶさ」側に打上ウィンドウ期での追加要求の再考余地があるかどうかの確認を行った。


 2月中旬に「はやぶさ」より、軌道計画の見直しと対DSN局調整の進展に合わせた再考後の改訂要求、及び各衛星の運用要求基本ポリシーを再検討してもらい、その後、運用計画変更のたびに、連日のように調整案のUpDate作業が続くことになった。


 3月中旬に「はやぶさ」、「あかつき」より、DSN局の確保状況の情報を更新してもらい、それをもとに、3衛星3つ巴を解消すべく、三方一両損のような最低限度のJAXA地上局を確保する調整案でまとまったかに見えた。(3月下旬)


 しかるに、4月上旬に「はやぶさ」TCMΔV(【TCM:Trajectory Correction Maneuver:軌道補正マヌーバ】【ΔV:デルタV:エンジン噴射】)を「あかつき」「イカロス」打ち上げ期間に比重を重くした計画(5月22日〜30日)に再変更してきたため、「はやぶさ」運用パスを臼田局/内之浦局の「あかつき」「イカロス」運用パス前を追加し、「あかつき」「イカロス」初期運用中は、「はやぶさ」運用をDSN局へ振りかえ、問題発生時には、3衛星の状況を見ながら再調整する方向で一応折り合った。


 結局、地上局が不足する「はやぶさ」運用時間は全てDSN局の援助で実施する事になった。DSN局の多大なる援助がなかったら、おそらく「はやぶさ」は帰還できていない。


 このように、3探査機の運用スケジュール調整窓口だけでなく、プロジェクト・エンジニア、場合によってはプロマネまで参加しての、運用調整方針の調整会議が、2〜5月の打ち上げ直前まで続き、何とか、臼田局/内之浦局の運用スケジュール案が、一応調整できた。

 といっても、打ち上げは一寸先は闇の世界で、状況変化に伴い、何度もスケジュールを微調整(最後は、管制室での現場調整)を行い、3探査機お互いが「三方一両損」のような状態で調整しながら運用する状況が、「はやぶさ」帰還まで連続することになった。


 ところで、現在、全ての科学衛星・探査機を運用している、衛星運用システムの基本的な部分は、「のぞみ」以降大きな変更をしてない。但し、15年もたつと老朽化したハードウエアを少しずつ更新しながらのシステム運用が続いている。

 システムの作り方は洗練されたものではないが、以外と安定したシステムで、今まで、完全なシステムダウンなしで運用している。(確実さが売り物と思っている。)

 「あかつき」「イカロス」打上げ及び初期運用と「はやぶさ」帰還で、各地上局の相当な酷使がたたったのか、各地上局の機器で、小さな不具合発生が続き、不具合対応と運用局の不具合変更調整担当としては、結構繁盛(実は、これらの部門はヒマでないとマズイのであるが)が続いている状態....


 このように同じX帯を使用する2つの探査機「あかつき」「イカロス」の打ち上げ及び初期運用が、「はやぶさ」地球帰還オペと3つ巴に重なり、運用局・運用時間の調整が非常に難しく、さらに、1つの不具合発生が3探査機の生死を決めかねない事象に発展する可能性が非常に高く、3つ巴運用成功の陰で、見えない運用支援各社(主契約は日本電気、三菱電機、富士通)を含む全関係者の不具合発生防止努力=「縁の下の力持ち」があっての正常運用できたと言えよう。このようなリスクを現場担当者のみに負わせる機構方針というものは、今後あってはならないもの、と肝に銘じるべきである。


 2010年12月「あかつき」の金星軌道投入に失敗し、再チャレンジに向け、諸検討が始まっているが、運用現場=鉄火場状態で冷静さを失わずにいろんな不具合に対処できるスーパーマン的なシステムエンジニア(SE)を果たして、次回の再チャレンジまでに何人養成できているだろうか?

 自分の専門分野を磨くのに3〜5年を費やし、その上で、全体を見渡しながら、冷静に判断できるSEの技量と経験を磨くのに、さらに最低3〜5年かかる。(インフラ的な業務部門では、“できて当たり前”で済まされ、不具合、即、減点される御時勢では、優秀な中堅・若手の要員が確保できにくい。今日も古手の天下。明日も...)


 組織は人で成り立つ、これを無視すると、明日は来ないのである。

(斎藤 宏、さいとう・ひろし)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※