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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第335号

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ISASメールマガジン   第335号       【 発行日− 11.02.22 】
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★こんにちは、山本です。

 ISASで働き・研究する人たちのナマの声を伝えてきたISASメールマガジン。読者も1万人を超え、“まだまだ ガンバラねば”と毎日執筆者探しに奔走しています。
 今週は、赤外・サブミリ波天文学研究系の鈴木仁研(すずき・とよあき)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:「あかり」に照らされた銀河たち
☆02:【宇宙科学の最前線】を 更新しました。
☆03:「はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール
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★01:「あかり」に照らされた銀河たち


 「はい! 先生、それはコップ座です。」
小学5年生の理科(当時)では、オリオン座や北斗七星などとても有名な星座が教えられる中、授業の星座クイズでこんな突拍子もない無名な星座を発言した私は、同級生に大笑いされて、とても恥ずかしい思いをした記憶があります。この出来事が大きなきっかけとなり、最初は星座クイズに正解するために必死に星座を覚えていましたが、次第に星雲、星団、そして銀河の存在を知るようになり、毎晩のように天体望遠鏡で夜空を眺めて宇宙に陶酔したものです。
それから約20年間、天体観測装置の飛躍的な性能向上によって、小学時代に知り得た宇宙の姿からでは想像がつかない程の多様な宇宙の姿を浮かび上がらせつつあります。


 宇宙の基本的な構成員は銀河たちです。銀河というと綺麗な渦巻状の姿を思い浮かびますね。典型的な銀河には数百億から数千億個もの星が集まっています。また、星の誕生には欠かせないガスや塵(チリ)も存在します。銀河の中心や渦巻腕には、特にガスや塵が豊富に存在しているので、多くの生まれたばかりの赤ちゃん星を見つけることができます。こうした星が多く存在する場所を星形成領域と呼びます。星は生命に必要な物質を作ってくれるため、人は星から生まれたと言っても過言ではないでしょう。つまり、生命体の根源は星にあります。それゆえ、天文学者は、
星形成領域に目を向けて、星がガスや塵の“繭(まゆ)”からどのように生まれてくるのか、
どの程度の頻度で生まれているのか(星形成活動度)?
といった研究を赤外線という光に高い感度を持つ観測装置を用いて精力的に行っています。こうした観測装置を搭載した赤外線宇宙望遠鏡の一つに「あかり」があります。


 「あかり」は2006年2月22日(日本時間)に宇宙空間へ打ち上げられ、全天を赤外線でくまなく観測し、宇宙に存在する多くの銀河たちが「あかり」によって照らされてきました。
私たちが住む天の川銀河に比較的近い銀河に注目すると、同じ赤外線でも観測する波長によって銀河の多様な姿を示すことが分かりました。例えば、レチクル座に位置するNGC1313は地球からの距離がおよそ2000万年光年にある棒渦巻銀河です。
近赤外線(波長3、4マイクロメートル)では銀河中心の棒状構造が明るく見えますが、これは年老いた星からの光を見ています。
一方、遠赤外線(波長65、90、140、160マイクロメートル)では星の光で暖められた塵が出す光を見ており、銀河全体、特に渦巻腕に塵が多く存在します。
中間赤外線では渦巻腕に沿って局所的に明るくなっており、波長7、11マイクロメートルでは有機物の巨大分子(芳香族炭化水素)が出す光を、波長15、24マイクロメートルでは若い生まれたばかりの星が放つ紫外線によって高温に熱せられた小さな塵が出す光を主に見ています。
このように波長によって見ている対象が違い、それらの空間分布が異なるということは、銀河内のそれぞれの領域で環境が異なることを意味しています。


 赤外線で撮影された銀河の画像をさらに処理すると、銀河内の様々な領域における星形成活動度を調べることができます。「あかり」によって、棒渦巻銀河NGC1313の星形成活動度は、銀河中心の棒状構造よりも渦巻腕で2倍以上も高いということが明らかになりました。ここで、さらに驚くべき星形成が銀河の果てで起きているのが分かったのです。この銀河の外縁部には、何らかの要因でガスが吹き払われた結果、直径約1万光年にも達する他に類を見ない超巨大な空洞があります。この空洞の周りには吹き払われたガスが大量に集積されています。こうしたガス溜まりの場所で、典型的な銀河の渦巻腕よりも10倍も高い星形成活動度でかつ、大規模な空間スケールで星形成が誘発されているのです。このような誘発的作用は、しばしば爆発的な星形成を引き起こして銀河の環境を劇的に変化させると考えられています。


 同様の大規模に誘発的星形成を起こしている銀河にM101があります。
おおぐま座に位置するM101銀河は、地球からの距離がおよそ2400万光年で、直径が17万光年と、天の川銀河のほぼ2倍もある巨大な銀河です。回転花火のように広がった渦巻腕には、若い星々が数多く存在し、中でも、銀河外縁部の渦巻腕には巨大な星形成領域が点在しています。
「あかり」によって、銀河外縁部に存在する全ての巨大な星形成領域で、銀河中心付近よりも活発に星形成が起きているということが分かりました。天の川銀河のような渦巻銀河は、一般に銀河中心付近ほど星形成が盛んに起きていると考えられています。M101銀河は、天の川銀河のような渦巻銀河であると考えられていますが、非常に活発な星形成領域が銀河外縁部に存在するという風変わりな銀河であることが、「あかり」の観測によって明らかになったのです。M101銀河は、過去に伴銀河と潮汐相互作用を起こしたことが分かっています。それによって巻き上げられた水素ガスが、M101銀河の外縁部に高速度で(150km/s程度)で降り注ぎ、それによって活発な星形成が誘発されているのではないかと考えられています。


 今回取り上げられたNGC1313やM101銀河以外にも、「あかり」によって照らされた銀河たちの星形成などの研究が多くなされており、日々新たな発見が見出されています。JAXA宇宙科学研究所の将来計画には、SPICA(スピカ)という次世代の赤外線天文衛星があります。これまでの赤外線天文衛星と比べて圧倒的に高い感度と高い空間分解能での観測が可能になります。SPICAの時代ではさらにエキサイティングで多様な宇宙の姿を見せてくれることでしょう。


 現代天文学は日進月歩です。最前線に立つ研究者たちから最新の研究成果の話を直接聞ける大変良い機会の一つが特別公開です。ぜひお越し頂き、私たち研究者との交流によって宇宙に陶酔するきっかけとなれば幸いです。

(鈴木仁研、すずき・とよあき)

あかりプロジェクトサイト
新しいウィンドウが開きます http://www.ir.isas.jaxa.jp/ASTRO-F/Outreach/

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※