宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > ISASメールマガジン > 2010年 > 第298号

ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第298号

★★☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ISASメールマガジン   第298号       【 発行日− 10.06.08 】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★こんにちは、山本です。

 ソロソロ暦の上では 「梅雨入り」です。相模原キャンパスの紫陽花も咲き始めたようです。

 今週末は「はやぶさ」の帰還、カプセル回収に向けて 慌ただしくなります。
毎日『本日のはやぶさ君』が更新されているブログにも、新たな動きがあるのでしょうか。

 今週は、月・惑星探査プログラムグループの澤田弘崇(さわだ・ひろたか)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:夢を乗せて「IKAROS」深宇宙へ出航
☆02:「はやぶさ」地球外縁部からWPAへの誘導目標変更完了
☆03:今週のはやぶさ君 と 「はやぶさ」軌道情報
───────────────────────────────────


★01:夢を乗せて「IKAROS」深宇宙へ出航

 空気を裂くような轟音と眩い光と共に雲の中に消えていくH-IIAロケット。生まれて初めて見る打ち上げは想像よりも遥かに綺麗で迫力のあるものでした。

 いよいよ「IKAROS」が未知なる旅へと出航しました。我々の夢を乗せて。

 2010年5月21日6時58分22秒、「IKAROS」は種子島宇宙センターよりH-IIA-17号機によって打ち上げられました。H-IIA-17号機はH-IIAシリーズで初めてとなる惑星間軌道への打上げで、金星探査機「あかつき」を主衛星として打ち上げられたロケットです。

 世界初のソーラー電力セイル技術の実証機「IKAROS」はあかつきの相乗り衛星(探査機)として打ち上げられました。ソーラーセイルによる加速実証、ソーラーセイル上薄膜太陽電池による発電技術実証、二つの世界初のミッションを目指した実証機は通常の探査機では異例の2年半という短期間で開発され、[「あかつき」と共に金星に向かって旅立ちました。


 私はこの「IKAROS」という実証機の立ち上げから2年半、業務時間のほとんどをこの実証機の開発に費やしてきました。大学のころから宇宙ロボットに関する研究をしており、JAXA入社後も主に宇宙飛行士と一緒に働く有人支援ロボットに関する研究開発を行っていました。ひょんなことから惑星探査、ソーラーセイルという未知の分野の業務をお手伝いすることになったのですが、まさかここまでどっぷりとソーラーセイル探査機の開発に浸かるとは思ってもみませんでした。

 少ないメンバーで始まった開発ですが、その道のりは険しくとても大変なものでした。他本部の専門家の方々や、大学機関、学生、メーカー、様々な方の協力の元に打ち上げを実現することができました。


 さて、話を種子島に戻します。「IKAROS」は打上げのため、3月末にISASを出発したのですが、種子島に到着後、私は射場作業のための第一陣として種子島宇宙センターに乗り込みました。射場では電気試験、最終組み立てと特に大きな問題もなく作業が進みました。射場での作業はどれも初めての体験で、「IKAROS」をロケット側に引き渡した後も、フェアリングの移動から、ロケット取り付け、フェアリング越しからの最終外観検査など、全てが新鮮で貴重な経験をさせてもらうことができました。

 「IKAROS」は「あかつき」のPAF直下に搭載するという、今までにない全く新しい打上げ方法であったために、ロケットに搭載されると全く触ることができなくなってしまいます。「IKAROS」を搭載するためのアダプタに取り付けられた後は、打上げまでは基本的には外部からのバッテリ補充電しかできません。打上げ日が迫るに従って、日に日に高まる緊張感の中、「IKAROS」に対しては何もできないという何とも不思議な気持ちでした。

 ノミナルで設定された打上げ日、5月18日の前日夜、24時間で作業が進められるロケットの機体を見にいきました。18日朝の天気予報は悪かったのですが、機体を見ているときにはまだ晴れていて、周りが真っ暗なため星空がとても綺麗に見え、暗闇の中に明るく照らし出されるロケットはとても素敵な夜景でした。

 ご存知の通り、残念ながら5月18日は天候により、打上げ6分前に中止されました。地球周回の衛星であれば、ロンチウインドウがそれなりに長く、雨雲が通り過ぎるまで待つということができるのですが、設定された時間その瞬間に打ち上げなければいけないのが惑星探査機の宿命であるため仕方ありません。

 仕切り直しの5月22日、私は広報対応のため竹崎観望台で記者のみなさんと一緒に打上げに臨みました。少し雲が出ていましたが、青空が見えていて前回と違って安心して打上げに臨むことができました。

 轟音と観客の大歓声の中、空に消えていくロケット。打上げが成功し、ロケットからの分離が信号により確認されたときに「あかつき」や大学衛星の関係者と交わした熱い握手。どれも一生忘れることのできない瞬間でした。


 記者や関係者の笑顔と拍手に包まれる中、一つの達成感とは別に、心の中ではプレッシャーを感じていました。探査機は軌道に投入されてからがミッションの始まりなのです。打上げ後、記者対応をしてからすぐにISASの運用室に戻る予定になっていて、そこで「IKAROS」を捕捉して初めてスタート地点、まだまだ先は長いという思いでした。

 特に私は構造・機構担当として、セイルを展開するミッション部をゼロから設計し開発しました。初期のモデルは部品の選定から設計、図面を引くまで全て自分でやり、試験と改良を何度も重ねました。出来上がったフライトモデルはもはや自分の息子のような感覚です。
「ちゃんと動いてくれよ…」
と展開が成功するまでプレッシャーが消えることはないと思います。


 今現在、「IKAROS」は特に大きな問題もなく順調に運用が進められていて、このメルマガが配信される頃には、おそらくセイル展開運用の最終段階に入っていると思います。セイルが展開した後もソーラー電力セイルの発電実験、光子加速実証などミッションはまだまだ続きます。まずはセイルを正常に展開されるためにメンバー一丸となって頑張っていますので、みなさんによい 報告ができればと思っています。


 また、「IKAROS」では応援キャンペーンとして去年の12月から今年の3月にかけて、応援メッセージや名前の募集を行いました。お陰さまで、私の地元である長野を含め全国からたくさんの応募を頂くことができました。
名前やメッセージ、寄せ書きはDVDとアルミプレートに刻まれて「IKAROS」に搭載されています。まずは、みなさんの名前とメッセージを無事に深宇宙まで運ぶことができてホっとしています。セイルの展開を成功させるためには、ネームプレートが詰まった先端マスでセイルを引っ張ることが必要ですので、皆さんの想いと共にセイルを展開し、大きく開いたセイルに太陽光をいっぱいに受け金星の向こうまで届けることができればと想っています。


 「IKAROS」のミッションはまだ始まったばかりですが無事に出航することができました。応援して下さった方々、関係者の皆さん、これまで協力して下さった全ての方々にこの場を借りて感謝したいと思います。本当にありがとうございました。

 専門チャンネルやツイッターなどでも最新情報を発信していますので、これからも応援よろしくお願いします。


「IKAROS」専門チャンネル
新しいウィンドウが開きます http://www.jspec.jaxa.jp/ikaros_channel/

ツイッター(イカロス君)
新しいウィンドウが開きます http://twitter.com/ikaroskun

(澤田弘崇、さわだ・ひろたか)

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※