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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第311号

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ISASメールマガジン   第311号       【 発行日− 10.09.07 】
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★こんにちは、山本です。

 先日、「特別公開」の反省会が開かれました。来場された方に、暑い中 書いていただいたアンケートの中間集計が配布されました。問いの中に【相模原キャンパスのの特別公開をどのようにして知りましたか?】
が あり、
1位:家族・知人からの紹介
2位:ISAS・JAXAのホームページ
に続いて、堂々の
3位:ISASメールマガジン
で、約1割の方がメルマガを読んで「特別公開」に来場されたことになっています。

 「はやぶさ帰還」のフィーバーも一段落して、メルマガの配信数増加も以前のペースに戻り、1万人を超えるのは11月過ぎでしょうか。

 今週は、宇宙輸送工学研究系の細田聡史(ほそだ・さとし)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:20年遅れの夏休みの宿題
☆02:宇宙学校・みやざき 〜宇宙に夢中!〜(9月11日(土))
☆03:「はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール
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★01:20年遅れの夏休みの宿題


 「はやぶさ」関連の仕事が一段落した頃に、メルマガ担当の山本さんから「何か書いて」という無茶(デ)ブリを投げられ、しばらく惚けていたのですが、このままではいけないと8月31日の今日ようやく筆を執りました。


 『8月31日』という日付、いわゆる「夏休み最終日」は多くの人にとって特別な日でしょう。社会人になった今でも、仕事の納期前日になると嫌でもこの日を思い出します。

 この原稿が掲載される頃、世の小中学生諸君(と、恐らくはそのご家族の皆さん・・・)は無事に仕事を終え、納品を果していることでしょう。小学生の私は、日誌や計算ノートなどは配布された直後に先生の前で消化を始める問題児だったわけですが、どうしても作文が書けずにグズグズと最終日までもつれ込むのが毎年のパターンでした。そんな『書きもの嫌い』が「はやぶさ」のアウトリーチ活動を兼務して、毎日のように情報発信を行うようになるのですから、未来というのは読めないものです。

 というわけで
「今なら
  あの時どうしても書けなかった読書感想文が簡単に書けるのではないか?」
と思い、『はやぶさ君の冒険日誌2010(ただいま!)』を題材にして読書感想文を書いてみることにします。

※「はやぶさ君の冒険日誌」リンク
http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/hayabusa/fun/adv/index.shtml


ーーーここからーーーーー

「『はやぶさ君の冒険日誌』から貰ったもの」

 始まりは、二人の学生がコピー用紙の裏に描いたプロットだったと聞く。
2001年、まだ主人公の名も目的地もコードネームで呼ばれていた時代、後に「はやぶさ」と呼ばれる宇宙機が、大宇宙に羽ばたく前に描かれた未来の物語があった。ハイゲインアンテナに顔を描いたキャラクターがプロジェクトの全容を易しい言葉で教えてくれる。全ての漢字にはルビが振ってあり、低学年でも自力で読める配慮がしてある。冊子は毎年版を重ね、そこに描かれた未来への希望を次々に叶えていき、今年ついに全てが史実となった。その厚さ5ミリにも満たない小さな冊子には、実に60億キロにも及ぶ壮大な冒険の記録が綴られている。


 年1回開催される特別公開(当時は一般公開)には大勢の人が集まるが、当時は低学年向けの資料が少なかったのであろう。来場した未来の博士達に何とかしてこの野心的な大冒険を伝えようと、彼女らが自主的に製作したと聞いている。

 「はやぶさ君の冒険日誌」に込められた高い広報意識は、その後の「はやぶさ」のアウトリーチ活動ですべきことの全てのエッセンスが込められていた。
端的にまとめると、以下の3点である。

1.人は人(人格)に共感する。語り部を用意する。
2.ハードコアな一次情報を内部から提供する。情報は「はやぶさ君」を語り部としてイメージし易いものにする。
3.「はやぶさ」で本当に魅力的な部分は、圧倒的な本物の技術とそれを支える人間ドラマである。


 まず、宇宙機に「ミューゼスC君(後の「はやぶさ君」)」とニックネームを付け、擬人化することで名前の浸透をはかった。「第20号科学衛星 MUSES-C」より圧倒的に口にし易く、愛らしくも凛々しい挿絵は物語への感情移入をスムーズにさせてくれた。内容は、科学に普段触れない人にも分かるように
「自分の仕事を母に説明できるかを基準に文書を推敲した」
と聞いている。
そして史実に忠実に描く以上、版を重ねるごとに加筆と修正を余儀なくされた。「はやぶさ」が遭遇した困難とそれを克服する描写。限られたリソースの中で奮闘する様子は、まさに手作りの冊子でアウトリーチ活動を行う彼女らの姿にも重なる。


