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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第329号

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ISASメールマガジン   第329号       【 発行日− 11.01.11 】
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★こんにちは、山本です。

 昨年12月から始まったISASのtwitterは、1ヶ月でfollowersが7700名を超えています。やっぱりネットの波及効果は凄いなぁ

 メルマガも頑張って読者を増やさないと(どうやって?)

 今週は、宇宙科学広報・普及主幹の阪本成一(さかもと・せいいち)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:箱根駅伝に思う
☆02:「ひので」が見た金環日食
☆03:「はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール
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★01:箱根駅伝に思う

 年末年始には多くのスポーツで大きな晴れ舞台が用意されています。サッカー、ラグビー、アメリカンフットボール...テレビ等で観戦された方も多いのではないかと思います。プロのハイレベルな競技はもちろん見応えがありますが、アマチュアの競技にも捨てがたい魅力があります。より速く、より高く、より強く。肉体の極限をひたすら追求する競技スポーツは、人間の、最も人間らしい営みのひとつといえます。

 なかでも私が毎年注目するのが箱根駅伝です。基本的に個人の能力を競うことが多い陸上競技にあって、母校の名誉を背負い、汗の染みた襷をつなごうとする選手たちのひたむきな姿にはいつも心を動かされます。今年の駅伝でも、逃げる早稲田と追う東洋、アクシデントに耐える選手たち、シード権をかけた復路での熾烈な争い、繰り上げスタートで惜しくも途切れた襷など、ついつい正座して見ることになるドラマがありました。当事者にとっては長く苦しい道のりでしょうが、そのプロセスの中にこそ悦びがあり、ドラマを生む要素があります。それは研究も同じです。

 冷静に考えれば駅伝は区間ごとの個人記録の合計を競う競技です。にもかかわらず、個人の成績がチーム全体の成績を左右し、個人の棄権がチームの棄権を即座に意味するという切羽詰まった状況が、選手たちすべてを一生懸命にさせ、見るものをハラハラドキドキさせるのでしょう。私が特に強い思い入れを持つのは、こういった状況が、学生時代に私が没頭した漕艇競技とも通じるものがあるからかもしれません。日本一を目指して厳冬期にも早朝5時から始まる漕艇部の練習の厳しさには定評がありましたが、敵が背後から迫りくるという点では駅伝も精神的には辛そうです。また、表舞台にのぼる人たちだけでなく、彼らを支えるサポート陣も含め、チームの総力を結集する必要がある点なども含め、競技スポーツとは研究プロジェクトの推進とも共通する要素が多いように思います。いずれにせよ、その成績や記録だけを伝え聞いただけでは、この感動をと喜びを共有することはできないでしょう。

 それにしても、往復で200人しか走らない地方大会のために、国内でもっとも重要な幹線道路の一つである国道1号線を毎年2日間にわたって部分的ながら封鎖できているのは、よく考えてみるとすごいことです。運営関係者の周到な準備もさることながら、そこで行われていることが何なのかについて、十分な理解が得られていることが大きいのではないかと思います。駅伝が「国民生活にどのような利益をもたらすか」という類の問いかけが仮にあったとしても、それに対して私たち日本人が、「利益」という言葉の持つ広く深い意味を理解して、適切な解を導き出すことができることの証しでもあります。

 ひるがえって知性の極限を追求する基礎科学をとりまく状況はどうでしょうか。学術研究、特に基礎科学の意義として、波及効果がしばしば引き合いに出されます。また、その効果が表れるには時間がかかるため、百年の計が必要だとも言われます。これらの主張は間違いではなく、実際にそういう視点も持たなければならないのでしょうが、私にはそれが論点のすり替えともモラトリアムとも思えるのです。

 学術研究の真の意義は、新しい人類の知の地平を切り開くことにあります。そしてその営みが楽しいからこそ、私たち研究者は科学を志すのです。力を研ぎ澄ましてトッププレイヤーになり、優れた成果を出すことがもちろん大切です。しかし、その過程で得られるワクワク感を皆さんとうまく共有できているでしょうか。この楽しみをごく限られた人たちとしか共有できていないとしたら、そしてそれがゆえに学術研究の意義を波及効果のみで語らざるを得ない事態を招いているとしたら、その責任の多くは私たち研究者自身にあります。

 日ごろ科学に関心のない方々にこちらを向いていただくことは至難の業ですが、「はやぶさ」、「あかつき」、イカロスなどの話題で宇宙に注目が集まっている今は、千載一遇のチャンスです。私たちが挑戦しているのは太陽系探査だけではありません。この人気を一過性のものにしないよう、そして広く宇宙科学全般に興味を持っていただけるよう、努力を続けます。ちょうど新聞やテレビが駅伝を、その結果だけでなく選手たちの挑戦について多くの紙面や時間を割いて紹介するのと同じように、こちらでも研究成果だけでなく研究者の挑戦についてもご紹介して、皆さんと宇宙科学の研究・開発のワクワク感を共有したいと思います。今年もどうぞよろしくお願いします。

(阪本成一、さかもと・せいいち)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※