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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第190号

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ISASメールマガジン   第190号       【 発行日− 08.05.06 】
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★こんにちは、山本です。

 ゴールデンウィーク中のISASは、アメリカハナミズキが満開です。
白い花の木が多く、夕暮れの中、ちょっと雪が積もっているようにも見えます。

 夏休み恒例の『きみっしょん』の募集が始まりました。昨年度の応募者のほとんどが、メールマガジンまたは、Webで知ったとのことです。

 さて、今年の応募者はどれくらいの人数になるでしょうか?

 あっ、それから 水ロケット大会もお忘れなく。

 今週は、赤外・サブミリ波天文学研究系の山村一誠(やまむら・いっせい)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:デンバーで、星を語らい、ビールを飲む
☆02:「第7回 君が作る宇宙ミッション」の参加者募集
☆03:国際水ロケット大会のお知らせ
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★01:デンバーで、星を語らい、ビールを飲む

 4月上旬にアメリカはコロラド州デンバーというところに行ってきました。もちろん仕事です。当地のデンバー大学から、学生向けの小さな講義をいくつかやるように頼まれたのです。招待してくれたのは私と共同研究をしている日本人の先生とそのボスにあたる教授で、彼らとの共同研究の打ち合わせも目的の一つでした。

 私自身はアメリカにはなかなか行ったことが無く、もちろんコロラドは初めて。不見識でしたが、ロッキー山脈の玄関口だそうで、空港には今の時期にもスキーヤーがたくさんいました。スキーをやらない私には、それよりもコロラドの地域は地ビールが盛んで、酒屋さんやレストランに行くとあまたの種類のビールが並んでいたことの方が魅力的でした。もちろん満喫させて頂きました。

 さて、前述のとおり、今回の訪問の目的の一つは、共同研究の打ち合わせです。「あかり」は赤外線で宇宙のさまざまな天体を観測していますが、そのうちの重要なターゲットの一つが、星の一生の最後にある赤色巨星です。
「赤色」という名前の通り、そういう星は赤い光や赤外線をたくさん出しています。星自体が赤いだけではありません。この時期の星の多くは、大きく膨らんだ星の表面から、ガスやチリを周囲に吹き出しているのです。そのような物質は、長い時間の後にまた新たな星や惑星を作る材料となります。
太陽や地球、私たちの身体にも、かつて赤色巨星から放出されてきた物質が含まれているのです。

 私たちの研究グループでは、星が一生の終わりにどれくらいの物質を、どのように宇宙にまき散らしているかを詳しく調べています。「あかり」による高感度・高解像度の観測で、星からずっと昔(数千年〜数万年前)に吹き出し、星からずっと遠くまで拡がっている、冷たいチリが放つ微弱な赤外線をとらえることが出来ました。星から遠くに拡がっているほど、昔に星を出発したと考えられますから、ちょうど木の年輪を数えるように、星がこれまでにどのような活動をしてきたかを知ることができるのです。私たちの観測では、既に100個程度そのような星を見つけています。これは、過去に得られたものに比べて一桁も大規模な、たいへん貴重なデータです。

 いろいろな星の赤外線画像を見ていると、星のまわりに拡がったチリは、それぞれ個性豊かな年輪を刻んでいることが分かります。木の成長と同様、年輪が出来るときには周囲の環境に影響を受けるようです。星と星の間の宇宙空間は空っぽではなく、とても薄いガスやチリで満ちています。その薄さと言えば、角砂糖一個分の大きさに、水素原子がほんの一つとか、あるいはそれ以下です。星は、その中を各々決まった方向へ動いていきます。星から吹き出たガスやチリは、周囲の薄いガスを押しのけながら拡がっていくわけですが、その時に「吹き流され」て形がいびつになります。このことは、以前の観測でもおぼろげに見えていたし、最近スピッツァー宇宙望遠鏡の観測(今回アメリカに招いてくれた人たちの研究です)で見事な例が示さたところです。「あかり」のたくさんの高画質のデータを見ていると、宇宙の中を動いていく星が、自らの個性と周囲の環境によってさまざまな顔をしているのが分かります。

 今回のデンバー訪問では、このような星の一つをとりあげて、「あかり」にスピッツァー宇宙望遠鏡のデータも加えて、徹底的に議論しました。最終的な結論に至るには短すぎた滞在でしたが、この星の過去について、また星の周囲の様子について、おもしろい結果が得られそうです。何よりも、雑事を(ほとんど)忘れて、科学的な議論をたくさん出来たのは久しぶりで、たいへん有意義な時間を過ごしました。今回の議論、そして「あかり」がもたらした豊かな結果が早く皆様にお聞かせ出来るように、と思いながらビールに酔った一週間でした。

(山村一誠、やまむら・いっせい)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※