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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第212号

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ISASメールマガジン   第212号       【 発行日− 08.10.06 】
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★こんにちは、山本です。

 今週末の11日に相模原キャンパスでは「M-Vロケット実機展示完成披露式典」が行われます。それにあわせて、M-Vロケットの向かい側に展示している「M-3SII型ロケット原寸模型」を洗浄しています。

 「M-3SII型ロケット原寸模型」は、長年の屋外展示で徐々に汚れてきたので、ピカピカのM-Vにあわせて、『化粧直し』中です。

 今週は、固体ロケット研究チームの荒川 聡(あらかわ・さとし)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:M-Vが相模原にやってくる
☆02:ASTRO-H衛星がプロジェクトとして出発
☆03:今週のはやぶさ君
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★01:M-Vが相模原にやってくる

 このメールマガジンを読まれている方の中には、きっと今年の一般公開にご来場いただいた方も多数いらっしゃるかと思います。一般公開の時にM-3SII型ロケット模型の正面に奇妙なオブジェのようなものがあったのをご覧になりましたか?実はあのオブジェのようなものはM-Vロケットの実機を展示するための土台なのです。M-Vロケットの展示については職員の宣伝や報道などで既にご存知の方もいらっしゃるかと思います。今回はそのM-Vロケットの展示について紹介いたします。


M-Vの実機

 全段固体ロケットとして世界最高の性能を誇ったM-Vロケットは2006年9月の7号機(ひので)打上を持って卒業となり、現在はその成果を活かした次期固体ロケットの研究が進められています。

 さてそのM-Vロケットですが、上記の7号機のほかに打上順で1号機(はるか)、3号機(のぞみ)、4号機(ASTRO-E残念ながら失敗)、5号機(はやぶさ)、6号機(すざく)、8号機(あかり)を打上げています。

 ....あれ? 2号機が抜けていることに皆さんはお気付きでしょうか?実は2号機は宇宙へ旅立つことなくM-Vロケットは卒業となったのです。2号機向けに製造された各部品類は最大限、他号機へ有効活用されたものの、5号機以降の機体は2号機の機体から大きくリニューアルされており、使用 できない部品も多数ありました。それらの使用できなかった部品を集めると外観だけでいえば、M-Vロケットそのものとなることがわかりました。そこで、M-Vロケットをぜひ展示しようという話となったのです。「実機」といっているのは、つまり一部(ノーズフェアリング、1段ノズル)を除いたほとんどの構成品が本物のロケットであるという事を示しています。


展示場所

 M-Vロケットは開発の主体となった宇宙科学研究所(現JAXA宇宙科学研究本部)の相模原キャンパスに展示されるのですが、相模原キャンパスのどこに設置しようかという議論がなされました。

「正門の近くが良い。」
「A棟の横に縦置きで展示しよう。」
「だったらいっそ斜めにしたらどうか?」(M-Vロケットには斜め発射という特徴があります。)
など本気とも冗談とも取れない言葉まで出ていました。縦置きについては、様々な方面での障害が大きく断念せざるを得ませんでしたが、議論の結果、M-3SII型の前に並べる事で、M-Vロケットの大きさや固体ロケットの歴史の流れを感じてもらおうという形で落ち着いたのです。


塗装

 今回の展示に当たっては、第2段モータであるM-24モータのように実際の試験(ISASメールマガジン187号参照)に用いられたモノもあり、スッピンではとても皆さんと顔をあわせられない状態でした。そこで、お化粧直しに各構成品を塗装することになりました。塗装に当たっては2点の懸念事項がありました。それはM-V-?号機にするのか?という事とM-Vロケットに用いられている「赤色」の再現です。

 M-Vロケットには各号機の数字が1号機であればM-V-1というように1段モータに縦書きされるのですが、設置場所の議論と同様に展示の機体は何号機がいいか?という話し合いがもたれました。

「展示だから“1”が無難か」
「“1”は内之浦にある。」
「思い切って“9”なんてどう」
「いやいや書かなくていいんじゃないか?」
「構成品を考えれば“2”だろう。」
「“7”って数字が俺は好きだ。」
「“3”!!(アホになって)」

 一部フィクションもありますがこんなやり取りもありつつ「ある数字」に決定したのですが、今は秘密としておきましょう。

 そんな風に決定したM-V-?の文字と1,2段モータに入る帯状のラインには、蛍光めいた赤ともオレンジとも云うような微妙な色が使われています。同じ色で塗装することも可能なのですが、蛍光色での塗装は色あせが激しく展示には不向きであるため、別の「赤」をもって再現する事となりました。塗装の際は色見本という小さな板に描かれた色を確認した後、実際に塗装を実施するのですが、色見本と塗装の雰囲気ではまた一味違ってしまう事 もあります。さんざん悩んだ末、M-Vロケットに一番詳しいであろうYさんの鶴の一声によって赤色が決定されたのでした。(いい色ですよ。)


組立・設置

 M-Vロケットは直径は2.5m、全長は30mを越える非常に大きなものです。塗装、1次組立を実施した工場からは4分割され、大型トレーラーに分乗して相模原キャンパスへ搬入されてきました。荷降ろしをされると、M-Vロケットの大きさを改めて感じることができます。組立設置にはクレーン車を用いて作業を進めていくのですが、実際のM-Vロケット運用時の感覚から云えば、本当に「あっ」という間に組みあがっていくような感じです。(当然、推進薬の有無をはじめとして条件は全く異なるのですが。)


 これまでにいろいろなことがあって実現した今回の展示ですが、実は私はその全貌をまだ見ていないのです。勤務地の関係で完成の際に立ち会う事が出来ませんでした。完成後は正式なお披露目までは「目隠し」を、という事で現在M-Vロケットはシートに覆われ、相模原キャンパスの職員、学生さんたちを焦らしているのです。

 M-Vロケットのお披露目はもうすぐです。今後は相模原キャンパスの新たなシンボルとして我々を見守ってくれる事と思います。皆さんも相模原に お越しの際はM-Vロケットの雄姿をご覧いただくと共に、M-V-?号機のペイントであるかを確認していただければと思います。

(荒川 聡、あらかわ・さとし)

http://www.isas.jaxa.jp/j/topics/event/2008/1011_mv.shtml

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※