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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第252号

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ISASメールマガジン   第252号       【 発行日− 09.07.21 】
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★こんにちは、山本です。

 梅雨が明けて、いよいよ明日22日は日食です。次に日本で皆既日食が観測できるのは2035年9月だそうです。皆既日食観測ツアーに、休暇を取って出かけた方たちの幸運を祈っています。

 そして、週末の24、25日は相模原キャンパスの一般公開です。私は、相変わらず『すたんぷラリー』の終点にいます。

 今週は、固体惑星科学研究系の田中智(たなか・さとし)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:月面で生き延びることができるお家をつくる
☆02:7月22日皆既日食 〜「ひので」衛星から見た日食を即時公開〜
☆03:「すざく」打ち上げから4周年、最近の成果を報告
☆04:相模原キャンパス見学休止について
☆05:今週のはやぶさ君
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★01:月面で生き延びることができるお家をつくる

 つい先日梅雨もあけて、ずいぶん暑くなってきました。これから本格的な夏がやってこようとしています。暑い暑いと言いながらも、この日本では40℃を越えることは少ないですし、逆に寒ーい真冬でもマイナス30℃より下がるようなことは珍しいでしょう。なによりも、エアコンやストーブがあるおかげでずっと快適に過ごすことができますね。

 さて、これがあの「月」だったら....
月の昼間の温度は何度だと思いますか?
正確ではありませんが、ざっと100℃といったところ、つまり水が沸騰する温度に匹敵しています。逆に、夜の温度はというと、これがまた極端に低くてマイナス180℃くらい。想像を絶する低さとは思いますが、酸素が液体になってしまう温度に相当しています。月面は「超」暑くて、「超」寒いので、居心地は最悪です。人間はもちろんのこと、観測装置や通信装置などの機械や電 子機器も月面では野ざらしの状態ではとても長時間耐えられるものではありません。

 ではどうやって、生きながらえるか。人間生活と同じ発想をしてみます。つまり、「超」暑い昼間はできるだけ直射日光を浴びずに影の中に隠れ(時にはクーラーを使い)、「超」寒い夜はできるだけ熱の逃げない部屋の中でストーブをたいてしのぐ。そこで大問題なのは、クーラーにしてもヒーターにしても電力が必要でそれをどこからゲットするかという問題です。
昼間はご存知のように「太陽光」発電があるのですが、夜は??
電池に蓄えておいて少しずつ使えばいい?
これは大変よい回答ですが、月の夜は約15日間続きます。これに耐えられるだけの電池を持っていくには重くてしかたない。重い電池を持っていくために、せっかくこれまでに開発してきた観測装置が重量オーバーで持っていけないのは、悔しいし本末転倒...

 話は少し変わりますが、最近、機密性と断熱性の高い家(つまり熱を逃がさない家)がエコブームもあって結構流行っているようです。エアコンの効き具合は抜群にいいし、エアコンを切っても快適な温度がしばらく維持できる。

 これと同じ発想で月に超断熱性の高いお家をつくってやれないかと、材料やしくみをいろいろと調べ、温度シミュレーションの計算をしてみました。なお、この発想は何も私たちが世界初というわけではなく、過去に研究例があったこともわかっていますので、大威張りできるわけではないのですが、私たちが少し威張ることができるのは、計算結果だけで満足や悲観をせずにとにかくモノをつくってみて、そして実験してみたことでしょうか。

 どのくらい快適なお家ができたかを実際にテストするのは、実はかなり大変で、これほど「地味」な試験はないというほど、こまごま(&いらいら)とした準備が続きます。そして実験が開始してからも延々とお家の温度をとりつづけ、安定するまでひたすら待つ..

 実験というのは、(私の経験では)ほとんどの場合、意外な結果が得られるもので、
「あーあこんなはずじゃなかったのになーー」
と、残念な思いをすることがほとんどなのですが、今回は、幸運の女神が少し微笑んでくれたみたいで、なんと!(たぶん)世界一(調べてないので本当のところはわかりませんが)、月面で快適なお家を作れそうなデータが得られました。15日間続く夜の間、ほとんどストーブをたかなくても観測装置は生きてくれるような「超エコな夢のお家」の実現に一歩近づくことができました。

 こんな研究をして、いったい何をたくらんでいるのかって?
メルマガの読者はもうお分かりになったと思いますが、「かぐや」に続く、次の月探査は、なんといっても「月面着陸」でしょう! 着陸地点に観測機器を置いて、昼夜問わず、そしてできるだけ長い期間観測したいという科学者の切なる希望をなんとか実現しようと科学者(自分自身もその一人のようですが)自身がお家の設計もしてつくらないと....

 今、次期月探査計画SELENE-2(セレーネ2)計画は2010年台半ばに月のどこかに着陸することを目指して、今回御紹介したような技術を含め粛々と開発を進めています。SELENE-2計画についてはまたの機会に詳しく御紹介することにしましょう。

 それでは、暑い夏、日射病や熱射病にはくれぐれも気をつけてお過ごしください。

 最後に本実験に携わってくださっている方々(小川和律さん、飯島祐一さん、飯田光人さん)に深く感謝します。

(田中智、たなか・さとし)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※