 『はやぶさ君の冒険日誌』は「はやぶさ」を題材にした二次創作ではない。絵本の体裁をとっているが、あくまで史実に忠実なハードコアストーリである。ハードコアな一次情報を「はやぶさ君」と言う“語り部”を介してイメージし易くなるよう配慮している。あえて例え話などで噛み砕かずストーリーを進めたのは、この冒険日誌でアピールすべき本質は「はやぶさ君」の健気さや勇ましさではなく、宇宙機「はやぶさ」の成し遂げようとしていること、すなわち世界初の挑戦の数々が持つ「冒険心」、「好奇心」、そして本物のみが持つ魅力で惹き付けたかったからに違いない。


 彼女らに限らず、「はやぶさ」には高い広報意識を持った研究者が集まった。寺薗さんをはじめカメラチームがスウィングバイ成功時に発信した地球の写真は、当時H-IIA-6号機の失敗で意気消沈していたJAXAの人たちを奮い立たせることができた。的川先生はリアルタイム情報の積極的な公開に努め、多くの記者や宇宙ファン達を虜にした。そして帰還直前からは、我々もアウトリーチ活動の一翼を担った。


 新設した特設サイトは「冒険日誌」の広報ポリシーを取り入れたコンテンツと情報発信チャンネルを用意した。普段表に出てこない方達にスポットを当てた『関係者メッセージ』はたちまち大反響となった。60名を超える寄稿から、「はやぶさ」を帰しているのは人間の不断の努力である事を感じて頂けただろうか?

 また、伝説の「タッチダウンブログ」を引き継ぎつつ、さらにライトユーザ向けの情報発信源としてツイッターも積極的に利用した。これらを通じて、我々と一般の方がリアルタイムで苦楽を共にした結果、一過性の興味から持続力のある興味に発展していく手応えを感じた。言わば『共感』である。この結果、ファンの方々が無償の「優れた宣伝マン」となり、さらに多くのJAXAファンを増やす草の根活動を展開してくれた。寺薗さんの言葉を借りれば
「広報が人を変え、人が文化を創った」
素晴らしい先例であろう!

 そしてツイッターは他の宇宙機たちとの交流という、思いがけない副産物をもたらした。宇宙を舞台に、還る船から征く船に受け継がれる意志。彼等を語り部にした、まさに運用チームの熱い本音がダダ漏れの会話。その心を皆が感じてくれた。宇宙機4兄妹(「はやぶさ」、「あかつき」、「イカロス」、「みちびき」)の会話は、4倍以上の効果があった。宇宙機4兄妹だけでなく、いつかロケットやアンテナや色々なものが喋り始めるかもしれない。益々ソラは賑やかになるだろう。いつか振り返ったとき「はやぶさ君の冒険日誌」がそのエポックだったと言えたら、大冒険で見つけた卵は見事孵ったという事だろう。

 「はやぶさ」のアウトリーチ活動を通して、人々の心に「興味」や「元気」と言う名の火を灯せたのなら、これに勝る効果はない。

皆さんは気づいただろうか? 冒険日誌には「はやぶさ君」の驚いた顔はあっても泣き顔は一枚もない。作者の『彼は前向きな子だから』という理由だからだ。どんな困難にもどこか明るさを持って働いた「はやぶさ」チームの「しなやかな強さ」とリンクする。「はやぶさ」への限りない愛情に運用の本音を上手く反映した小野瀬氏・奥平氏の二人の作者に、改めて敬意を示したい。

(2233文字。16ツイート分。原稿用紙5枚半)

ーーーここまでーーーーー


 意外とすんなり書けました。あの夏、睨み続けた2枚の原稿用紙がなかなか埋められなかったのは、感想文というか“人に考えを伝える文章”を書く経験がまだ足りなかったからですね。今回取り組んだ「はやぶさ帰還特設サイト」における情報発信で、わずか数百文字のツイートに、自分のメッセージを込めつつ対象の魅力を紹介することに腐心しましたが、これはまさに読書感想文の延長線上にある作業です。最近は高専など「ものづくり教育」を進める機関でも国語教育に力を入れていると聞きますが、研究・開発にはコミュニケーション能力が何より求められるので正しい方向だと思います。


 あの日嫌々こなした夏休みの宿題も、こうして未来の仕事に繋がってくるものですね。二十余年前の自分にはこの声は届きませんが、今を生きる皆さんには届くことでしょう。
「学生諸君、どの勉強も真面目に取り組んで損はないと思うよ?」


 夏休みが開けた9月からは仕事がてんこ盛りです。皆さんと一緒に頑張って仕事と勉強に取り組みたいと思います。

 ところで、明日は8月32日ですよね?
 おかしいな、カレンダー間違ってるよ・・・。

(細田聡史、ほそだ・さとし)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※