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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第242号

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ISASメールマガジン   第242号       【 発行日− 09.05.12 】
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★こんにちは、山本です。

 いつもより休暇が多かったゴールデンウィークが過ぎたら、相模原キャンパスはすっかり木々の緑が濃くなっていました。同時に、雑草も生い茂ってきて、目を付けておいたフキを覆い隠してしまいました。

 『きみっしょん』の募集締め切りが迫ってきました。ISASの中では、『きみっしょん』の学生スタッフの募集もしていましたが、今年は、どんなメンバーが集まったのでしょうか。後で、裏話をメルマガに書いてもらおうと画策中です。

 今週は、宇宙科学共通基礎研究系の坂尾太郎(さかお・たろう)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:「ひので」の観測運用
☆02:第8回君が作る宇宙ミッション 締め切り迫る! 6月10日必着
☆03:今週のはやぶさ君
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★01:「ひので」の観測運用

 みなさんこんにちは。私は太陽観測衛星「ひので」を使って、太陽の研究をしています。「ひので」は目で見える光の「可視光」や、X線で観測した太陽の姿を、次々と私たちに送り届けてくれています。けれども、もちろん、衛星を放っておいたのでは何も観測してくれません。観測計画を毎日立てて、修正して、衛星に送って、取れたデータを見てまた調整して…を繰り返して観測を進めているのです。こんな「ひので」の観測計画作りがどのように行われているのか、そのようすを紹介しましょう。

 「ひので」には可視光磁場望遠鏡SOT、X線望遠鏡XRT、極端紫外線撮像分光装置EIS、という3台の望遠鏡が搭載されています。朝10時半、3機器の観測当番がISASの一室に集まります。朝会の始まりです。朝会は、各機器1名の当番と、チーフプランナーと呼ばれる当番1名の、計4名で開かれます。望遠鏡の観測当番は、衛星に送る観測計画作りを担当します。「ひので」では日本時間の夕方から夜にかけての時間帯に地上から衛星にコマンドや観測計画を送信していますが、観測計画は2日に一度の送信です。チーフプランナーは、観測の取りまとめ役として、観測当番が送ってくる各望遠鏡の観測計画を1つにまとめ、衛星に送信できるフォーマットに変換する作業を行ないます。朝会の司会もチーフプランナーが担当します。望遠鏡の観測当番は日米欧の研究者が分担して担当しています。また、チーフプランナーも日米でそれぞれ負担が半々になるように担当者が割り当てられるため、朝会はたいてい英語で行われます。たまに出席者が日本人だけになると、「それなら日本語でやりましょうか」ということで、少しほっとした空気が流れます。

 さて、朝会では前日の運用の結果をチーフプランナーが報告した後、今日・明日の運用の話を始めます。液晶プロジェクターでスクリーンにいろいろな衛星や地上の観測所で得られた最新の太陽像を投影して、どの時間帯に太陽のどこを観測するか、3機器で話し合いながら決めていきます。観測領域に応じて、衛星の姿勢を変えていくのです。ちょうど望遠鏡を目に当てて、見たい方向にあちこち向けるのと同じですね。「ひので」には他の衛星や地上観測所との共同観測の申込みや、「ひので」単独での観測提案が数多く寄せられます。これらの観測申込みは月に一度ある選定会議で審査され、観測の日時が割り振られているので、朝会ではそれを忘れずに衛星の姿勢計画を決めて行きます。

 私も数週間前にXRTの観測当番をやりましたが、その週はちょうど、SOHO衛星に搭載されたSUMER(スーマー)観測装置が提案してきた共同観測キャンペーンにあたっていました。毎日3−5時間ごとにいろんな人の観測プランがぎっしりと詰まっていて、それぞれに応じて衛星の観測方向を変えたり、個別の観測計画を作らないといけないので大変です。それでもうちの望遠鏡(XRT)をあてにした観測、なんてプランに書いてあるとうれしくなって、衛星への送信当日になって先方から、「直前ですまないがXRTの露光時間をもう少し長くしてもらえないか」といったリクエストがきても、「対応してあげようじゃないの」と計画を変更します。単純なものです。

 また、「ひので」単独での観測提案として、時々、SOTが太陽面のいろんな場所の明るさを調べる観測を行ないます。この時は、1つの姿勢計画の中で30回近く衛星の観測方向を変えるので、キーボードから観測方向を打ち込むチーフプランナーは大変です。打ち込みが終わるまで待っている観測当番も大変です。でもこの観測で、6000度と言われる太陽の表面温度が緯度・経度で違うのか、違うならどのように?、それはなぜ?、といろんなことが分かって来そうです。

 紙面の終わりに近づいて来ました、急ぎましょう。30分から1時間の朝会が終わると、観測当番はそれぞれ望遠鏡の観測計画作りや確認に取りかかります。自分が作った計画通りに観測データが得られるのは、当たり前と言えばそれまでですが、面白いものです。特に自分で好きなように観測を工夫して面白いデータが得られたときの楽しさは、観測当番の専売特許と言えましょう。

(坂尾太郎、さかお・たろう)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※