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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第195号

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ISASメールマガジン   第195号       【 発行日− 08.06.10 】
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★こんにちは、山本です。

 このところ、毎週みなさんからの感想が届きます。筆者や関係者に転送して、読者のみなさんの生の声を読んでもらっています。
『研究の励みになります』という返事も返ってきます。

 今週は、宇宙探査工学研究系の吉光徹雄(よしみつ・てつお)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:人工衛星と自動車の深い関係
☆02:藤原定家の超新星残骸は、宇宙線加速の実験室
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★01:人工衛星と自動車の深い関係

 人工衛星と自動車って似ていると思いませんか?

 まず、人工衛星も自動車も、重さと大きさが似ています。軽自動車は1トン弱、大型トラックになると数トンで、大きさは数メートルから十数メートルです。人工衛星は、重さ1kg以下という超軽量のものもありますが、やっぱり、500kgくらいから数トンのものが主流で、大きさは数メートル。もっとも、自動車には人を詰め込むスペースと、人が操作するための各種コントローラが付いていますが、人工衛星だと、これらは有人宇宙船だけに付いています。

 次に、両者ともエンジンを持ってます。自動車が持っているエンジンはガソリンを使うオットーサイクルエンジンや軽油を使うディーゼルサイクルエンジンが主流ですが、これらは燃料を燃やして動力を得る内燃機関です。
人工衛星にも、その姿勢や軌道を制御するために、燃料を燃やして推力を得るスラスタが付いています。自動車も人工衛星も動力を得る仕組みは多様化しています。この他のエンジンとしては、モータを動力源とする電気自動車や、プラズマ化したイオンが持つ電荷を電界中で加速して放出するイオンエンジンなどがあります。

 また、使用される環境が厳しいことも共通しています。このため、部品としてタフなものを使う必要があります。自動車のエンジンルームは下手をすると温度100℃以上になり、そのような環境でも誤動作しない電子機器を使う必要があります。人工衛星も宇宙空間の空気のない環境で使われるため、その熱的対策が重要になってきます。

 そして、今やどちらともエレクトロニクス機器であるという点です。1980年代までの自動車はエンジンが主なる機械でした。この時代の自動車はどこか壊れてもすぐに直せましたし、機械なので壊れる予兆がありました。エンジンの出来が車の良し悪しを決めていたように思います。

 しかし、1990年代以降の自動車では、エンジンはエレクトロニクスで制御される1つの機器に成り下がった感があります。今や、多い車では数十個のコンピュータが車に搭載され、エンジンもキャブレタではなく、電子制御されたインジェクタから燃料を供給されています。電子制御によって、エンジンの燃焼をコントロールして燃費を向上させることが重要になっています。

 他にもあるかもしれません。しかし、こんなに共通点があるのですから、人工衛星と自動車って似ていますよね?

 何を言っているんだ! 自動車は同一車種が年間数十万台生産され、1台の値段も人工衛星に比べるとベラボウに安いではないか? 自動車は普通の人が買えるけど、人工衛星は普通の人には買えないでしょう!?

 確かにそうですね。似ていると言っても、市販車ではなく、フォーミュラ1のレーシングカーでしょうか。フォーミュラ1のチームは、年間数百億円の予算を使い、そのファクトリには数百人の人が働いています。そして、年間18戦(2008年)のレースを戦うために、年間数台の特注レーシングカーを作っています。

 ここ相模原キャンパスにも職員と学生の数をあわせると、数百名。年間に使っている予算も数百億円で、1つのフォーミュラ1のチームがあるようなものでしょうか。

 このように両者には共通点が多いと個人的に勝手に思っているわけですが、最近言っていることもよく似ています。
「安く、早く、信頼性を高く」
「部品の共用化」
などです。両者の世界を見ると、人工衛星は自動車のちょっと後ろを歩いており、自動車の世界で叫ばれていることと同じことが、数年後に、人工衛星の世界でも叫ばれるという印象です。その代表例が、ネットワークバスです。

 自動車も人工衛星も内部にたくさんの機器があり、それらを相互につなげてデータをやりとりする必要があります。

 昔の自動車では、内部の機器を必要なもの同士、ケーブルでつないでいました。すると、機器の数が増えるに従い、1台の自動車あたりのケーブルの重さが100kgを超えてしまうという事態になりました。これはまずいということで、今では、用途に応じて複数のネットワークを張り、機器を全部ネットワーク上に配置しています。これにより、ケーブルの延べ長さがかなり短くなり、ケーブルの質量が減ったとのことです。この自動車のネットワークは国際規格になっており、多くの自動車メーカで共通に使っています。速度に応じていくつか規格がありますが、一番有名なのがCANです。

 一方、人工衛星のネットワーク化は早くから行なわれていました。ほとんどの衛星は内部にネットワークを持っています。中には相模原だけで使われている規格もありますが、国をまたがって使われている規格もあります。
その人工衛星のネットワークで問題となるのは、電力と信頼性。ネットワークに高速のデータを流すほど、ネットワークケーブル自体が消費する電力が大きくなりますし、ケーブルが不通になるとデータ伝送ができなくなるので、冗長化が必須です。そして、今、それらを考慮した新しいネットワーク規格ができつつあります。これが、SpaceWireです。日本からも参加して作った 国際的な規格です。これからの人工衛星は、SpaceWireを使ったものがどんどんでてくるでしょう。

 やっぱり、人工衛星と自動車は似てますよね。

(吉光 徹雄、よしみつ・てつお)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※