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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第235号

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ISASメールマガジン   第235号       【 発行日− 09.03.24 】
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★こんにちは、山本です。

 週末の暖かい雨と南風で、相模原キャンパス本館ロータリーのソメイヨシノもチラホラ咲き出しました。今週末で満開になりそうなので、お花見の計画をIさんに言ったところ、
「年度末は忙しくて飲んでいる暇はないから、4月になってからの方がいい」
との返事が……
あの〜、「酒盛り」じゃなくて「お花見」なんですけど

 今週は、宇宙農業サロン・宇宙環境利用科学研究系の山下雅道(やました・まさみち)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:宇宙に漕ぎ出す葛飾・下肥舟
☆02:今週のはやぶさ君
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★01:宇宙に漕ぎ出す葛飾・下肥舟

 宇宙農業(新しいウィンドウが開きます http://surc.isas.jaxa.jp/Space_Agriculture/)の要諦(ようてい:物事の肝心なところ)は、作物植物をそだててそれを食べ、そのあと代謝産物や排泄物からふたたび作物をそだてるという物質の再生循環にある。おいしく食べた食べ物は消化され、体をうごかし、二酸化炭素と尿素やミ ネラル、そして水になって体からでていく。育ち盛りなら食べたものが身になっていくが、ヒトの体に入った物質を構成する元素はそっくり出て行く。バラバラにしたパズルをもとの絵にまたもどすのは太陽の光のちからをかりる植物のはたらきだ。

 「ヒトの排泄物の堆肥化産物には植物の肥料として主要な元素が含まれることを明らかにした」
と論文投稿したところ、
「ヒトの排泄物を実際に処理して調べたや否や?」
というするどいつっこみが査読者(さどくしゃ:論文の審査員)から入った。
「本研究は、ヒトの排泄物の堆肥化産物が植物の肥料として主要な元素を供給できる可能性を示した」
と私は一歩ひきさがる。とある研究組織からは、尿を水耕栽培装置にそのまま加えて大変な状態になってしまったという論文が以前にでている。

 むかしの西洋の都市ではオマルの中身は道にまきちらされ、直下の汚物をよけるハイヒールと落下しぶき対応のパラソルは必需品。ヒトの排泄物などを媒介にした疫病で何度も痛い眼にあった記憶がいまだに残る。米国では、地域にもよるが、ヒトの排泄物由来の肥料でヒトの口に入る作物を育てることは禁止されている。

 これに対して、日本の様相はおおきく異なった。江戸時代の日本では、都市住民の屎尿を近郊農民が金肥として購入し、それで栽培した蔬菜(そさい:野菜・青もの)を都市で販売するといった、都市・農村の間を行き来する物質循環が機能していた。栄養たっぷりの食事をしていた大名屋敷の金肥単価は、下町の長屋の単価に比べて高かったという。このような物質再生循環利用に関する記憶、日本・東アジアの歴史・文化的な背景を、わたしたちは宇宙農業構想のウリのひとつにしている。他国を後追いして後塵を拝するのではなく、日本の勝ちネタを押し出すことにより、国際的な競争と協力のなかで貢献しようというのが宇宙農業サロンの信条だ。

 誇るべき下肥の利用について、視覚に訴えるよい資料はないものかとGoogleで検索したところ、やんごとなきサイト
新しいウィンドウが開きます http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/02/koen/koen-h18az-mizuforum4th.html
の2006年にメキシコシティで開催された第4回世界水フォーラムでの皇太子浩宮殿下の基調講演がヒットした。江戸とその近郊の見沼のあいだでの水運について紹介され、下肥舟の写真
新しいウィンドウが開きます http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/02/koen/img/mexico-slide/mexico17.jpg
が示されている。

 宮内庁に
「かの下肥舟いずくにありや」
と問い合わせるのもはばかられ、和船にくわしい人たちにたずねまわったところ、東京の葛飾区郷土と天文の博物館
新しいウィンドウが開きます http://www.city.katsushika.lg.jp/museum/)、
埼玉の戸田市郷土博物館
新しいウィンドウが開きます http://www.city.toda.saitama.jp/8/7061.html
のすくなくとも2つの博物館で、下肥舟のスケールモデルが展示されているのがわかった。「あこがれの下肥舟」とかいいたてると、宇宙農業ゲテモノ食い
ISASメールマガジン第186号【昆虫をたべて火星にいこう】
のつぎは宇宙スカトロジーかと 揶揄も飛んできそうだ。しかし、文化財として博物館に下肥舟が常設展示されていることは、持続発展可能な文明を展望する見識を示している。実は、山下の産湯は葛飾・柴又帝釈天の南、江戸川の矢切の渡しの近く、そして高校生時代はボート部で、荒川沿いの戸田のボートコースはよく通った練習場、ともにエニシ深いところだ。

 葛飾区郷土と天文の博物館では、2004年度に特別展「肥やしのチカラ」が開催され、下肥舟をはじめとするひろい内容の含まれる展示図録は宇宙農業のバイブルになる。下肥が寄生虫をひろめてしまったことも書かれているのだけれど、宇宙農業はこれへの対抗策を提案している。それは超高温好気堆肥菌の利用である。80-100℃という堆肥化温度は寄生虫の卵や病原性の細菌を死滅させるので安心・安全だ。2009年4月18日(土)19時より葛飾区郷土と天文の博物館で、「肥やしのチカラ」展をまとめた学芸員の堀充宏さんと山下の掛け合いで「火星にこぎだす葛飾・下肥舟」という話をする。

 エニシついでだが、第5回世界水フォーラムは2009年3月にトルコ・イスタンブールで開かれ、皇太子はこれに出席し講演とのこと。宇宙農業チームも、6月に同地でトルコの宇宙機関が主催する会議で「発展途上世界のための宇宙」特別セッションでの発表を予定している。

(山下雅道、やました・まさみち)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※