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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第217号

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ISASメールマガジン   第217号       【 発行日− 08.11.11 】
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★こんにちは、山本です。

 週末の寒さで相模原の紅葉も一気に進み、落ち葉掃きが大変な季節になりました。

 今週のメルマガは「再使用ロケット」「すざく」「かぐや」「大気球」「はやぶさ」と盛りだくさんです。編集としては、「来週の記事は大丈夫だろうか?」と 不安になります。

 今週は、熱グループの福吉芙由子(ふくよし・ふゆこ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:2回目のポンプ試験
☆02:「すざく」50億光年のかなたに宇宙で最もホットなガスを確認
☆03:「かぐや」月の裏側のマグマの噴出活動の長期継続を明らかに
☆04:インタビュー「大気球で新しいチャレンジ」
☆05:今週のはやぶさ君
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★01:2回目のポンプ試験

 10月に宮城県にある角田宇宙センターで行われた再使用ロケット実験機・第4次ターボポンプ単体試験についてお話したいと思います。今回の試験目的はシステム燃焼試験全体ではなく、改修を加えた液体水素ターボポンプ(FTP)の単体性能を取得することです。私自身、角田でのポンプ単体試験は2回目なのですが、今回初めて操作班に加わり試験に参加しました。

 再使用ロケット実験機の試験は、エンジン班、操作班、計測班、スタンド班、CPU班、映像・記録班などいくつかの班で構成されています。操作班の主な役割としては、本試験を含め、気密試験やその他事前に行われる各種試験の操作手順書を作成し、機体に取り付けられたバルブを遠隔で操作する事が挙げられます。また、実際のバルブは遠隔で操作できるものと、現場で人間が開閉する(これはエンジン班の役割)ものとがあるので、それら全てのバルブの状態を把握し、無線の指令電話で現場に指示することも大事な役割です。

 試験前に系統図を見ながらガスの流れを想像し、どの順序でどのバルブを開閉させれば、安全にかつ効率的に操作を行えるのか考えます。この説明では簡単に感じるかもしれませんが、バルブの開閉タイミングや順番を間違えると、作業を後戻りさせることになるほか、想定外のガスの流れが生じることで、時には流量計などのセンサを壊してしまう可能性もあります。また、こちらの想定通りにガスが流れていれば良いですが、実際はどこかにリーク(漏れ箇所)があることによって、予定外の箇所に圧力がかかっていることもあるので、バルブを動かすと同時にセンサのモニタ画面を注意深く監視していることも重要です。

 今回の試験で使用した主なガスや液体は、ヘリウムガス、窒素ガス、水素ガス、液体窒素、液体水素などです。この中でも液体水素は非常に軽く、比重が約0.07と水に対して約1/14しかなく、そして−253℃という極低温の液体です。普段の生活では馴染みのない数値なのでピンとこないですが、現場にいるとそれらを体感することができます。

 断熱材を巻いていない配管に液体水素が通ることで配管周りの空気が冷やされ、液体空気が雨のように降ってきます。液体水素温度を体感するとともに、断熱材や真空二重管の効果を実感します。また、液体水素タンクに液を充填するときは、配管の中で配管が十分に冷やされると、ガスが液に変化するときに音が変わります。(これらの経験によって、なかなかイメージしにくい液体や気体の動きを想像しやすくなり、色んな場面で役に立ちます)今回は操作班なので現場には行けないため、前回までの経験を思い出し、これらの情報を現場のエンジン班から指令電話で聞き取り、頭の中で想像してタイミングを見計らってバルブを操作しました。

 気密試験、冷却試験を終えて、いよいよポンプを冷却しタービンに常温の水素ガスを流すターボポンプ試験が始まりました。試験中はタイムスケジュールという必要な作業項目が時系列に記載されている表をもとに進められていきます。操作班もそのタイムスケジュールに則り、操作を続けます。そして、最終的なバルブ開閉状態を試験開始状態に設定し、数分間の試験シーケンス中は機械から制御します。

「FV1 閉」
「FV3 閉」
(まるで暗号のようなバルブ名。 FV1:注液弁 FV3:排気弁)
   :
   :
「コントローラスタート」
   :
   :

「正常終了です」

 こうして試験が無事全て終了し、予定していたデータを取得することができました。この頃には慣れない操作による肩こりも少しは和らぎ、実験が始まった当初はまだ色づいていなかった実験場内の紅葉が進み、そして蔵王には雪が降りました。このポンプ単体試験を受けて、11月中旬からはもっと寒い能代で地上燃焼試験が始まります。今回使用したFTPを機体に再び取付け、地燃の準備が出来たら、すぐに能代に出発です!

(福吉芙由子、ふくよし・ふゆこ)

ISASコラム:宇宙・夢・人「第50回 Rocket Girls奮闘中」
http://www.isas.jaxa.jp/j/column/interview/index.shtml

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※