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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第312号

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ISASメールマガジン   第312号       【 発行日− 10.09.14 】
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★こんにちは、山本です。

 9月も半ば近くになり、夜には秋の虫の鳴き声も聞こえて来るようになりました。やっと、猛暑の夏も終わるのかと思いながら相模原キャンパスまで来ると、ミンミンゼミの鳴き声があちこちから聞こえてきます。

 ヤッパリ まだ夏は終わっていなかった。

 今週は、宇宙輸送工学研究系の大山 聖(おおやま・あきら)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:火星飛行機
☆02:大気球実験BS10-06終了
☆03:宇宙学校・いしかわ 〜宇宙を知ろう!〜(9月20日(月・祝))
☆04:相模原キャンパス見学、臨時休館のお知らせ
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★01:火星飛行機

 みなさんこんにちは、宇宙輸送工学研究系の大山です。
(ISASメールマガジン第218号(発行日2008.11.18))に自己紹介を書かせていただいていますのでもし興味がありましたらご覧ください。

http://www.isas.jaxa.jp/j/mailmaga/backnumber/2008/back218.shtml

今日は我々が現在取り組んでいる火星飛行機の研究についてお話しします。


◆火星飛行機ってなに?

 火星には地球上の100分の1程度の大気があります。火星大気はとてもとても薄いですが、この大気を利用すれば、火星の大気中を飛行することが可能です。火星の大気中を飛行できる火星探査機が開発されれば、これまでの火星探査とはちがい、火星のいろいろなところにいっていろんなことを調べることができるようになります。将来、みなさんが火星に観光旅行に行けるようになるころには、火星飛行機を使って、火星の遊覧飛行もできるかもしれません。

火星飛行機のイメージ図(東京大学大学院の田中らによって設計された火星飛行機)

◆火星で飛行することの難しさ

 飛行機は、機体にかかる重力と同じだけの揚力を翼で作りだすことで落ちずに飛行することができます。火星では重力が地球上の約3分の1しかないので、翼により作り出す必要がある揚力も地球上の約3分の1ですみます。これだけ聞くと、なんだ簡単じゃん!と思うかもしれませんが、じつはこの約3分の1の揚力を発生させるのが火星ではとてもとても大変なのです。

 小学校・中学校・高校では習いませんが、飛行機の翼がつくりだす揚力はこのように表されることが知られています。

揚力=0.5 × 大気密度 × 飛行速度 × 飛行速度 × 翼面積 × 揚力係数

 ここで、「大気密度」は大気(地球上では空気)の密度、「飛行速度」は、飛行機が飛ぶ速度、「翼面積」は飛行機の翼の面積(大きさ)、「揚力係数」は翼の性能を表す指標です。火星では、この式にでてくる「大気密度」が地球上の約100分の1になるので発生できる揚力も約100分の1になってしまいます。火星では重力が3分の1になることを考えても、

●飛行機の重さを約33分の1にする
●翼の面積を約33倍に大きくする
●約33倍の性能を持つ翼を作る
●約6倍の速さで飛べる飛行機を作る

などが必要になってきます。


 このほかにも、磁場がなく(=コンパスが使えない)、もちろんGPS衛星も飛んでいない(=GPSが使えない)火星でどのように飛行機を自律飛行(飛行機自身がどう飛ぶか自分で考えて飛ぶこと)できるようにするか、酸素のない(=燃料を燃やすことのできない)火星でどうやって推力を得るか、火星まで行く間どうやって小さくして積み込むか(つばさを折りたたむ?)、飛行場のない火星でどうやって飛行機を飛びたたせるかなど、たくさんの課題があります。ぜひみなさんのアイディアがほしいところです。


◆今後の計画

 2020年前後の打ち上げを目標にした火星探査ミッションMELOS1の検討が現在行われています。このミッションで火星飛行機を火星に持って行って飛ばすことを目標として、JAXAや国内外の大学・研究機関の研究者がいっしょになってこの火星飛行機の研究を進めています。

 現時点(2010年9月現在)で、考えられている火星飛行機のミッションは約100kmの距離を30分程度で飛行して、地表の写真を撮影するとともに、火星地表に残っている残留磁場を観測することです。NASAの火星観測衛星マーズグローバルサーベイヤーが火星の残留磁場を大まかには観測していますが、飛行機を用いてより詳細な残留磁場分布を観測することにより、なぜ残留磁場が火星に存在しているのかなど火星の歴史を知る上で、とても有意義な情報が得られると考えられています。


 ぜひ火星飛行機を実現させ、科学的な成果を上げると同時に、若い人たちに夢を与えられたらと思います。皆様のご協力をよろしくお願いします。m(_ _)m

(大山 聖、おおやま・あきら)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※