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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第260号

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ISASメールマガジン   第260号       【 発行日− 09.09.15 】
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★こんにちは、山本です。

 ミンミンゼミの鳴き声が聞こえなくなったと思っていたら、ツクツクボウシがうるさく聞こえてきます。理由の半分は、空調ではなく窓を開けて仕事をしているからです。秋の風が心地よい季節になりました。

 今週は、宇宙輸送工学研究系の森田泰弘(もりた・やすひろ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:固体ロケットの研究(続)
☆02:「かぐや」の成果が英科学誌「ネイチャー」に掲載
☆03:今週のはやぶさ君
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★01:固体ロケットの研究(続)

 固体ロケットにたくさんの声援を送ってくださっている皆さん、そして、全国の宇宙ファンの皆さん、お久しぶりです。次期固体ロケットの研究の進捗については、相模原キャンパスの毎年の一般公開の折りに、固体ロケットのブースで講演を開いて報告しているとおりですが、メールマガジンでお話しするのは2年ぶりですね。というわけで、改めて次期固体ロケットの魅力と最近の研究の進捗について、お話したいと思います。

 前回のメールマガジンでは、次期固体ロケットの特徴として、2つのことをお話ししたと思います。一つは、ロケットのコストパフォーマンスの最適化という観点です。つまり、ロケット全体の能力に対する影響は小さいけれど図体が大きくてコストのかさむ第1段ロケットには大量生産されていて安いSRB-Aを活用。反対に、値段の割にロケット全体の性能に及ぼす影響が大きい上段ロケット(第2段と第3段ロケット)には、もともと世界最高性能のM-Vの上段ロケットをベースにさらに高性能化を図ろうと考えています。こうすることで、本来は難しい高性能と低コストの両立を図ることができるのでしたね。

 次期固体ロケットのもう一つの特徴は即応性、つまり、ロケットをもっと簡単に打つための仕組みです。このために、次期固体ロケットでは搭載の電気製品を知能化して、これまでは地上から人手をかけて行っていた打ち上げ前の面倒な点検作業を、自律点検と言って、これからはロケット自身にさせようと考えています。これが実現すれば、大がかりな点検装置がたくさん並んでいたロケットの管制室は、わずかノートパソコン1台か2台に集約されてしまうというわけです。これを私たちはモバイル管制と呼んでいます。

 自律点検というと何だか大げさに聞こえますが、そうでもなくて、例えば、皆さんも年に一度人間ドックや健康診断に通いますよね? そのときに心電図を取ったりしてもらうわけですが、その心電図の波形を一体誰が診ているかというと、今時はお医者さんなんかでなく、心電図を記録する機械が自分で診断してるんですね。不幸にして異常と診断されたものだけ、幸運にもあらためてお医者さんが診断してくれるというわけです。実はロケットの点検で何に一番熟練の人手と手間を要するかというと、エンジンや制御器のバルブの健全性の確認なんですね。このために我々はシグトレといってバルブの応答の電流波形を見ているわけですが、これなんかはまさにロケットにとっては心電図そのものなんですね。

 現在、次期固体ロケットは、さまざまな理由により、研究段階での足踏みを余儀なくされています。しかし、そんな中でも粛々と設計解析や実現性の確認試験(ひな形の試験)を進めています。例えば、超軽量モータケース(燃料を詰めるロケット本体)については、小型のケースを作って破壊試験を実施、思った通りの強度が出ていることを確認しています。また、自律点検については、小型の電子頭脳を作って自律点検機能をシミュレート、頭の良さが十分かどうかのチェックを行っているところです。開発に移行した暁には、涼しい顔をしてとっとこロケットを作りたい。こうした地道な研究は、そのためにとても大切なことなんですね。

 さて、私たちは、次期固体ロケットの次のステップも考えていて、それはロケットの自律性をもっと高めるということです。例えば、飛行安全と言って、打ち上げたロケットは地上のレーダで追っかけて、異常があったら地上からの命令で撃墜する、そういう作戦でやってきたんですね。このために、地上にはやけに値段の高い高性能のレーダが必要です。M-Vでいうと昔懐かしい電波誘導みたいなことを、飛行安全の世界ではいまだにやっているというわけです。これからの新しい時代、これではいかにもばかばかしいですから、こうした飛行安全も次の段階では完全に自律化しようと考えていています。つまり、ロケットが搭載のセンサやGPSにより自分で軌道を同定、必要ならば自爆するという、究極のスタイルです。こうなると、もはや地上には高性能のレーダは不要で、野球中継などで活躍するTV局の移動式アンテナ車程度のものさえあれば十分になります。つまり、機動性が高くなって本当にどこからでも打てるよ うになるんですね。というよりも、アンテナを含めた地上の設備がとことんコンパクトになるといった方が適当ですね。

 ロケットの打ち上げをもっと簡単で日常的なものにしたい。それが次期固体ロケットの大きな目的なのです。それは未来のロケットにも必ず必要な次世代技術であって、合言葉は未来につながるロケット開発です。さらに、私たちは打ち上げの仕組みだけでなく、固体ロケットの燃料の製造プロセスも簡単化しようと研究を進めています。これについては、別の機会に改めてお話ししたいと思います。それでは、皆さん、これまでどおりの応援をよろしくお願いします。

(森田泰弘、もりた・やすひろ)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※