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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第238号

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ISASメールマガジン   第238号       【 発行日− 09.04.14 】
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★こんにちは、山本です。

 相模原キャンパスはサクラの季節も終盤で、若葉の頃となりました。正門から管理棟までのカツラの並木も若草色の若葉がきれいです。

 私の居室の横にある花壇は、数年前退職したYさんが丹精していたのですが、今は誰も手入れをしていないのに、雑草の海の中でチューリップが咲いています。

 今週は、宇宙環境利用科学研究系の黒谷明美(くろたに・あけみ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:ミニマム宇宙科学
☆02:太陽観測衛星「ひので」による太陽の新しい磁場生成機構の発見
☆03:「かぐや」プロジェクトチームが「平成21年度科学技術分野の文部科学大臣表彰」受賞
☆04:今週のはやぶさ君
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★01:ミニマム宇宙科学

 今日は併任でやっている宇宙教育センター( 新しいウィンドウが開きます http://edu.jaxa.jp/ )でのお仕事について書きます。

 宇宙教育センターの目指す活動の目的には、大きく2つあり、ひとつは、将来宇宙活動を含めたさまざまな科学や研究を担う次世代の人材を育成することであり、理科好きな子どもをさらに理科好きにするような活動で、当センターのなかでは、
 新しいウィンドウが開きます 「君が作る宇宙ミッション(きみっしょん)」
などのプログラムが、これにあたります。

 もうひとつは、科学やそのほかの学問にあまり興味を抱かない青少年に、彼らがもっている宇宙や自然などへの好奇心を利用して、学ぶこと本来のおもしろさを気づかせることです。もちろんこの「学ぶこと」の対象は理科や科学に限りません。この後者の活動には、宇宙や自然に関する話題や素材を効果的に利用することが重要なポイントとなります。この活動の中心のひとつが、当センターが行っている「学校教育支援」というものです。日々の学校の授業の中で使うことのできる話題や素材にどんなものがあるのか、どんな使い方ができるのか、現場の先生方といっしょになって、新しい授業案を創りあげていく活動です。

 宇宙教育センターの限られた人数の中で、日本全国の学校に出かけていって、さまざまな授業の試みを支援しています。一つ一つの学校に出かけていくことよりも、一度にたくさんの教師の卵の人たちとこの活動を進めたらさらに効率がよいのではないかという発想のもとに、2年ほど前から、大学の教育学部で、教師を目指す学生たちの演習のなかに、宇宙に係わる素材や話題を授業に効果的に利用する方法を探る授業を取り入れてもらって、その支援に協力しています。

 私は、このような大学の教育学部での教育支援活動の担い手の1人として、長崎大学に足繁く通っています。一昨年度は、それぞれ専門の講師から、宇宙科学・宇宙開発にかかわるできるだけ多くの話題をシャワーのように学生に浴びせて、個々の内容はわからなくても、そのなかから各学生が感じ取ったもの使って、授業案にしてもらおうという考え方で進めました。

 初めて宇宙科学についての講義を聴いたという学生も多く、いろいろ新鮮な興味を持ってもらいましたが、私たちが期待するほどの効果ではありませんでした。何かを感じとってはいても、それを一歩踏み込んで自分のものとし、それによって授業への効果的な使い方を会得するというのは、非常に難しいことがよくわかりました。彼らがもっとも印象深く感じたものは、宇宙食(本物でなく、市販されているフリーズドライの宇宙食もどき)の試食と水ロケット作成と打ち上げ(イベント的なもの)でした。

 座学が中心であったのが敗因であるという考察のもとに、昨年度は、講義のほかにいろいろな実習を組み込みました。新たに「真空」や「飛行」についての演示や実習、宇宙に係わる絵本・児童書のブックトーク、校内でさまざまな音に耳を澄まし、サウンドスケープの考え方から宇宙での生活を考察するといったものまでやってみました。

 2年目も宇宙食もどき、水ロケットの人気はさすがでしたが、ブックトークやサウンドスケープに興味をもった学生が少なからずいました。理科や科学に興味をもってもらうことを目的とはしていませんが、「理科離れ」を顕著に実感してしまう結果でした。各学生の感じ取ったそれぞれを大事にするということでは、少し進展があったとは思います。でも、まだまだ、宇宙や自然の話題や素材の力が本領を発揮していないような物足りなさを感じていました。

 そして今年度、私たちはいろいろ考えて一つの結論を出しました。私たちは、基本となる宇宙科学や宇宙開発の知識を紹介するのに少々欲張りすぎていたのではないかということに気づいたのです。個々の内容をすべて理解することは求めていませんでしたが、一生懸命になると、こんな話もある、こんな画像もある、これは最新の結果であると、どうしても目一杯詰め込みすぎてしまう傾向にありました。

 まずは、「ミニマム宇宙科学」を取り上げること、さらに、ミニマムな内容なので、個々の内容はわからなくてよいのでなく、きっちり理解してもらうことを目的としようと考えました。「ミニマム宇宙科学」とは、子どもに接する大人(つまりすべての大人)として知っているべき本当に基本の基本である宇宙科学の知識です。たとえば、いくつかあげてみると、月の満ち欠けのしくみ、日食や月食のしくみ、恒星・惑星・衛星のちがい、私たちが星のかけらであること、などです。こうやって書いているとどんどん増えてしまいそうで危険です。あくまでもミニマムを目指さなくてはいけません。

 「ミニマム宇宙科学」をスタートとすること、そこから何か自分のものとしてさらに発展させられるものを探し出していく、この方法で学生がどのように変わっていくのか、その効果についてまた書く機会があるでしょう。ご期待下さい。

 「ミニマム宇宙科学」に思い当たったきっかけとなったエピソードがあります。以下のようなものです。ネタのようですが、これは本当にあった話です。
某研究所の社員旅行で、偶然に同室になったオーストリア人(工学系研究者)のA氏、中国人のB氏(化学系研究者)、そして私の知り合い日本人のX氏(生物系研究者)が夜の自由時間におしゃべりをしていたときのこと。
A氏「月の満ち欠けのしくみを答えられる?」
X氏「かくかくしかじか」
A氏「正しい。日本人は優秀だ。多くのヨーロッパ人は、月の満ち欠けを月が地球の陰に隠れることによって起こると勘違いしているんだ。」
X氏は、「そんなバカな」と思いつつも、「日本人は本当にみんな答えられるのだろうか」と気になり、社員旅行から戻ると、研究室のスタッフの数人(1名のフランス人を含む)に同じ質問をしてみました。正確に答えられた人はいませんでした。やはり地球の陰に入るからと答えた人もいました。X氏は愕然としながら、ふと気になったもう一つの質問をしてみました。
X氏「えーと、わかっているとは思うけれど…。月が自分では光っていないのは知っているよね?」
スタッフの1人「えーっ、そうなんですかあああ?」

 JAXA宇宙教育センターでは、今年7月22日の日食のときに撮影した木漏れ日の写真を募集します。
 新しいウィンドウが開きます 「みんなで木もれ日を撮ろう」キャンペーン
日食のしくみ、ピンホールの原理、広葉樹…といったキーワードで示されるたくさんの科学を楽しく学ぶチャンスです。今から撮影の練習をしてぜひ応募してください。

(黒谷明美、くろたに・あけみ)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※