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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第223号

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ISASメールマガジン   第223号       【 発行日− 08.12.23 】
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★こんにちは、山本です。

 今年最後のメールマガジンです。年末まで今日を含めて9日もあるのですが、26日の金曜日で仕事納めです。(さすがに、30日まで仕事をするのは……)

 2009年は、年明けから『宇宙科学シンポジウム』『宇宙学校・きょうと』と、大きなイベントが続きます。

 今週は、宇宙構造・材料工学研究系の竹内伸介(たけうち・しんすけ)さんです。

 それでは、皆さん よいお年をお迎えください。次号は、2009年1月6日発行の第224号です。

── INDEX──────────────────────────────
★01:軽く、強く、堅く、大きく
☆02:宇宙科学シンポジウム(2009年1月6日〜7日)
☆03:宇宙学校・きょうと【京都市青少年科学センター】
☆04:今週のはやぶさ君
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★01:軽く、強く、堅く、大きく

 宇宙に物を持って行くというのは中々大変な事で、例えばISASで使っていたM-Vロケットは全重量が約140トンのうち宇宙に上がるのは約2トン、H-IIAロケットの場合は全重量約290トンのうち宇宙に上がるのは約10トンになります。その中でなるべくたくさんの物を宇宙に持って行きたいとなると、一つ一つの物をなるべく軽く作らなくてはなりません。

 それに宇宙にとても大きい物を持って行きたいと言う人もいます。アンテナ等が良い例ですが、ロケットの大きさは限られている(M-Vロケットだと直径は2.5m)ので、それより大きい物を持って行きたい場合には一回畳んでロケットに積んで、宇宙に行ってから開いたりする必要があります。
ただ畳むだけでは駄目で、特にアンテナなどは形がきちんとしていないと役に立たないので、宇宙に行ってからちゃんと開いて形を保つ工夫も大切です。

 しかしただ軽くて大きいだけでは打ち上げ中に壊れてしまいます。ロケットの打ち上げ中は物の重さが数倍〜十倍になる位の加速度がかかりますし(自分の体重が十倍になることを想像してみて下さい)、物凄い音もします。(3km位離れた所からM-Vロケットの打上げを見ていても、腹に轟く様な音がします)こういう過酷な環境の下でも壊れない頑丈で大きなものをなるべく軽く作る方法を色々考える、これが私の所属している宇宙構造・材料工学研究系の非常に大雑把な仕事の内容です。


 さて物を軽く頑丈に作るといっても、大まかには2つのアプローチがあります。一つは使う材料を強くて軽いものにする事で、私の所属する宇宙構造・材料工学研究系の中でも主に材料屋さんの仕事になります。もう一つは物の形を色々工夫する方法です。例えば一枚の紙を持って来ると、そのままでは机の上に立てることも出来ない程弱いものですが、同じ紙を折ったり丸めたりする事で自立する事が出来る様になり、更に切ったり折ったりして蜂の巣状に組み合わせたりすれば、上にちょっとした物を乗せても大丈夫な位強くなります。実はこうしたアイデアは人工衛星にも使われており、衛星のボディを作っている板は、実は蜂の巣状に組み合わされたハニカムコア(Honeycomb:蜂の巣core)というアルミ箔の上下にアルミの薄板を貼り合わせて作られている場合が多いのです。

 他に有名な工夫の例としては、最近地図などを小さく畳んで一気に開いたりするのに使われている三浦折なども元々は宇宙用に考えられたものです。(元ISASの三浦先生が考案されました)こういう風に主に物の形を工夫する事で軽くて頑丈で大きな物を作る、これが私達構造屋さんのアプローチになります。

 では毎日の仕事は、色々な工夫のアイデアを考えるために鉛筆舐め舐め机に座っているのかというと、残念ながら世の中そう優雅には行きません。仕事の半分以上は、ロケットや衛星の設計計算やその確認の打ち合わせ、或いはトラブルシュート(衛星の**が壊れた、ロケットの**が壊れた、、、云々)といった現実問題への対応です。あとそれなりにロケットの組み立てや打上げ、地上実験といった現場に出ていて、実はこの文章も秋田県にある能代多目的実験場に再使用実験機地上燃焼試験(RVT-13)の機体振動加速度計測に来ている最中に書いています。

 3年ほど前M-Vロケットの打上げがピークだった頃には、1年の内4ヶ月くらい内之浦に行っていて、他にも能代や海外に出張してトータル半年くらい自宅を空けていることもありましたが、最近は1年に1〜2ヶ月位で落ち着いています。これらの仕事を取った残りの部分で、学生さんの指導をしたり論文を書いたり上記のアイデアを考えると言った様な活動を行っています。

 構造と言うのは比較的地味な分野で、何かのミッションの主体となる事はほとんどありませんが、逆に何か物を作る時には必ず必要になる要素でもあります。おかげで色々な開発計画に参加する機会があり、中々忙しい毎日を送っています。


 以上簡単に私の仕事について紹介してきました。そろそろ終わりにしたいと思いますが、最後に読者の皆さん、特に若い人達にちょっとした提案(お願い?)です。先程例に出した蜂の巣の様に、軽くて丈夫な物の例は自然界に一杯あったりします。自然とは良く出来ている物で、軽くて丈夫な物に限らず、色々な面で何気ない様に見えても考えれば考える程うまく出来ているものです。(正確には、そういうものではないと淘汰されて今まで生き残って来られなかった、と言うのが正しいのでしょうけど)身近でそういうものを見つけたらちょっと感心して、そして出来ればどういう原理になっているのか色々調べて考えてみて欲しいと思います。宇宙開発と日本の将来を心配する一研究者からの、ちょっとしたお願いです。

 最後まで読んで頂きどうもありがとうございました。

(竹内伸介、たけうち・しんすけ)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※