宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > ISASメールマガジン > 2008年 > 第176号

ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第176号

★★☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ISASメールマガジン   第176号       【 発行日− 08.01.29 】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★こんにちは、山本です。

 先週、相模原にも雪が降りました。昼過ぎまでチラチラと降っていましたが、帰る頃にはもうシャーベット状になっていて、翌日にはもう消えてしまいました。

 「春の淡雪」と言いたいところですが、まだ「寒」の最中なのですね

 今週は、宇宙航行システム研究系の小川博之(おがわ・ひろゆき)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:「日本はパワードスーツをやるべきだ」
☆02:観測ロケットS-310-38号機の打上げは1月31日に延期
☆03:「NHKのど自慢」で相模原キャンパス紹介
───────────────────────────────────

★01:「日本はパワードスーツをやるべきだ」

 これは国際環境システム会議(International Conference on Environmental Systems)に出席したときに、出席者と気軽に立ち話をしていたときに、あるメーカの方がおっしゃられたことです。

「とても面白いな」と思いました。
(私は宇宙服に関して専門ではなく素人なので、内容が正確でないかもしれません。予めご了承ください。)

 アメリカでは、月そして火星に人を送り込み探査しようとしています。
宇宙服も月面重力下、火星面重力下での動作だとか作業性に注目した研究が精力的に行われています。例えば、「宇宙服の重心をどこに設定すると歩きやすいか」といった研究などです。月面と火星面では重力の大きさが違うので、最適な重心の位置も変わってきます。また、アリゾナ州フラッグスタッフ近くの砂漠では、月探査や火星探査の野外試験が行なわれていて、宇宙服や重機、移動のための自動車、地震計などの科学観測機器、探査ロボット、通信機器の試験が大規模かつ実践的に行なわれています。アメリカは本気です。

 今の船外活動用宇宙服は、断熱・熱制御や放射線遮蔽や気密のためのカバーがあり、重く(約120kg)て、月表面の重力が地球表面の約6分の1、火星表面の重力は地球表面の約3分の1とはいえ、重力下での作業は厳しいです。上述の野外試験に供されている最新型の軽量化された宇宙服で40〜60kgですが、これに生命維持装置(40kg)が加わるので、やはり重いです。また宇宙服は中が0.3気圧くらいになっています。この0.3気圧というのは、動きをなるべく妨げず(圧力で宇宙服が張って動きにくくなる)、人間が耐えられるギリギリの圧力になっています。そのため、宇宙飛行士は減圧症にならないように徐々に体を慣らしてから船外活動しています。中の圧力を1気圧といわないまでも0.6気圧くらいにできれば良いのですが、圧力に耐えるために重くなることと、圧力で宇宙服が張って動きにくくなるという欠点があります。

 それで、ロボット技術やパワーアシスト技術をもつ日本が「パワーアシスト付の宇宙服」(パワードスーツ)を開発すれば、月有人探査や火星有人探査に国際的にとても有意な貢献ができるのではないか、というのが冒頭の意見でした。私もそう思いました。「パワーアシスト付の宇宙服」であれば、重さとか動きにくさを克服でき、宇宙服の中の圧力を1気圧くらいにしても、重さを感じず自由に動ける宇宙服を作れるのではないかということです。

 宇宙服の中の気体の圧力によって体に圧力を加える代わりに、宇宙服自体で機械的に体に圧力を加えるタイプの宇宙服の開発もされているようです。気密部分が要らなくなるので、かなり軽量化されるようです。レオタードのように体にピッタリ付くタイプで、BiosuitとかMechanical Counter Pressure方式の宇宙服とか呼ばれています。動きとか重さの点では画期的で、とてもかっこいいのですが、まだ実用化には遠いようです。断熱・熱制御や放射線遮蔽をどうやるかも課題だと思われます。

 宇宙服には、打ち上げ時と帰還時に着用するものと、船外活動時に着用するものと2種類あります。打ち上げ時と帰還時に着用する宇宙服は、海に落ちても大丈夫など、事故時を想定したつくりになっています。このタイプの宇宙服を作っているのは、アメリカ、ロシア、中国です。そして、船外活動宇宙服を作っているのはアメリカとロシアです。アメリカとロシアでは、船外宇宙服の内部圧力は異なっていて、アメリカは約0.3気圧、ロシアは約0.4気圧です。なので、ロシアの船外活動宇宙服の方が、宇宙飛行士の準備(減圧)の時間が少なくて済みます。

 私はもともと宇宙服にとても興味があり、技術屋としてパワードスーツにはとても惹かれるのですが、今のところ研究はおこなえていません。いずれやってみたいと思っています。

 ところで、自分が宇宙旅行で行くなら宇宙を肌で感じられ、自分自身で自由に動けるレオタードタイプがいいかなと思います。パワードスーツにも乗ってみたい気がしますが。皆さんはどう思われますか?

(小川博之、おがわ・ひろゆき)

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※