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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第268号

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ISASメールマガジン   第268号       【 発行日− 09.11.10 】
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★こんにちは、山本です。

 月曜日は居室の引っ越しでした。先週までいたのはプレハブの建物で、取り壊しが決まり、すぐ目の前の本館の2階に異動することになりました。朝から棚や机、書類の入った段ボールが運び出され、仕事用のパソコンを立ち上げることが出来たのは午後3時過ぎでした。

 今日からは、段ボールの開梱の日々が待っています。

 今週は、宇宙輸送工学研究系の嶋田徹(しまだ・とおる)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:ハイブリッドロケット談話 1
☆02:SELENE(かぐや)搭載カメラによる月面の縦穴発見
☆03:「ひので」観測で低速太陽風の起源が明らかに!
☆04:今週のはやぶさ君
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★01:ハイブリッドロケット談話 1

市井の談話室にて、時にロケットの話題もあるようでして・・・

M君:
ハイブリッドロケットって知ってる?


Y君:
ハイブリッドカーなら知ってるけどねえ・・・そもそもハイブリッドってどういう意味ですか?・・・S先生、教えてください。


S先生:
ええ、ハイブリッド(hybrid)という言葉は17世紀初頭に使われ始めたようで、もともとはラテン語のhybrida(半獣)から来ているそうですよ。


M君:
半獣と言いますとギリシャ神話に出てくる馬の首から上が人間の形をしたケンタウロスのような?


S先生:
そうですね。そこから転じて混合や複合という意味になったようです。ハイブリッドカーにはガソリンエンジンと電動モーターが複合搭載されているのでハイブリッドの名がついています。


Sさん:
ではハイブリッドロケットでは、何と何が混合されているの?


F君:
僕は、ロケットでは燃料と酸化剤を混ぜ合わせて燃やすことで高温の気体を作り、それをノズルで加速して噴出すると、その反作用で推力が発生するのだよ、と宇宙学校で教わったことがあります。


S先生:
・・・そうだね。液体ロケットは燃料と酸化剤が液体の形で、また固体ロケットでは両者が固体で搭載されるのに対して、ハイブリッドロケットでは通常燃料が固体、酸化剤は液体という具合に異なる形で搭載されているんだ。その逆も考えることができるけどね・・。


M君:
ふ〜ん。では燃料と酸化剤を異相で搭載すると何が良いのですか?


S先生:
おっと、早速核心をついてきましたね。えー、良いこともあれば、良くないこともあるんですよ。先ずね、ロケットで大事なことは何だと思う?


M君:
え、逆質問ですか?むー、就活の面接みたいになってきたな。ロケットで大事なことは、衛星を打ち上げることです。


Y君:
衛星にならないロケットもあるな。観測ロケットとか。・・・


K君:
ロケットで大事なこと、それは・・・・性能です。


M君:
おっと、突然出てきましたね。えっと、性能とおっしゃいますと?


K君:
如何に軽く、かつ、如何に力持ちか、じゃないですか。


Y君:
はあ・・・。それがロケットで大事なことか。なるほどね。車でいうとF1カーみたいですね。


F君:
でも、F1カーは時々クラッシュするよ。僕あれは怖いね。


S先生:
いいこと言うね、君。信頼性や安心・安全性も大事なことだよね。ハイブリッドロケットの良い点は安全性の高さです。燃料と酸化剤を異相で搭載しているので、何かあっても燃焼が爆発的に進すむことは起こり得ません。


I君:
何かって、何ですか?


Y君:
例えば地上に墜落とかじゃないの?


M君:
固体ロケットや液体ロケットでは爆発的に燃焼が進むことあるのですか?


S先生:
あります。液体推進剤の場合、燃料と酸化剤が気化して分子レベルで混ざりますからとても燃えやすいのです。混合比によっては爆発的に反応が進行します。固体推進薬も酸化剤となる微粒子がぎっしり燃料ゴムに混ざっています。常温で安静な状態では安定してますが、衝撃がかかったり熱がかかったりして一旦分解が始まると、燃料と酸化剤がすでに良く混ざっているのですぐに燃えますし、炎が近いので炎から受ける熱が大きく、その熱でさらに気化が進み、燃焼が持続します。やはり場合によっては爆発的に反応が進行します。ですから液体推進剤、固体推進剤とも火薬としての取り扱いが必要です。


I君:
ハイブリッドロケットは異種混合だから、そうではないということですか?


S先生:
はい、そうです。ハイブリッドは異相ですので、墜落して地上に衝突し、タンクが壊れて酸化剤が気化しても、燃料が固体なので熱が与えられなければ気化しませんし、たとえ燃焼が起きたとしても爆発的に進行することはありません。ハイブリッドロケットの推進剤は火薬ではないと言うことができます。


Sさん:
じゃ、ハイブリッドロケットの燃料にはどんなものが使われているのですか?


S先生:
これまではポリブタジエン、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが使われています。初期のハイブリッドロケットには石炭も使われました。酸化剤としては、やはり純粋な酸素が使えることが魅力です。それ以外にも、笑気ガスとなる亜酸化窒素だとか、過酸化水素なども使われています。このように色々な材料が使えますが、ロケットに使う以上、効率の良いものを使いたいですよね。


Y君:
そこで、性能の話が出てくるのですか?


S先生:
そうですね。推進剤の質量流量当たりの推力の大きさを表す比推力と呼ばれる指標では固体ロケットに引けを取らないのですが、燃料の気化が遅いとか、燃料と酸化剤の比率が一定に保ちづらいとか、燃料を効率良く燃やし切るのが難しいとか、色々と課題もあるんですね。・・・これらは安全性と裏腹の関係でもあるんだけれども。


M君:
はは〜ん。このあたりからハイブリッドロケットの弱点が出てくるのか・・・


S先生:
え〜、その話はまた今度にしましょう。今、色々と研究しているところですから・・・それから、ハイブリッドロケットがどんな分野に向いているかについてもいつかお話しますよ。では、また。


M君:
あの先生、弱点の話になったら逃げて行ったね・・・


I君:
いや、どうかな。今度会ったら聞いてみよう。


F君:
僕、ハイブリッドロケットのことが少しわかって嬉しかった!


ワイワイ騒いでおりますが、・・・この辺で、文字数がよろしいようで。

(嶋田徹、しまだ・とおる)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※