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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第213号

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ISASメールマガジン   第213号       【 発行日− 08.10.14 】
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★こんにちは、山本です。

 昨夜、NHKで放送されたNHKスペシャル「月と地球 46億年の物語 〜探査機かぐや 最新報告〜」はご覧になりましたか?
もう一つ『かぐや』のイベントを紹介します。

 天文講演会『かぐやが見た月の世界』が、横浜市の「はまぎん こども宇宙科学館」で開催されます。講師はISAS固体惑星科学研究系の春山純一さん。

 参加費は無料ですが、往復はがきによる申し込み。締め切りは10月31日(必着)です。詳しくは、
新しいウィンドウが開きます http://www.ysc.go.jp/ysc/info/various.html#kaguya
をご参照ください。

 今週は、宇宙航行システム研究系の川勝康弘(かわかつ・やすひろ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:宇宙航行におけるイノベーション
☆02:「ひので」、太陽極冠プロミネンスのダイナミックな姿を観測
☆03:ISASモバイルに「M-Vロケット打上げ」着信音登場
☆04:今週のはやぶさ君
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★01:宇宙航行におけるイノベーション

 桑田、野茂、そして清原が現役を引退しました。我々の世代の人生も一つの節目を迎えたのだな、と実感する出来事です。

 自分の立場や考え方を客観的に見ようとする時、歴史の流れの中に自分の人生を置いて考えてみることがあります。私が生まれた1960年代末、アポロが月に着陸し、スプートニクから始まる爆発的な宇宙進出の時代が終わりました。大学院で宇宙工学を専攻していた1990年代、H-II、M-Vの打上が始まり、急速に発展してきた日本の宇宙開発も平衡状態に至りました。他方、小学生の頃にスターウォーズ、ヤマト、ガンダムが公開・放映 され、人類社会が宇宙に進出した姿が「既定の未来」として焼き付けられました。

 こういう私の目に映るのは、現在の平衡状態に到った宇宙活動と、既定の「未来」の間にある大きな隔たりです。日々の改善・改良の功は多としなが らも、この漸進的な変化の先に「未来」があるようには見えず、この先のどこかで「断絶的な変化」が起こることは必然、と確信しています。もちろん、それがいつ、どのようなきっかけで起こるのかは予測できませんが。そして、この断絶的な「変化」の先にある「未来」から歴史を振り返る時、私の生きた時代はどのように見えるのか。このまま「変化」に到ることなく「停滞の時代」と呼ばれることになるのか、はたまた「変化」が起こって「節目となる重要な時代」と呼ばれることになるのか。

 技術の意義を考える時にも、この「歴史の中でどう見えるか」という視点が大切だと考えています。現有の技術の多くは「変化」の先の「未来」でも 有用とされ、綿々と続く技術の系譜の中に位置づけられるでしょう。しかし、中には「変化」の先では無用となり「停滞の時代の遺物」と呼ばれることになる技術もあるかもしれません。そして、「変化」の先の「未来」で必要とされていながら未だ実用化されていない技術、これが「変化」の一端を担うイノベーションとなる可能性を秘めているのではないか、と考えています。

 私がフィールドとする宇宙航行の分野で、そのような技術にあたるものは何か。何百、何千という宇宙機が太陽系を往来する「未来」、そこで必要と される技術は何か。私が考えるところを3点、述べたいと思います。

 第1は軌道間輸送機、すなわち輸送を専用に担う宇宙機です。現在の深宇宙探査機は「目的地への移動」と「目的地での活動」という2つの機能を併 せ持っています。これによりコンパクトな探査機でミッションを達成することができるわけですが、一方で探査機設計は複雑になり、ミッションごとに ユニークなものになります。何百、何千という宇宙機が飛ぶ時代、宇宙機はオーダーメードではなく量産されることになるはずです。ミッション間で共 通化しやすい「目的地への移動」の機能が分離・抽出され、「輸送機」として独立することになるでしょう。

 第2は自立航法、すなわち深宇宙を航行する宇宙機が、地上からの支援なしに自分の位置を知る技術です。今日、地球を周回する衛星は、GPSを用いることにより地上からの支援なしに自分の位置を知ることができるようになりました。しかし、深宇宙探査機は現在でも電波計測を元に地上で算出された位置情報を使って航行しています。つまり、「目的地への移動」という基幹機能において地上からの支援を前提とする、たとえていえば「電波という糸で地上につながれた凧」のようなものなのです。何百、何千という宇宙機が太陽系を往来する時代、宇宙機の航行は地上からの拘束を離れた自由なものになるはずです。自立航法機器、おそらく惑星や小惑星が見える方向を元に自分の位置を算出する機器が、すべての宇宙機に搭載されることになるでしょう。

 最後は推進機関についてです。実は推進機関については、「変化」の先の「未来」でも現有技術(化学推進や電気推進)が通用するのだろうと考えて います。もちろん改善・改良は必要とされ、どんどん進むと思いますが。
現在の深宇宙航行のように太陽重力が支配的な運動にとどまる限りは、往来する宇宙機の数が何百、何千になったところで、必要とされる推進機関が変 わることはないと思います。しかし、推進機関は変わらずともその使われ方には大きな変化が起こると考えています。太陽系を往来する何百、何千とい う宇宙機は、行く先々で燃料を補給するようになるでしょう。

 我々の世代の人生も折返点を迎えました。残り半分で「変化」が起こるかどうかはわかりません。しかし、「変化」の先にある「未来」という視点に 立つことで、綿々と続く技術の系譜に名を連ねることができ、もしかすると「変化」の一端を担うこともできるのではないか、と思うのです。

(川勝康弘、かわかつ・やすひろ)

新しいウィンドウが開きます http://kawakatsu.isas.jaxa.jp/

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※