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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第257号

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ISASメールマガジン   第257号       【 発行日− 09.08.25 】
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★こんにちは、山本です。

 新型インフルエンザが流行しています。暑さの中、体力が低下していると病気に感染しやすくなります。栄養補給と休養をしっかり摂って、無理せず流行を乗り切りましょう。

 9月から新学期を迎える人も多いと思いますが、宿題の追い込みで無理した身体で登校するのは、良くない状況です。しっかり休養をを取って新学期を迎えましょう。

 今週は、宇宙科学技術センターの前田行雄(まえだ・ゆきお)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:2009年7月22日皆既日食
☆02:「きぼう」全天X線監視装置(MAXI)ファーストライト画像の撮影成功!
☆03:今週のはやぶさ君
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★01:2009年7月22日皆既日食

 日食という現象は、太陽と月と地球が一直線に並び、月が太陽を隠す現象です。新月の頃には太陽、月、地球が略一直線に並ぶのですが、地球から見た月の通り道(白道)が太陽の通り道(黄道)に対して約5度傾いて、太陽や月の見かけの大きさである0.5度に対して傾き方が10倍も大きいためで、日食の起こる頻度は年に2回強ぐらいです。月が太陽を隠すと言っても、中心がずれていて部分的にしか隠さない場合(部分食)と中心が一致する場合(金環食、皆既食)があります。地球も月も楕円軌道で公転しているので、太陽と地球の距離は3.5%ぐらい変動し、また月と地球の距離も12%ぐらい変動するので、月が近くて太陽が遠いときは月が太陽を完全に隠して皆既日食になり、逆の時は金環日食になります。皆既食になると昼なのに急に暗くなり、明るい星が見え、地平線付近が赤く染まって見え、黒い太陽の周りにはコロナが見える、それは非常に神秘的で感動的な光景です。

 天文少年だった私は、1963年7月21日早朝に北海道東部での20世紀に日本で見られる最後の皆既日食を見に知床半島先端まで出かけ、約30秒の皆既食を楽しみました。その後、1973年6月30日のアフリカ、ケニヤ北部で皆既日食を見て日食病にかかり、世界中に皆既日食を目ざして行きましたが見えたのは半分ぐらいです。

 今回、日本で見える46年ぶりの皆既日食は是非観測したいと思っていましたので、色々な条件を考え鹿児島の薩南諸島でなく、客船で行く日食クルーズに決めました。7月20日、海の日の夕方、横浜港を出航したものの、外洋に出ると悪天候で揺れ、21日は曇りで太陽は見えず、船は晴れ間を求め、南東に進路を変更しました。

 約500名の乗客の中には日食仲間が多く、2サロス前(注)のアフリカ仲間とも36年前の話で盛り上がりました(何時も一人で出かけるが今回は妻が一緒でしたので、妻は自分が知らない私の趣味仲間の話にビックリ)。考えれば結婚前の友人が多数乗船していました。

 22日朝、船室の窓から初めて青空は見える!が雲も多く、無事見えるか凄く心配。1976年オーストラリアで、真っ青な空の太陽が皆既直前に厚い雲に隠されコロナが見えず、見えたのは周りの星だけ、という苦い経験が一瞬甦りました。

 甲板は船の煙突からの煙が流れて観測場所としては条件が悪い事が分かったので、船首のオブザベーションデッキに移動。その間、船は晴れ間を探し、かなり頻繁に進路変更、北硫黄島の東70km付近を航行。周りにはハワイからの客船飛鳥IIや神戸からの船が見えました。段々緊張が高まり落ち着かない。98%ぐらい太陽が隠れるとかなり日差しが弱まり、涼しく感じました。そして金星を確認、いよいよ第二接触、歓声があがる!双眼鏡で見る久し振りにみるコロナの流線、極小期の東西方向に伸びたストリーマー。空は暗く、金星の他、水星、シリウス、ペテルギウス等の星は見えるがオリオンの三ツ星は確認できない。方や、水平線上360度の夕焼けが目に沁みました。シャドーバンドは白い壁を走る、第三接触直前、少しプロミネンスが見え、ダイアモンドリングへと突入。双眼鏡で見るこの光景は何度見ても素晴らしい。となりの妻に「あのリングをあげる。」とキザなセリフ。晴れて良かった!

 後の部分食には興味が無いので、仲間と雑談。次に日本で見える2035年9月2日の皆既まで待てないので、来年のイースター島か2012年のケアンズを計画するか?デッキより相模原宇宙研の仲間に衛星電話で状況報告。鹿児島、上海は天気が悪かった様。テレビでこの船からの中継が有ったとの事を知りました。船上の仲間とコロナの写真の自慢話、コロナの平均的な輝度は光球面と比べると100万分の1しか有りませんが、光球面から遠ざかるにつれて急激に暗くなって、内部コロナと外部コロナの輝度差は1000倍も有るので、コロナの微細構造を写真で再現するのは大変で、皆、画像処理を工夫して、目で見た感じに近い映像を目ざして努力しています。私は友人より良い写真を後日貰い満足。

 帰りは硫黄島を一周し北硫黄島を通り、23日には鳥島を見て24日金曜日の朝、横浜港に帰りました。横浜港より相模原チャンパスに直行、一般公開にも参加し、今回の日食遠征は無事終了しました。

(前田行雄、まえだ・ゆきお)


注)サロス周期とは223朔望月が19食年に近いため6585.32日(約18年11日8時間)ごとに同じ様な日食が起こるという周期性の事、今回の皆既日食はサロス番号136シリーズで36年前のアフリカ日食と同じサロス136です。3サロス後の2063年8月24日には東北地方で皆既が見られます。東京で皆既が見られるのは約750年後です。

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※