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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第172号

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ISASメールマガジン   第172号       【 発行日− 08.01.01 】
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★明けましておめでとうございます。山本です。

 2008年最初のISASメールマガジンをお届けします。今年も、読者の皆さんに喜んでいただけるようなメールマガジンを目指して、がんばります。

 年末のお約束どおり、新年の一番手は、広報委員長の阪本成一(さかもと・せいいち)さんです。

 今夜【BS-i】で放送される『2008年宇宙の旅』のナビゲーター・宇宙の先生としても登場しています。モチロン、わが家ではフルハイビジョンのテレビで観るつもりです。

詳しくは、
新しいウィンドウが開きます http://www.bs-i.co.jp/app/program_details/index/KDT0800100

追伸:上記HPの写真で上段右側が阪本先生です。

── INDEX──────────────────────────────
★01:月の地名
☆02:宇宙科学の最前線
☆03:JAXAタウンミーティング
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★01:月の地名

 新しい年が始まりました。昨年は、9月14日に打ち上げられた「かぐや」がすばらしいデータを届け始めてテレビや新聞などでも大きく取り上げられたほか、「あかり」や「すざく」や「ひので」といった天文観測衛星が目覚しい成果を次々と発表し、「はやぶさ」も地球帰還に向けた本格的巡航運転を開始するなど、新米の広報担当者としては嬉しい悲鳴を上げた一年でした。
2008年がいったいどのような年になるのか、とても楽しみです。

 ところで、「かぐや」の画像はご覧いただけたでしょうか。「かぐや」の活躍もあって月への関心がとても高まっているようで、最近よく以下のような質問をお受けします。

 「月のクレーターの名前はどのようにして決まるのですか?」

 「かぐや」が発見する無数の小クレーターへの命名権について期待が高まっていることの表れだと思います。正式な回答については
新しいウィンドウが開きます http://planetarynames.wr.usgs.gov/(英文)をご覧いただくとして、以下で私なりにかみくだいてまとめてみることにします。

 まず第一に、月をはじめとする天体は誰のものでもありませんし、むやみやたらに名前をつけたりすると混乱しますから、特に必要のない限り固有の名前はつけません。研究を進めるうえでいちいち中心の座標で指し示すのが不便な場合に、固有の名前で呼ぶわけです。第二に、命名権は発見者にあるわけではなく、公式な命名は国際天文学連合(IAU)に委ねられます。
具体的な手順としては、

(1)新地形を含む画像が得られたら、そこから特徴的な地形を選び出し、重要なものにそれぞれの天体の「命名タスクグループ」が名前をつける。

(2)その後、より高解像度の画像や地図が得られたら、タスクグループは研究者からの要請により、さらに名づけるべき地形を選定し、名前の妥当性を審査し、命名案を決定してIAUの「惑星系命名作業部会」(WGPSN)に提出する。このとき名前の提案は誰でもできるが、採用される保証はない。

(3)WGPSNはタスクグループからの提案を審査し、命名案を仮承認する。

(4)3年ごとに開催されるIAU総会(次回は2009年)でWGPSNの仮承認内容を正式に承認し、惑星地名辞典に掲載される。

という流れになります。

 ここでさらに注意しなければならないのは、学術的な重要性が認められない限りは名前はつかないということです。実際、これまで知られていたクレーターの全てに固有名があるわけではなく、大きなクレーターの周辺のクレーターには、その大きなクレーターの名前にアルファベット記号をつけて呼ぶ(これを「サテライトフィーチャー」と呼びます)ことが多くなっています。名前のついたクレーターの数は1519個(このうち日本人はナガオカやニシナやヒラヤマなど11個)ですが、サテライトフィーチャーは7000個あまりあることからも、状況はご理解いただけるものと思います。
実際、月のクレーターの場合、最近はほとんど命名はなされておらず、命名されたケースでも、1988年にはチャレンジャー事故の犠牲者7名のみが対象となりましたし、2006年にも命名されたのは1名を除くとコロンビア事故の犠牲者7名でした。まして今後発見される小さなクレーターの全てに名前をつける必要はありません。逆に、IAUの命名規則では「科学的に特に興味深い特徴を持つものを除いて最大長100m未満の地形的特徴には公式には名前をつけない」とされているぐらいです。小惑星イトカワの地名として正式に認められたのも3つだけでした。
名前の候補の選び方にも注意が必要で、月のクレーターの場合には「業績が国際的に認められた科学者や哲学者や冒険家や芸術家で、原則として没後3年以上経過していること」とされています。また、「政治的、軍事的、宗教的な意味合いの強い名前は使わない」などのしばりもあります。

 以下は私見ですが、IAUの命名規則に「人物の名前をつけるのが目的であってはならない」とわざわざ書いてあることからも分かるように、正直なところ研究者はクレーターへの命名云々で世間が騒ぐのにやや辟易としています。そうはいっても私も日本人ですから、これから研究が進むにつれて命名の提案の必要が生じた際に、例えば極域のクレーターにシラセとかウエムラとかの名前がつけばいいなという願いもあります。そういう願いは持ちつつも、日本からの提案が日本人の名前ばかりで国際的な反感を買い国家の品格をおとしめるようなことにならないように、広い視野と冷静な対応、周到な準備が必要でしょう。

 それにしても、この騒ぎの発端となった「かぐや」からのハイビジョン画像、月から遠路38万キロを延々とハイビジョン画質でやってきて、自宅にあるテレビにたどり着いたところで画質が一気に落ちます。うーむ、、、
立場上そろそろハイビジョンテレビを買わなきゃいけないかな。

(阪本成一、さかもと・せいいち)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※