宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > ISASメールマガジン > 2009年 > 第228号

ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第228号

★★☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ISASメールマガジン   第228号       【 発行日− 09.02.03 】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★こんにちは、山本です。

 今日は節分。ということは、暦の上では明日から春です。
梅も咲き始めましたし、サクラのつぼみも膨らんできました。デモ、まだまだ寒さは続きます。部屋の乾燥に注意して、インフルエンザなどに負けぬよう、本当の春を待ちましょう。

 今週は、宇宙プラズマ研究系の高島 健(たかしま・たけし)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:粒子線でみる宇宙空間
☆02:JAXAパブリックイベント『宇宙探査の始動 〜Inspire the future〜』
☆03:今週のはやぶさ君
───────────────────────────────────

★01:粒子線でみる宇宙空間

 皆さんの宇宙空間に対するイメージは、どのようなものでしょうか?
私が小学校の頃に持っていたイメージは「静」でした。音もない、何もない空間が広がっている孤独で、だけどちょっと格好いいイメージを持っていました。ちょうど、NASAのボイジャー衛星が土星を訪れて、地球からは非常にきれいな輪となって見える部分が、不格好な岩や無数の塵でできあがっている映像は、不思議な感覚として鮮明に覚えています。小学校6年の時に はスペースシャトルが初めて打ち上げられ、眠い目を擦りながらテレビを見ていました。人類の活動の場が宇宙に踏みだし、やっと「動」のイメージを持つようになったと記憶しています。

 さて、実際の宇宙空間はどうなのか? 例えば太陽と地球の間には、太陽風と呼ばれるプラズマ粒子が平均300km/秒で流れています。地球周辺には磁気圏と呼ばれる吹き流しの形をした領域があり、そこには太陽風の10倍以上のプラズマ粒子が貯められたり、放出されたりしています。また、地球に近い場所には、放射線帯と呼ばれるドーナツ状の帯状領域が存在し、太陽風の10000倍以上のエネルギーを持った粒子がひしめきあっている場所もあるのです。しかし、そこに大量の粒子が存在していても、残念ながらというか幸いにも、人間の視覚で直接とらえることができません。私たちの目には見えないのです。もし、粒子が飛び交う姿を見える人がいたら...きっと星空は今のようにきらめいて見えず、“粒子の雲”が漂う不思議な風景がひろがっていたかもしれません。

 宇宙空間を飛び交う粒子を「宇宙粒子線」とか「宇宙放射線」と研究者たちは呼んでいます。宇宙粒子線のふるさとは、空にきらめく遙か遠くの星からやってくるものや、太陽から吹き出すもの、私たちの地球周辺など様々なところです。特に遠い遠い宇宙の彼方から地球にたどり着く宇宙線は、非常に高いエネルギーを持っています。その一部は地球の大気とぶつかって新しい大量の粒子を生成します(大気シャワー)。この粒子(多くはミューオンといいます)は物と反応しづらい性質を持っているため、私たちの体すら突き抜けていきます。数秒に1個ぐらい気づかぬうちに通り抜けているのです!(筑波宇宙センターの一般公開で、宇宙線飛跡検出器スパークチェンバーが見られると思います。興味のある方はぜひ。宇宙線が降り注いでいる様子が視覚的にわかりますよ)また、太陽の爆発によって生じる宇宙粒子線は、ときには我々の実生活にも影響を及ぼします。例えばBS衛星が障害をうけて、テレビ放送が受信できなくなったり、気象衛星が影響をうけて雨雲の写真を送ってこられなくなったりすることもあります。宇宙ステーションで作業する乗組員たちも、安全な場所に避難する必要があるかもしれません。宇宙粒子線を計ることは、研究だけでなく実用の面からも大事な時代を迎えてきているのです。

 私が現在研究開発しているのは、こういった宇宙空間に存在する宇宙粒子線をとらえる装置です。半導体と呼ばれる物質を用いて、宇宙を飛び交う粒子を捕まえてあげるのです。半導体物質の中には、原子核とそれを取り巻く電子がびっしりと詰まっています。ここに、粒子が飛び込んでくると、詰まっている多くの電子と粒子が電気的な力(クーロン力)を及ぼしあい、ついには、粒子の速度がゼロ(エネルギーがゼロ)になります。このときに、粒子が持っていたエネルギーに比例する電子の移動が起こり、その移動を信号としてとらえてやることによって、粒子を検出しています。粒子の飛んできた方向、エネルギーや元素を同定しながら、粒子がどこから、どんなところを旅してきたかをひもといていくのです。

 「静」に見える宇宙空間を、宇宙粒子線を用いて「動」として観測していく。これが私の研究(楽しみ)です。

(高島 健、たかしま・たけし)

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※