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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第322号

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ISASメールマガジン   第322号       【 発行日− 10.11.23 】
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★こんにちは、山本です。

 先週号で お知らせできなかったのですが、11月20日(土)NHK教育TV「サイエンスZERO」で「あかり」の特集番組が放送され、村上浩教授がゲスト出演しました。

 見逃された方、今週 再放送があります。
サイエンスZERO 宇宙の進化を解き明かせ〜赤外線で見る星と銀河の神秘〜
再放送 2010年11月26日(金)[教育]午後6:55〜午後7:30
詳しくは、
新しいウィンドウが開きます http://www.nhk.or.jp/zero/schedule/index.html

 今週は、10月から広報・普及担当になった高木俊暢(たかぎ・としのぶ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:モンスターを追う天文学者たち
☆02:「あかつき」の金星周回軌道投入日、12月7日と決定
   金星キャンペーン「あかつきの金星を見よう!」
☆03:民生用最先端SOI技術と宇宙用耐放射線技術の融合により耐放射線性を持つ
   高機能論理集積回路の開発基盤を世界で初めて構築
☆04:「はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール
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★01:モンスターを追う天文学者たち

 皆さんは「モンスター銀河」という言葉から、どのような銀河を想像するでしょうか?

 残念ながら、モンスターがたくさん住んでいる銀河ではありません。(そんな銀河が見つかれば最高ですね)最近、国立天文台と宇宙研の研究者が、「宇宙初期に大量のモンスター銀河を発見」という報道発表を行いました。
(⇒ 新しいウィンドウが開きます http://www.s.u-tokyo.ac.jp/press/press-2010-39.html
「宇宙初期」という言葉が物語っているように、モンスター銀河は、若かりし頃の宇宙に多いのです。


 どんな銀河が「モンスター」っぽいのか、少し考えて見ましょう。

 最近、モンスター・ペアレントという言葉をよく耳にします。これは、「何か」がすごく極端な親という意味ですね。モンスター銀河も、ある銀河の性質がすごく極端なのです。例えば、モンスター銀河では、ある量が私たちの住んでいる天の川銀河よりも1000倍も大きいのです。ちなみに重さではありません。

 ここで少しヒントです。銀河を構成しているのは、様々な星やガス、あと(忘れてはいけない)ダークマターです。また、私の専門が赤外線天文学であることも大きなヒントになります。

 なぜかというと、モンスター銀河は可視光でみると暗いのですが、赤外線では超絶に明るいのです。目には見えない光でみると、とんでもない姿が現れるところがモンスターらしいですね。


 ちなみに「モンスター銀河」という言葉は、報道発表用に考えられたニックネームで、専門家の間では、「サブミリ銀河」と呼ばれています。これまたよく分かりませんね。この名称が分かりにくいので、ある研究チームがモンスター銀河という興味をそそるような言葉を使ったのだと思います。

 サブミリ銀河の「サブミリ」というのは、波長を表しています。赤外線より少し波長が長い光を「サブミリ波」と呼びます(波長がミリメートルより少し短いという意味です)。サブミリ波で観測すると明るく見える天体がモンスター銀河です。先に述べた報道発表では、サブミリ波である空を観測したら、大量のサブミリ銀河があったという結果が紹介されたのです。


 赤外線で超絶に明るいモンスター銀河が、なぜサブミリ銀河なのでしょうか?
それは、赤方偏移の影響です。サブミリ銀河はたいてい100億光年よりも遠くにあるので、銀河から放射された赤外線が、地球に届くまで100億年の旅をします。この間、宇宙が膨張しますので、その影響で赤外線だった光は、少し波長が延びます。そのため、遠くの超光度赤外線銀河がサブミリ銀河として観測されます。

 すべての物質は、その温度にふさわしい波長で光っています。銀河からの赤外線を出す物質は、−240℃程度のとても冷たい物質です。それは、たくさんの星の光によって暖められた塵(チリ)です。

 塵やガスというのは、新しい星を作る材料になるということを知っていれば、モンスター銀河の正体が見えてきます。モンスター銀河では、大量の星がいっせいに誕生しているのです。なんと、1年間に太陽1000個分の星ができます。モンスター銀河を近くで見れば、毎日新しい星が次々と誕生する様子を観察できるでしょう。これは、天の川銀河の1000倍の勢いに相当します。(そう、これが答えです)


 宇宙研の赤外・サブミリ波天文学研究系では、このような怪物の正体を暴くための研究が行われています。赤外線衛星「あかり」で重点的に観測した空をさらにサブミリ波で追観測した結果が、冒頭に紹介した報道発表になりました。私も、この研究チームの一員です。

 この天域は、来年から本格的に始まるALMA(*)の科学観測の重要なターゲットになることは間違いありません。また、欧州宇宙機構(ESA)が打ち上げたサブミリ波望遠鏡ハーシェルでも観測してもらえることになりました。(ちなみに、私が代表で観測提案をしました)

 宇宙研の将来計画にも、SPICAという赤外・サブミリ波望遠鏡があります。10年後の宇宙研では、SPICAを駆使して、モンスターの徹底解剖が行われているでしょう。乞うご期待!

(高木俊暢、たかぎ・としのぶ)


*ALMA(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計:Atacama Large Millimeter/ submillimeter Array)
 アルマ望遠鏡計画(チリのアタカマ砂漠に建設中)とは、東アジア(日本が主導)・北米・ヨーロッパ・チリの諸国が協力して進めている国際プロジェクトです。
 直径12mの高精度アンテナ50台と「ACAシステム」と呼ばれる高精度アンテナ16台を、チリ・アンデス山中の標高5000mの高原に設置し、ひとつの超高性能な電波望遠鏡として運用する画期的な計画です。
新しいウィンドウが開きます http://alma.mtk.nao.ac.jp/j/

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※