宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > ISASメールマガジン > 2010年 > 第313号

ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第313号

★★☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ISASメールマガジン   第313号       【 発行日− 10.09.21 】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★こんにちは、山本です。

 先週 雨が降って、やっと秋らしくなったと思ったのに、また暑さがぶり返してきました。それでも熱帯夜から解放されたので、ヨシとしましょうか。

 観測ロケットと大気球の実験が終わり、実験班が帰ってきた筈なのに、なんだか静かな相模原キャンパス。皆さん、代休や夏休みを取って夏の疲れを癒しているのでしょうか

 今週は、宇宙科学共通基礎研究系の村田泰宏(むらた・やすひろ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:電波天文学と電波利用
☆02:「はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール New
☆03:「はやぶさ」実物大模型の貸出展示スケジュール
☆04:相模原キャンパス見学、臨時休館のお知らせ
───────────────────────────────────

★01:電波天文学と電波利用

 天文学は宇宙にある天体からの“なにか”を観測して、その天体がどうなっているか、宇宙がどうなっているかを調べる学問です。人は、大昔でも星や太陽、月など目で観測できたわけで、それが何だろうか? と思い始めた時点が天文学の始まりだと思います。それ以来、天文学は、人間の目で、またガリレオが望遠鏡を作って星や惑星からの光を見て進歩してきました。

 それが、1930年台に、アメリカの電話会社の技術者であったカール・ジャンスキーによって、太陽系の外からくる電波が発見されました。もともとは、通信の邪魔をする雑音源を研究していたのですが、そのなかに宇宙からの電波を見つけたのです。それ以降は、赤外線、紫外線、X線やガンマ線などのいろいろな電磁波で宇宙からの放射が発見され、光(可視光)でない天文学が可能となりました。このような新しい観測手段を得て、ずっと光で研究をしていた天文学は、20世紀に飛躍的に進歩します。

 ここで電磁波と波長の話をしておきましょう。電磁波は、空間の電界や磁界の大きさが波打って進んでいく電気的な波で、それが電波なのか、はたまた、赤外線なのか、可視光、X線かはその波の大きさ(波の山と山の間隔:波長)で決まります。X線は、だいたい1億分の1〜1兆分の1メートルと とても波の間隔が小さいのです。光だとほぼ数百万分の1メートルくらいと、やはりちっちゃい波ですが、X線よりは大きい波です。電波法という法律があって、それによると、約1万分の1メートル(0.1ミリメートル)より波の大きいものを電波と定義しています。0.1ミリメートルの波も大きさが1kmくらいあるものも電波です。

 この波長の違いによって、見えるものはどう変わるのでしょうか?
 ちょっと手で水に波をたてるのを思い浮かべてください。大きな波を立てるときは、手をゆっくり動かして波を立てます。波もゆっくり大きく立ちます。それに対してちっちゃい波を立てるためには、手を激しく動かして、ちっちゃい波を立てなければなりません。細かく手を動かさなければならないので、ちっちゃい波を立てる方が疲れますね。ちっちゃい波をたてるほうが、エネルギーがたくさん必要です。

 同じことは、天体にも言えます。波長の短い波を立てることができるのは、大きいエネルギーを持つ天体で、エネルギーの小さい天体は、短い波は立てられず、大きな波しか立てることはできません。それが波長の長い電磁波、つまり電波や赤外線になります。そのエネルギーの小さい天体とは、たとえば、宇宙空間を漂う塵(ちり)やガス(水素ガスや分子)からの放射は、赤外線や電波で見ることができます。宇宙の初期には高エネルギーだった、宇宙背景放射もいまは宇宙が大きくなるとともに弱まり、電波や赤外線でよく見えるようになっています。

 一方で、エネルギーの高い天体は何でも出しますので、大きな波、つまり電波も放射します。そのような天体は電波から、光、X線までとすべての波長で観測することができます。この波長によって天体の強度がどう変わるかということは、観測する天体のことを知る上で、重要な情報となります。このように、今まで光だけで見ていたのではわからなかったことが、非常によくわかるようになりました。

 このように電波天文学は重要な1つの天文学の分野になりました。今回はひとつ電波天文学での特殊事情を紹介したいと思います。それは、電波の利用の話です。今皆さんは、電波のヘビーユーザーになっていると思います。身の回りを見ても、携帯電話、無線LAN、地デジに衛星放送、ラジオ、SUICAなどのICカードなどさまざまなシーンで電波を使っています。

 たとえばAMラジオでは、番組表には、ニッポン放送1242kHzと書いてあります。これは波を1秒間に何回波打つかという表し方で、周波数と言います。この周波数を用いてニッポン放送の電波を波長に換算することができます。波長は約240メートルになります。FM横浜は、周波数84.7MHzなので、3.5メートル、携帯電話はFOMAだと15センチメートルくらい。
と、それぞれの利用目的に応じて波長(もしくは周波数)が決まっています。


 これは、違う用途に同じ波長の電波を使うと電波が区別できなくなりお互いに干渉して困ってしまうからです。そのために、電波の利用は電波法で規定され、電波利用の用途への波長の割り振りを、国際電気通信連合(ITU)で調整しその結果を受けて総務省が管理しています。たとえば、衛星に指示(コマンド)を送る電波の波長は、いくつか定められていますが、たとえば波長14.5センチは使っていいことになっています。先ほどのFOMAのお隣さんです。衛星通信の場合は、よりパワーの強い電波を出すので、お隣さんに影響を与えないように細心の注意が必要です。


 電波天文学も電波の利用の1つです。電波天文学では電波を出すことはないのですが、天体からの電波は、ほかの電波利用と比べて、数千倍とか数万倍以上とけた違いの弱さなので、簡単にほかの用途からの影響を受けます。それでは困るので、電波天文学で主要に使う波長が決まっていて、その波長では電波天文に邪魔になる放射はしないようにしてもらっています。


 たとえば1400〜1427メガヘルツ(波長21センチ)は電波天文のために使用できるよう調整されています。なぜこの波長かというと、宇宙空間にある水素の原子が出す電波がこの波長であるからです。この21センチという波長は、遠い銀河の場合、地球から遠ざかっているために赤方変移を起こして波長が長くなります。すると、遠い銀河では、電波天文のために調整されている上記の波長の範囲からはずれてしまうことも起きます。そうすると、ほかの通信で使われているところにくる強度の強い電波と格闘しながら観測することになります。

 次の国際的な大型の電波天文計画の1つにSKA(square kilometer array)があります。この望遠鏡は比較的波長の長い電波で、集光面積1平方キロメートルの高感度望遠鏡を作るという計画で、この望遠鏡も上記の理由など、電波天文で保護されていない波長の観測も考えています。観測はしてもいいですが、妨害の電波が来ても文句は言えないということです。そのために、現在検討されている観測候補地は、人がいなくて妨害の電波が少ないオーストラリア、南アフリカが候補となっています。

 また、波長が短くなってくると天文以外の用途は限られてくるので、事情はほかの光などとの観測状況に近くなると思われます。ただ、最近では電波利用の短波長化もいろいろあり、大丈夫とは言い切れません。

 このように、電波天文学はいろいろな電波の用途と共存して観測を進めていかなければなりません。すでに割り当てられている波長を維持することも含めてすべての電波のユーザの皆様のご理解の上成り立っているものです。
今後ともご理解よろしくお願いいたしたいと思います。

(村田泰宏、むらた・やすひろ)

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※