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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第178号

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ISASメールマガジン   第178号       【 発行日− 08.02.12 】
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★こんにちは、山本です。

 連休に降った雪は、2月の日差しにあっという間に融けてしまいました。
まさに【春の淡雪】でした。

 正月に【BS-i】で放送された『2008年宇宙の旅』の第2回(チャプター2〜火星)は、2月16日(土)の19:00〜20:24に放映されます。もちろん、ナビゲーターの宇宙の先生は、広報委員長の阪本成一先生です。

 今週は、技術開発部実験用飛翔体機器開発グループの鵜野将年(うの・まさとし)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:人工衛星や探査機などの長寿命化 〜スーパーキャパシタ〜
☆02:S-310-38号機、打上げ成功!
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★01:人工衛星や探査機などの長寿命化 〜スーパーキャパシタ〜

 このメールマガジンをご覧になっている皆さんの多くは携帯電話やノートパソコンのバッテリに不満を持っているのではないでしょうか。今日はバッテリの寿命についてお話したいと思います。

 最も身近な例として、皆さんが日頃使われている携帯電話ですが、購入当初は連続で2時間くらい通話できていたものが、1年ほど経過すると30分くらいしか通話できなくなったという経験をお持ちの方が多いのではないでしょうか。ノートパソコンなども同様です。そして、バッテリの持続時間が短くなって不便を感じると「仕方がないな」と思って買い換えます。

 宇宙空間で地上を周回する人工衛星や地球以外の惑星に向かう惑星探査機の場合はどうでしょうか。ひとたび宇宙に飛び出してしまえば、簡単にはバッテリの交換はできません。しかも人工衛星や惑星探査機用のミッションは5〜10年と長期間に渡るため、バッテリにも5〜10年の長寿命が必要とされます。

 人工衛星のバッテリでは長持ちさせるためにバッテリを優しく使っています。人間が全力で疾走した時はすぐにバテてしまうのと同じで、バッテリも全力で働くと早く寿命がきてしまいます。人工衛星のバッテリは人間がマラソンをする時と同じように、適度(2〜3割)の力で働くことによって寿命を確保しています。

 しかし近年では宇宙ミッションの高度化に伴い、バッテリに要求される寿命も長くなってきています。その場合、いくらバッテリがマラソンランナーのような働き方をしても、要求される寿命を満足させることは難しくなってきます。そこで登場するのがスーパーキャパシタです。

 キャパシタとは電子回路などに用いられる電気を蓄える電子部品のことです。そのキャパシタにスーパーという言葉がついています。文字通り、超たくさんの電気を蓄えられるキャパシタです。バッテリは化学反応により電気を蓄えたり発生したりしますが、この化学反応こそがバッテリが劣化する要因となっています。しかしスーパーキャパシタは電気を蓄えたり発生したりする際に原理上化学反応が起こりません。つまりほとんど劣化しないのです。
バッテリではすぐに劣化してしまう全力疾走のような使い方をしても、スーパーキャパシタはほとんど劣化しません。実際に私は実験でキャパシタの寿命評価をしていますが、ほとんど劣化が起こりません。いつまで経っても性能が落ちないので、評価実験が終わらなくて困っているくらいです。

 その他にもスーパーキャパシタにはメリットがあります。冬の寒い日に車のエンジンがかかりにくい経験があると思います。それは寒いときにはバッテリの性能が低下してしまうからです。また、暑いときには劣化が顕著に進行してしまいます。しかしスーパーキャパシタは寒い場所でもほとんど性能低下がなく、暑い時にもバッテリと比べて劣化はあまり起こりません。寒さ暑さに強いのです。これは衛星などに用いる場合、非常に都合の良いことです。人工衛星に搭載されるバッテリは寿命を確保するために、入念な熱設計・温度制御により寒くなりすぎたり暑くなりすぎたりしないように温度調節が行われています。しかしスーパーキャパシタは幅広い温度で性能を発揮するため、熱設計・温度制御の条件を緩く設定することができます。例えるならば、冬にストーブ、夏にクーラーを必要とするのがバッテリで、冬はカイロ、夏はうちわ程度で済むのがスーパーキャパシタといったところでしょうか…。いずれにせよスーパーキャパシタの方が何かと都合が良いのです。

 ここまではスーパーキャパシタの良い所を説明してきましたが、やはり欠点もあります。それはエネルギーが少ないことです。現状ではリチウムイオン電池などと比べると10分の1くらいのエネルギーしかありません。しかし、先ほど説明したように、人工衛星に搭載されるバッテリは寿命を確保するために2〜3割の力で働きます。それに対して、スーパーキャパシタは全力で働くことが出来ます。もうお分かりでしょうが、力の強い人(バッテリ)の2〜3割の力と、力の強くない人(スーパーキャパシタ)の全力の力、どちらが強いのか?という構図になってきます。このように考えることによってバッテリとスーパーキャパシタのエネルギーの差はぐんと縮まります。しかし、これでもまだバッテリのエネルギーの方が大きいのが現状です。今後はスーパーキャパシタの性能が改善されることにより、いっそうバッテリとの差は縮んでいくことでしょう。

(鵜野将年、うの・まさとし)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※