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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第276号

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ISASメールマガジン   第276号       【 発行日− 10.01.05 】
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★明けましておめでとうございます。山本です。

 2010年は「はやぶさ」が帰って来ます。「PLANET-C/あかつき」「イカロス」の打上げもあります。

 ISASメールマガジンの読者が6000名を超えました。今年も、皆さんに喜んでいただけるメルマガを目指してガンバルゾ!

 新年の一番手は、前本部長の井上 一(いのうえ・はじめ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:宇宙科学研究本部長の任を終えて
☆02:宇宙に夢中! −宇宙学校・とくしま−
☆03:あかつきキャンペーン 応募締切:2010年1月10日(必着),IKAROS × Light Sail共同応援キャンペーン
☆04:今週のはやぶさ君
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★01:宇宙科学研究本部長の任を終えて

 2005年10月からこの9月まで4年間、JAXA宇宙科学研究本部の本部長を務めました。いろいろと宿題を残してはしまいましたが、何とか重責を全うすることができ、ほっとしています。本部長在任中は、忙しく立ち働きつつも、常に肩の荷の重さを意識していたわけではありませんが、本部長を終えてみると、実に気が楽になりました。回りの皆さんからも、リラックスした、うれしそうな顔をしていると言われ、いかに能天気な私でも、随分気が張っていたのだなと思いました。

 JAXA宇宙科学研究本部は、その前身は、大学共同利用機関である宇宙科学研究所でした。全国の大学等の研究者が宇宙空間を用いたさまざまな研究を行うにあたり、それぞれがロケットや衛星を用意するのはあまりに効率が悪い、また、現実的でもない。という事で、全国の大学等が予算や人を出し合った形で、共同で宇宙空間を利用する道具立てを整え、共通の研究の場を持とうという考え方が原点でした。この基本的な考え方は、独立行政法人宇宙航空研究開発機構JAXAの中の宇宙科学研究本部になっても、「大学共同利用システム」として引き継がれています。この大学共同利用システムでは、全国の研究者の代表が入った各種委員会で、宇宙科学研究本部における研究・教育に携わる研究者(教育職職員)の選定や、さまざまな宇宙科学プロジェクトの選定等が行なわれています。その一環として、宇宙科学研究本部長も、宇宙科学関連分野を代表する研究者からなる宇宙科学運営協議会が複数の推薦候補を選び、その結果に基づいて、全国の大学や研究機関の長クラスの方々からなる宇宙科学評議会が最終的に候補1名を理事長に推薦し、理事長が最大限その推薦を尊重する形で決められています。そのような過程を経て推薦された本部長の任は、宇宙科学の研究者コミュニティーから大学共同利用システムの運営を託されたことであり、たいへん責任の重いものでした。

 宇宙科学として成果を上げて行くという点では、比較的恵まれた時期を過ごすことができました。本部長就任後すぐに、「はやぶさ」の小惑星イトカワへの着陸・離陸の成功があり、大いに興奮させてもらいました。また、赤外線天文学衛星「あかり」、太陽観測衛星「ひので」、月周回衛星「かぐや」と次々と打上げに成功し、また、すばらしい観測成果を見ることもできました。さらには、国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」で微小重力実験が始まり、また、曝露部に設置されたX線全天観測のMAXIや大気微量成分観測のSMILESが成果を出し始めました。すばらしいロケットだったM-Vの運用が中止となり、それを引き継ぐ新固体ロケットの開発が正式には始まっていないこと、月探査のLUNAR-A計画を中止せざるを得なくなり、ペネトレーター技術の応用の目処が立っていないことが、残念なことですが、いくつかの開発計画が立ち上がったことはうれしいことです。金星探査機PLANET-C計画、水星探査機 Bepi Colombo計画に加え、電波天文衛星ASTRO-G計画、X線天文衛星ASTRO-H計画が新たに立ち上がり、小型科学衛星シリーズの立上げも目処が立ちました。

 大学共同利用システムにおいては、すべては研究者の自発的・自律的な活動が原点で、何をするにも、基本はボトムアップの考え方で進められます。宇宙科学研究本部で行われているさまざまな活動においては、それぞれが「この部分については自分に任せてほしい」との意識で、自発的に協力し合って研究目的の実現に励みます。そこでは、構成員のそれぞれが対等で、かつ、種々のプロジェクトに自発的・横断的に関わる、フラットでバーチャルな組織形態が基本で動いてきていました。一方、JAXAの他の部分では、組織は縦割りになっており、それぞれが別個に与えられた業務を果たす形が取られています。そして、国としての政策課題の実現が大きな業務目的である、いわばトップダウンの考え方が中心となっています。このような、基本的な考え方、物事の進め方が大きく異なる複数の組織がJAXAという一つの組織に統合されて間もなかったため、私の就任時には、課題がいろいろありました。まずは、JAXAという異文化混合の環境の中で、宇宙科学研究の基本的な進め方をいかに実現し、確立して行くかが大きな課題でした。科学衛星が大規模化・高精度化し、国際協力も大きな広がりを持つものになって、プロジェクト運営にトップダウン的な業務管理・スケジュール管理・リスク管理と言ったものも必要となっている事情にどう対処して行くかという課題もありました。また、元来の宇宙科学研究所においても、教育職研究者とともに、技術系・事務系の職員の皆さんが大いに働いて下さってきたわけですが、その方々の評価・処遇等について十分な対応が取られていなかった面があり、その改善の必要性もありました。これらについて少しでも良い方向に進むよう、私なりにいろいろな努力を重ねては来ましたが、まだまだ解決すべき課題は多いと言うのが実感です。新しい小野田本部長のリーダーシップの下、皆さんの知恵と努力により、宇宙科学研究推進のより良い体制・環境が作られていくことを期待しております。

 最後に、私は、この1月6日より宇宙開発委員会委員に就任することとなり、文部科学省に籍を移すことになりました。これまでと違った立場で、微力ながら日本の宇宙開発・宇宙科学に貢献して行きたいと思っておりますので、今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

(井上 一、いのうえ・はじめ)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※