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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第331号

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ISASメールマガジン   第331号       【 発行日− 11.01.25 】
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★こんにちは、山本です。

 先日、ネットで新聞を読んでいたら、「はやぶさ」が映画になるとの記事がありました。2012年公開! になっています。

 JAXA全面協力?
 監督とキャストは近く発表?

 川口プロジェクトマネージャーは、誰??
 的川先生は 誰なんだろう???

(マニアックなところでは、的川先生の秘書役の予想は、我が家では“衆議一決”あの女性俳優さんでした。)

 相模原キャンパスでも大規模な撮影が予定されているようです。
詳細が発表になるまで 乞ご期待! ですね

 今週は、宇宙航行システム研究系の 森 治(もり・おさむ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:君も太陽系をヨットに乗って旅しよう!
☆02:SMILESの観測ミッション終了と今後の運用について
☆03:宇宙学校・しんじゅく 〜宇宙に夢中!〜(2月6日(日))
☆04:「はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール
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★01:君も太陽系をヨットに乗って旅しよう!

 2010年6月に最大のヤマ場であった、ソーラーセイルの展開に成功したIKAROSは、いよいよ宇宙ヨットの実証を開始することになりました。
この決意を込めて、著者は2010年7月のメルマガ「イカロス君の大冒険」で、以下のように宣言しました。
「IKAROSの旅はまだ始まったばかりです。これから
・ソーラーセイルによる加速、
・ソーラーセイルによる航行技術の獲得
というフルサクセスミッションを通じて、世界初の挑戦を続けていきたいと思います。」
(ISASメールマガジン305号
http://www.isas.jaxa.jp/j/mailmaga/backnumber/2010/back305.shtml
今回は、これらのミッションにどうやって挑んだかについて紹介します。

 まずは、ソーラーセイルによる加速実証です。実は、IKAROSでは、ソーラーセイルを広げた直後から加速していることがドップラー効果(速度によって電波源の周波数が変化する現象)によって比較的容易に確認できました。しかし、単に太陽光圧で加速しただけでは不十分です。ソーラーセイルを実用化するためには、加速量を正確に評価できなくてはならないという信念に基づき、私たちは、IKAROSを惑星間軌道で実施することにこだわりました。
(IKAROSの「I」は「Interplanetary」を意味しています)

 ソーラーセイルによる加速量は、太陽距離、太陽角、膜面のたわみ等に依存します。そこで、IKAROSではこれらの条件を少しずつ変化させながら、定期的に精密軌道決定を行って加速量を評価しました。この結果、ソーラーセイルの加速誤差を目標とする5%以内に抑えることができました。
(IKAROSは半年で100m/s以上の加速量を得ました)

 次に、ソーラーセイルによる軌道制御です。これは、膜面の方向を変更することで実現できます。IKAROSは、膜面にマストをもたず、スピンの遠心力で膜面を張っています。この方式は、膜面の大型化には有利ですが、膜面の方向を変更するのが大変です。
(ちなみに、アーサー・C・クラーク博士のSF小説「太陽からの風」では宇宙ヨットのレースが描かれていますが、スピン方式を採用したチームは膜面制御に失敗し棄権しています・・)

 一番手っ取り早いのは、「ガスジェット」を使う方法ですが、燃料を消費してしまいます。そこで、IKAROSでは、光の反射率を変更できる「液晶デバイス」を新たに開発し、膜面の一部に貼り付けておきました。軌道上で膜の左右の反射率を変化させ、膜面を任意の方向に操るという実験を行い、見事成功しました。

 さらに究極の技があります。「太陽光圧トルクによる姿勢制御」です。膜面が太陽に対し直角になっていない場合、(液晶デバイスがなくても)膜が太陽から受ける力は左右で若干アンバランスとなり、これをうまく利用すれば方向を制御できます。さまざまな指向錯誤を経て、膜面のたわみや反射率も踏まえた非常に複雑なダイナミクスを理解し、この操舵術をマスターしました。そして、2010年12月8日、ついにIKAROSは金星の外側に最接近し、ソーラーセイルによるフライバイを実現しました。あかつきは1日早い12月 7日に金星の内側に到着しましたが、これらの違いはまさにソーラーセイルによる軌道制御の効果と言えるでしょう。

 IKAROSは12月末までに予定していたすべてのミッションを達成しました。これらのミッションを通して、IKAROSは単に世界初の宇宙ヨットになっただけでなく、すぐれた性能を発揮した宇宙ヨットになったと確信しています。

 宇宙ヨットの運用はとてもエキサイティングです。宇宙は空気抵抗や重力が排除できるため、地球上ではまったく気がつかない小さな力も大きな影響力を持ちます。これらを駆使した宇宙ヨットの操縦は宇宙研究の醍醐味で、実際に体験することで、いろいろな「技」を磨くことが出来ます。そして、2011年IKAROSは新たなミッションを開始しました。こちらについては、また別の機会にお話しましょう。

 いよいよ「太陽系大航海時代」が現実になってきました。新しい宇宙ヨットの研究開発も本格的に進めています。宇宙を気ままにクルージングできる日が来ることを信じてがんばりたいと思います。

「君も太陽系をヨットに乗って旅しよう!」

(森 治、もり・おさむ)

IKAROS専門チャンネル
新しいウィンドウが開きます http://www.jspec.jaxa.jp/ikaros_channel/index.html

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※