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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第300号

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ISASメールマガジン   第300号       【 発行日− 10.06.22 】
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★こんにちは、山本です。

 今週号は、2004年9月7日の第1号から数えて300号になります。

 久しぶりに、このメルマガを始めた 当時の広報委員長・的川泰宣(まとがわ・やすのり)さんに 原稿をお願いしました。2007年の正月以来、3年半ぶりの登場になります。

── INDEX──────────────────────────────
★01:「はやぶさ」から
☆02:あかり+すばる+スピッツァー、連係プレーで惑星誕生の謎に迫る
☆03:「はやぶさ」カプセルの相模原キャンパスへの輸送完了!
☆04:「はやぶさ」最後の地球画像」画像処理でくっきり
☆05:「IKAROS」世界初のソーラー電力セイル展開状態の撮像成功!
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★01:「はやぶさ」から

 「はやぶさ」のカプセルが相模原に帰ってきた。6月18日午前2時過ぎである。深夜の宇宙科学研究所の正門前には大勢の人が歓呼の声を挙げて出迎えた。入口左に「夢と希望をありがとう はやぶさ」と大書した横断幕。7年間の長旅を経た「はやぶさ」の、戦地からの「引揚者」はこれだけである。「本隊」は華々しくオーストラリアの夜空に散った。


 6月13日の夜、上空に出現した光の点がみるみるうちに輝きを増し、すぐに人々の影が地上に見えるほどの明るさになった。と見る間に太い光の帯はほどけて、おそらくは体のあちこちを溶かしながらバラバラとそれぞれの個々の大きな真珠に姿を変じていく。やがて真珠は小さな小さな粒になって大空に消えていった。ふと見るとその黒い虚空のすぐ下に懸命に走り抜けている弾丸走者がいる。「はやぶさ」の消えた闇をただ一人生き抜いて生還すべく猛スピードでダッシュしている。そうか、これは断末魔の「はやぶさ」が自らの最期に渡した「いのちのバトン」を受け継いだ光の玉手箱だ。──わずか10秒あまりの凝縮されたバトンタッチは、波瀾の連続だった「はやぶさ」の一生の、見事で完璧なフィナーレを飾るあまりにも美しいシーンとなった。


 事実は小説より奇なり、と言う。それをこれほど如実に現実のものにした「はやぶさ」は、私が人生で出会ったまれに見る存在だったと言える。そしてそれは、「はやぶさ」プロジェクトのど真ん中にいたあらゆるメンバーにとってそうであろう。個々の絶体絶命のピンチ──たとえば3基あるホイールの2基目が壊れた2005年10月3日、着陸したはずが理解に苦しむデータを残したままはるか彼方に飛び去った同年11月20日、2度目のイトカワ着陸・離陸後に姿勢制御装置のヒドラジンがすべて漏洩し化学スラスタが使えないことが判明した同年12月2日、チームの奮闘むなしく遂に「はやぶさ」が連絡を完全に絶った同年12月8日、帰路最後のイオンエンジンが故障して万事休すと思われた2009年11月19日──考えてみれば、その度毎に奇跡的に見事に方策を見出し、編み出し、工夫して乗り越えてきた。


 中でも私が目撃した2005年11月から12月にかけての管制室での5回にわたるイトカワへの降下オペレーションは、思い出しても目頭の熱くなるよ うな感動的な光景だった。そこでは、繰り返し襲ってくる人生で初めての試練と難題に、懸命に取り組む若いスタッフの美しい姿があった。昨日は3kmを降下するためにぎこちなく慎重なやりとりと手つきをしていた面々が、今日は「はやぶさ」に同じ距離を降下させるのに、スムーズで慣れた手さばきでオペレーションをこなしている。技術的な問題を解決するために必死になっているのに、日一日と自信と輝きを増しながら成長していく素敵な表情とチームワーク──逆境は人間を鍛える。読書を何年間も続けても、若者たちをこれほど加速度的に進歩させることはないであろう。


 その「はやぶさ」の小さな体が文字通り燃え尽きていった空に、今日も宵の明星が光を放っている。さあ次は「あかつき」と「イカロス」にわれわれの主戦場を移そう。日本の太陽系探査が世界をリードする時代を、コップの中の嵐を乗り越えて、宇宙科学にたずさわるすべての人々の力で切り拓いていこう。
「はやぶさ」の余韻を日本の未来をつくる情熱に合流させて、新たな共感の世紀にふさわしい事業に挑戦しよう。

(的川泰宣、まとがわ・やすのり)

「はやぶさ」特設サイト
新しいウィンドウが開きます http://hayabusa.jaxa.jp/

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※